東日本大震災で津波による大被害を受けた宮城県石巻市のがれきの中で、同市南浜町の三浦富士子さん(70)が、行方不明の夫、政行さん(75)を毎日捜し続けている。
羽織っているのは、津波から逃げる際に政行さんが手渡してくれた緑色のジャンパー。「夫が抱きしめてくれているみたいで温かい」。
今年7月には金婚式を迎える予定だった。
三浦さん夫婦は自宅で地震に遭った。政行さんは神棚を押さえ、富士子さんはストーブの火を消し、玄関のドアを開けた。
「早く外に出ろ!(孫が通っている)小学校へ行け」。政行さんは富士子さんにこう叫び、着ていたジャンパーを脱ぎ、手渡した。
「寒いからこれを。後で追いかけるから」。
これが2人が交わした最後の言葉になった。
後で近所の人に聞くと、政行さんは自宅で別れた後、近所の家を一軒一軒回って避難を呼びかけていた。