オミクロンKP.2株は現在流行中の変異株と比較して、より高い免疫逃避能を保持することが明らかとなりました。この変異株は今後全世界に拡大し、流行の主体になる可能性が懸念されています。そのため、有効な感染対策を講じることが肝要です。
発表概要
東京大学医科学研究所システムウイルス学分野の佐藤佳教授が主宰する研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan)」(注1)は、世界保健機関(WHO)により「注目すべき変異株(variants of interest, VOI)」(注2)に分類されている「オミクロンJN.1株」から派生した「オミクロンKP.2株」の流行動態や免疫抵抗性等のウイルス学的特性を明らかにしました。
統計モデリング解析により、オミクロンKP.2株は、現在の流行株であるオミクロンJN.1株やその先祖株であるBA.2.86株よりも高い実効再生産数(注3)を示すことを複数の地域において確認しました。また、オミクロンKP.2株は、オミクロンXBB系統株(XBB.1.5株、EG.5.株、HK.3株)およびオミクロンJN.1株のブレイクスルー感染(breakthrough infection, BTI)(注4)やオミクロンXBB.1.5株対応1価ワクチン(注5)接種によって誘導される中和抗体(注6)に対してオミクロンJN.1株より強い抵抗性を示すことが分かりました。
本研究成果は2024年5月20日、英国科学雑誌「The Lancet Infectious Diseases」オンライン版で公開されました。
発表内容
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、2024年5月現在、全世界において7.7億人以上が感染し、700万人近くを死に至らしめています。これまでにワクチン接種が進み、世界的にも感染者数や死亡者数は減少傾向にあるものの、現在も種々の変異株の出現が相次いでおり、2019年末に突如出現したこのウイルスの収束の兆しは未だ見えていません。
2023年8月中旬に、それまでの流行株であるオミクロンXBB系統の変異株とは系統的に大きく異なるオミクロンBA.2.86株が同定され、複数の地域から検出されるようになりました。オミクロンBA.2.86株は、オミクロンBA.2株の子孫株であるものの、オミクロンBA.2株と比較して、スパイク(S)タンパク質(注7)に30ヶ所以上もの変異が認められます。その後オミクロンBA.2.86株は世界各地で緩やかに流行を拡大していったことから、2023年11月にオミクロンXBB系統の変異株であるEG.5.1株とその子孫株であるHK.3株とともにWHOより注目すべき変異株(variants of interest, VOI)に指定されています。
同月からはオミクロンBA.2.86株の子孫株でSタンパク質の455番目のアミノ酸がロイシン(L)からセリン(S)に置換された変異(S:L455S変異)を持つオミクロンJN.1株(別名:BA.2.86.1.1)の感染が世界中で急速に拡大し、2024年3月にはオミクロンJN.1株の派生株オミクロンKP.2株(別名:JN.1.11.1.2)が検出されるようになりました。そして、検出数が徐々に増えたことより5月3日にはWHOより監視下の変異株(variants under monitoring,VUM) (注8)に指定されています。
オミクロンKP.2株はS:L455S変異に加え、Sタンパク質の346番目のアミノ酸がアルギニン(R)からトレオニン(T)に置換された変異(S:R346T変異)および456番目のアミノ酸がフェニルアラニン(F)からロイシン(L)に置換された変異(S:F456L変異)を有しており、これらのアミノ酸変異がオミクロンKP.2株の流行拡大に重要であると予想されます。
本研究ではオミクロンKP.2株の流行拡大のリスク、およびウイルス学的特性を明らかにするため、まずウイルスゲノム疫学調査情報を基に、ヒト集団内におけるオミクロンKP.2株の実効再生産数を推定しました。その結果、オミクロンKP.2株の実効再生産数は、現在の主流行株であるオミクロンHK.3株やJN.1株よりも高いことが複数の地域において確認されました(図1)。これは、今後オミクロンKP.2株が主流行株のひとつになり得る可能性を示しています。
公共データベースに登録されたウイルスのゲノム配列から数理モデルを用いて各変異株の実効再生産数(伝播力の指標)を推定した。縦軸は変異株の実効再生産数を、オミクロンJN.1株の値を基準として示している。値が大きいほどウイルスの伝播力が高いことを示す。
次に、培養細胞におけるウイルスの感染性を評価しました。オミクロンKP.2株は親系統株であるオミクロンJN.1株と比較して低い感染価を示しました(図2)。
SARS-CoV-2変異株それぞれのSタンパク質を発現したウイルスの感染価を評価した。縦軸はオミクロンJN.1株の感染価を100%としたウイルスの感染価を示しており、値が高いほど感染価が強いことを意味する。グラフ上部にStudentのt検定(両側検定)によるp値を示している。
次に、オミクロンKP.2株に対する、オミクロンXBB.1.5株対応1価ワクチン接種により誘導される中和抗体の中和活性について検証しました。さらに、オミクロンXBB系統の変異株であるオミクロンXBB.1.5株、オミクロンEG.5.1株、オミクロンHK.3株、ならびにオミクロンJN.1株のブレイクスルー感染によって誘導される中和抗体の中和活性についても検証しました。その結果、オミクロンKP.2株は、いずれの中和抗体に対しても親系統株であるオミクロンJN.1株よりも高い中和抵抗性を示すことがわかりました(図3,4)。
オミクロン株対応1価ワクチンの接種前にオミクロンXBB系統の変異株に感染歴のある群と無い群それぞれの対象者において、オミクロンXBB.1.5株対応1価ワクチンによって誘導される中和抗体の感染中和活性を評価した。縦軸はウイルス感染を50%阻害する中和抗体の感染中和活性(NT50)を示し、値が大きいほど中和活性が高いことを示す。横軸括弧内の数字はそれぞれの変異株に対するNT50値の幾何平均を示している。また、図中にオミクロンJN.1株と比較した際の、オミクロンKP.2株の中和抗体に対する抵抗性倍率を、ウィルコクソンの符号順位検定結果のP値とともに示している。
オミクロンXBB.1.5株、オミクロンEG.5.1株、オミクロンHK.3株、およびオミクロンJN.1株のブレイクスルー(BTI)感染によって誘導される中和抗体の感染中和活性を評価した。縦軸はウイルス感染を50%阻害する中和抗体の感染中和活性(NT50)を示し、値が大きいほど中和活性が高いことを示す。横軸括弧内の数字はそれぞれの変異株に対するNT50値の幾何平均を示している。また、図中にオミクロンJN.1株と比較した際の、オミクロンKP.2株の中和抗体に対する抵抗性倍率を、ウィルコクソンの符号順位検定結果のP値とともに示している。
以上のことから、オミクロンKP.2株は現在流行中の変異株と比較して、より高い免疫逃避能を保持することが明らかとなりました。この変異株は今後全世界に拡大し、流行の主体になる可能性が懸念されています。そのため、有効な感染対策を講じることが肝要です。
現在、研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan)」では、出現が続くさまざまな変異株について、ウイルス学的な特性の解析や、中和抗体や治療薬への感受性の評価、病原性についての研究に取り組んでいます。G2P-Japanコンソーシアムでは、今後も、新型コロナウイルスの変異(genotype)の早期捕捉と、その変異がヒトの免疫やウイルスの病原性・複製に与える影響(phenotype)を明らかにするための研究を推進します。
発表者
東京大学医科学研究所 感染・免疫部門 システムウイルス学分野
佐藤 佳(教授)
郭 悠(特任助教)
瓜生 慧也(特任研究員)
小杉 優介(日本学術振興会特別研究員、大学院生)
奥村 佳穂(技術補佐員)
山岨 大智(客員研究員)
伊東 潤平(准教授)
研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan)」
論文情報
〈雑誌〉The Lancet Infectious Diseases
〈題名〉Virological characteristics of the SARS-CoV-2 KP.2 variant
〈著者〉郭 悠#,瓜生 慧也#, 小杉 優介#, 奥村 佳穂#, 山岨 大智, 上蓑 義典, 倉持 仁, 貞升 健志, 吉村 和久, 浅倉 弘幸, 長島 真美, The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan) Consortium, 伊東 潤平, 佐藤 佳*.
(#Equal contribution; *Corresponding author)
〈DOI〉 10.1016/S1473-3099(24)00298-6
〈URL〉 https://www.thelancet.com/journals/laninf/article/PIIS1473-3099(24)00298-6/fulltext
研究助成
本研究は、佐藤佳教授に対する日本医療研究開発機構(AMED)「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(JP243fa727002)」、AMED 先進的研究開発戦略センター(SCARDA)「ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点の形成事業(UTOPIA, JP243fa627001h0003)、AMED SCARDA「ワクチン・新規モダリティ研究開発事業(JP243fa727002)」、科学技術振興機構(JST) CREST(JPMJCR20H4)、日本学術振興会(JSPS)「国際共同研究加速基金(国際先導研究)(JP23K20041)」、JSPS 「基盤研究(A)(JP24H00607)」、伊東 潤平准教授に対するJST「さきがけ(JPMJPR22R1)」、JSPS 「若手研究(JP23K14526)」などの支援の下で実施されました。
用語解説
(注1)研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan)」
東京大学医科学研究所 システムウイルス学分野の佐藤佳教授が主宰する研究チーム。日本国内の複数の若手研究者・研究室が参画し、研究の加速化のために共同で研究を推進している。現在では、イギリスを中心とした諸外国の研究チーム・コンソーシアムとの国際連携も進めている。
(注2)注目すべき変異株(VOI:variants of interest)
SARS-CoV-2の流行拡大によって出現した、顕著な変異を有する変異株のことであり、今後感染者の増加が懸念される変異株。
(注3)実効再生産数
特定の状況下において、1人の感染者が生み出す二次感染者数の平均。ここでは、変異株間の流行拡大能力の比較の指標として用いている。
(注4)ブレイクスルー感染(BTI:breakthrough infection)
新型コロナウイルスワクチンを2回接種したのち、2週間以上経ってからSARS-CoV-2に感染すること。
(注5)オミクロンXBB.1.5株対応1価ワクチン
オミクロンXBB.1.5株のスパイクタンパク質の設計図となるメッセンジャーRNA(mRNA)を有効成分とする1価ワクチン。
(注6)中和抗体
獲得免疫応答のひとつ。B細胞によって産生される抗体でSARS-CoV-2の主にスパイクタンパク質の細胞への結合を阻害し、ウイルス感染を中和する作用がある。
(注7)スパイク(S)タンパク質
新型コロナウイルスが細胞に感染する際に、細胞に侵入するために必要な構造タンパク質。現在使用されている新型コロナウイルスワクチンの主な標的となっている。
(注8)監視下の変異株(variants under monitoring, VUM)
新型コロナウイルスの変異株のうち、世界保健機関(WHO)が指定する今後流行拡大の可能性が懸念される変異株。
問合せ先
〈研究に関する問合せ〉
国立大学法人東京大学医科学研究所 感染・免疫部門 システムウイルス学分野
教授 佐藤 佳(さとう けい)
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/lab/ggclink/section04.html
〈報道に関する問合せ〉
国立大学法人東京大学医科学研究所 プロジェクトコーディネーター室(広報)
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/
路上で日本人を殺害したフランス人
9月29日深夜1時半頃、ネオン煌めく東京・新宿歌舞伎町の区役所通り―。男性とキャバ嬢が肩を並べて歩いていた。
そこに突如、大柄のフランス人が割って入り、彼女をナンパし始めた。彼女は無視して通り過ぎる。ところが、そのフランス人が執拗に声をかけ続けるため、男性が止めに入った、その直後。
「ゴンッ!」
通行人が思わず振り返るほどの嫌な音が周囲に響き渡る。両手で突き飛ばされて、道路に頭を強く打ちつけた男性は動かない。そのまま彼が起き上がることはなかった。
「警視庁は、自称フランス国籍のラフォレ・アレクサンドル・マチュー容疑者(33歳)を現行犯で逮捕しました。被害にあった野上明彦さん(67歳)は、急性硬膜下血腫を負い、搬送先の病院で死亡。警察は傷害致死の疑いで捜査を進めています。二人の間に面識はなく、マチュー容疑者は『全く覚えていない』と供述しているそうです」(全国紙社会部記者)
犯人の現場での様子
事件が起きた区役所通りの現場に居合わせた男性は、当時のことをこう振り返る。
「そのフランス人は泥酔し、『俺のほうがカッコいいだろ』と日本語でナンパしていました。
それから、女性のお尻まで触る粗暴なふるまいをし始めた。さすがに男性が怒ったのですが、フランス人は彼を突き飛ばすと逃げたんです。近くにいたキャッチや黒人たちも駆け付けて、取り押さえていました」
亡くなった野上さんは近所では「独居老人」として知られていた。近隣住民はこう語る。
「10年くらい前かな、野上さんは母親の介護のために、東京の実家に戻ってきたんです。結婚している様子はないし、母親も介護施設に入ったようで、ここ数年は一人でさびしく住んでいたと思います」
孤独を癒やしてくれる大切な女性を守ろうとした結果、理不尽な暴力で命を奪われた野上さんに哀悼の意を表したい。
「週刊現代」2024年10月19日号より
中国が台湾上空へロケット発射 台湾「建国記念日」に圧力か 頼総統「隷属しない」
■頼総統「台湾は中国に隷属しない」
孫文らが行った辛亥(しんがい)革命を記念し、台湾で「建国記念日」と位置づけられる「双十節」。
妻と共に式典に参加した台湾の頼総統は中国との関係について、こう言い切りました。
頼総統
「台湾は中国に隷属(れいぞく)するものではない。総統としての私の使命は、台湾の存続と発展を確かなものにし、団結させることです」
今年5月の就任演説で「中国の脅威から台湾を守る」と宣言し、中国への牽制を続ける頼総統。5日にも「中華人民共和国よりも、台湾の方が長い歴史がある」と演説していました。
頼総統(5日の発言)
「中華人民共和国(中国)は、中華民国(台湾)の人々の祖国には絶対なりえない」
9日には台湾で独自開発した新型小銃を公開し、軍事力の増強も図っています。そんななか「一つの中国」を目指す中国が、双十節に台湾上空へロケットを発射すると通告しました。
10日に台湾で行われた「双十節」で、頼総統は「台湾は中国に隷属しない」と演説。これに中国政府は猛反発し、頼総統を痛烈に批判しました。
中国外務省 報道官
「台湾独立に対する頑固な姿勢を示し、政治的な私利私欲を得るために台湾海峡の緊張を高めても構わないという邪悪な意図を再び露呈させました。何を言おうが、台湾海峡の両岸が“一つの中国”に属するという客観的事実を変えることはできず、最終的に統一されるという歴史の流れを止めることはできません」
中国は頼総統が就任した時から「台湾独立派」として警戒し、台湾海峡で軍事演習を行い圧力を強めています。
また、台湾の国防部は「双十節」の式典に合わせて、中国側がロケットを発射する見通しだと発表。
そして10日夜、中国は四川省から衛星ロケットを発射しました。台湾国防部によりますと、台湾の上空を通過しましたが、被害はないということです。
テレ朝news
10日午後、神戸市西区の交差点で自転車が車にはねられる事故がありました。この事故で自転車に乗っていた18歳の男子高校生が頭の骨を折るなどして意識不明の重体です。
10日午後6時10分ごろ、西区森友4丁目にある信号機のない交差点で、「車と自転車の事故です。男性が溝にはまっている」と警察に通報がありました。
警察によりますと、18歳の男子高校生が自転車で交差点を南向きに走行していたところ、東向きに交差点へ入ってきた乗用車と接触、はね飛ばされ、付近の溝へ落ちたということです。
高校生は病院へ搬送されましたが、頭の骨折や全身を強く打つなどして意識不明の重体だということです。
警察は事故の詳しい原因を調べています。
毎日放送
70代の顔を掃除機で殴り1週間のけが負わす、高齢者向け住宅の職員を傷害と暴行の罪で起訴
男は、同市の会社員(41)。起訴状などによると、男は5月28日頃、同住宅で、入所者の60歳代男性の顔を平手でたたく暴行を加えたとされる。また、7月4日頃には別の入所者の70歳代男性の顔などを掃除機で殴り、全治約1週間の右手打撲などを負わせたとされる。県警は逮捕を発表していない。
市長寿あんしん課によると、7月中~下旬に複数回、同課や県介護高齢課の職員らが同住宅で聞き取り調査を行った。市は8月、虐待があったと認定し、同住宅に文書で指導を行った。県も「計画的な研修の実施が十分でない」などと口頭で指導した。今後も定期的に同住宅を訪問するという。
同住宅によると、男は8月下旬以降、2回逮捕されたという。担当者は取材に「利用者やご家族に心配をかけて申し訳ない。今回の処分を重く受け止め、施設運営を改善したい」と話した。
大阪府警は10日、一般職員の上野梓さん(32)を府警で女性として初めての「足痕跡副鑑定官」に指定した。高い技術や専門性が評価された。上野さんは「女性だからといって、できない仕事はないと思う。今後も技術を磨いていきたい」と意気込んだ。
警察は鑑識活動に携わる人の中で、高度な専門性を備えた人材を「鑑識鑑定官」として指定している。警察官、一般職員を問わず選ばれ、鑑定官は裁判の証拠となる鑑定書の作成が可能。副鑑定官も鑑定官と一緒なら作ることができる。
担当は指紋などを調べる指掌紋係や、現場の状況を精密に記録する写真係などに分かれる。上野さんの足跡係は現場に残された足跡を数万通りとされる靴裏の形状と比べ、容疑者が履いていた靴を特定することなどが役目だ。
上野さんは岸和田市出身。幼い頃から「悪い人を捕まえ、困った人を助けたい」と警察官に憧れた。ただ、小柄で体力面も不安があったことから断念。「サポートする仕事も向いているかもしれない」と考え、2015年から一般職員として働き始めた。
転機は警察署の会計課にいた時。鑑識の足跡係を務めたことのある上司から、足跡鑑定の奥深さを教わった。自分も同じ仕事がしたいと熱望。19年春に府警本部鑑識課への異動がかなった。
最初はシートに残された跡のようなものが、ほこりなのか足跡なのかも分からなかった。雨にぬれたり、幾重にも重なったりした足跡は靴の特徴を浮かび上がらせるのが難しく、同じ足跡と1カ月近くにらめっこしたことも。しかし、持ち前の根気強さで細かな違いも見分けられるようになり、いまや1年間に数千件の足跡を取り扱う。
印象に残っているのは鑑識課4年目に起きた事件。女子大生が路上で男性に額を蹴り上げられる被害に遭った。上野さんは女子大生の額に残った足跡の一部から容疑者の靴を割り出し、容疑者の犯行を裏付ける助けをした。「被害者の心の痛みを少しだが取り除けた気がした」
上司の矢野登志夫・鑑識課長は「上野さんは日々愚直で、きめ細やか。足跡鑑定は根気のいる作業だが、事件解決の根幹を支えている」と激励する。上野さんは「副鑑定官に指定されとてもうれしい」と目を輝かせた。
【林みづき】 毎日新聞