安全保障に活用できる新技術の開発に向けて基礎研究を助成する防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」への大学の応募数が回復傾向にある。平成29年に日本学術会議が「軍事的安全保障研究に関する声明」で「政府による研究への介入が著しく問題が多い」と同制度を批判し、大学研究者を牽制した形となって応募数は激減した。ただ、令和4年7月に学術会議もデュアルユース(軍民両用)の先端技術研究について、事実上容認に転じた経緯がある。これに先立つ同年4月に学術会議側から、声明について「何かを禁止するものではない」と国会答弁を引き出した自民党の有村治子元女性活躍担当相は産経新聞のインタビューに応じ、「防御的技術まで一律に『軍事技術だ』とレッテルを貼って抑圧する矛盾を世論は実感している」と指摘した。
同制度への大学の応募数は、初年度の平成27年度は58件だったが、30~令和4年度は9~12件に落ち込み、5、6年度はそれぞれ23、44件となっている。有村氏の発言要旨は以下の通り。
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安全保障技術研究推進制度は、国会審議で可決された国家予算で組まれた、真っ当な研究支援制度だ。
防衛装備庁側は令和4年4月、防衛省が過去に採択した研究課題について、国会答弁で「大量破壊兵器や国際人道法に違反する武器の開発につながるものはない。これからも防衛省が採択することはない」と明言した。これは平和を尊ぶ国民に対する政府の「宣言」で「公約」といえる。
今や宇宙政策も半導体も3Dプリンターも情報通信・測量技術もドローンも自動運転技術も、デュアルユースが世界の潮流だ。防衛・安全保障にも活用できるという一点をもって、大学での研究を否定することは現実的ではない。他国による侵略からわが国の主権と国民の安全を守る防御的技術まで「軍事技術だ」と一律にレッテルを貼って抑圧することの矛盾を、研究者も国民世論も実感している。
6年度は九州工業大などが初めて採択されたが、いまだに東京大や京都大、大阪大、東北大など研究力に定評のある大学からの応募が一件もないのはどういうことか。
どんな障壁があるのか、さまざまな声を聞いている。応募がなかった大学の研究者に聞くと学内の不当な圧力で、研究が制限されている事例も確認されている。実力と志のある大学の研究者が、イデオロギーによって応募すら阻まれる事態は公正ではない。
平和を尊び、侵略を抑止するための科学を前進させようとする研究者がなぜ道を閉ざされるのか。丁寧に実態をヒアリングし、研究を行う自由を尊重・担保する必要があるのではないか。
研究したい人が不当な抑圧や脅迫を受けた場合に、相談できる窓口を国として設けることは一案ではないか。相談機関を設けることで、不当な脅迫の抑止につなげたい。
民主主義国家に生きる私たちだからこそ、賛否両論は当然あっていい。ただ、いかなる主張を展開するにせよ、正々堂々と論陣を張るべきであり、見えない所で研究者を萎縮させるようなやり方は許されない。
どの国であれ、およそ国が持つ先端科学技術は安全保障に向かい、防衛分野は科学技術を牽引してきた歴史がある。日進月歩の技術開発に各国がしのぎを削る中、防衛技術の進展を封じ込めることは防衛力を相対的に弱めることになり、ひいては国民の安全を脅かす要因になり得る。
防衛力の彼我に格差が出たとき、相手の侵略を抑止する力は落ちる。世界トップクラスの科学技術力を持つこと自体が、他国に攻め入られる要素を減らし、日本を守る力そのものではないのか。(聞き手 奥原慎平) 産経新聞