<ギャンブリング課題の共同研究グループ廣中ファミリーと札幌で>
私と健康心理学第10話:たばこを吸うこと、やめることーーーその意志決定のメカニズムーーー
喫煙のメリットとデメリット
2008年は、多くの著名人が亡くなった。なかでも、ジャーナリストの筑紫哲也さんと俳優緒方拳の両氏の死は印象に残った。お二人とも、大の愛煙家であることを多くの人が知る。健康のためにと禁煙することはせず、好きなたばこを吸い続けたと聞く。喫煙による健康被害という悪い影響よりも、喫煙がもたらす気ばらし効果などのよい効果を得ようと愛煙家でい続けられたのであろう。
喫煙マナーをうたったテレビCMで、落ち着いた紳士を演じた緒方氏が肝臓ガンと闘っていたことを知った今、はてなと思うのは私だけではないだろう。
人はなぜ健康被害という危険を冒してまでたばこを吸うのだろうか。意志決定のメカニズムの一端をかんがえてみたい。
税調とたばこ
アメリカのサブプライムローンこげつき問題を起源とする世界同時不況の嵐は、さまざまな経済政策立案を可能にしている。庶民が期待するのは、減税なのだが、逆に増税を声高に叫ぶ人たちがいる。たばこの値段を上げようという意見である。たばこ税を今の倍以上にすると、どうなるかがマスメディアでも議論の的になってきている。
これまで、たばこの値上げをすると、消費は落ちた。直前の買いだめの反動効果がなくなった後でもわずかながら喫煙者は減った。だが売れたぶんの値上げ効果と相殺して、大概収支はトントンとなる。さて、今いくらまで値上げしたら税収は減らずに喫煙者を減らせるか。議論の的である。
たばこを買うコスト(出費)と、得られるベネフィット(利益)の主観的な比較をして、喫煙者は禁煙の意志を固めるという単純な経済心理学である。
ギャンブリング課題
今心理学の分野で、ギャンブリング課題と名付けられた実験課題が流行っている。ハイリスク行動をとりやすい人を見つけるのに役立つというのが理由である。
A,B,C,Dの4つのデッキがコンピュータのディスプレイに表示されている。
AかBをクリックすると、比較的高額のお金が得られるが、ある確率で高額のお金がとりあげられる。
一方、CかDかを選ぶと、得られる金額は少ない。ある確率で少額だがお金がとりあげられる。
このような事態のもとで、デッキを何度もクリックしてもらい、獲得した賞金総額を競わせるわけである。ルールがわかってきたら、徐々にハイリスク・ハイリターンのデッキA、Bよりも、ローリスク・ローリターンのデッキC、Dを選ぶ確率が増し、ついにはデッキC、Dしか選ばなくなる人が多い。理性的な人が論理的に判断すればそうなるはずである。
ところが、ハイリスク・ハイリターンのデッキA、Bを選びたいという衝動がわいてくる。何パーセントかの人は、いつまでたってもデッキA,Bを選び続ける。一度の大勝ち体験が、ハイリスクであるにもかかわらずデッキA、Bを選択するようである。いわば、ギャンブラーの行動をとり続ける。
たばこを吸うことは、ある意味、こうした実験事態でデッキA、Bを選びつづける行動と似ている。たばこを吸うとニコチンが脳に作用して気持ちよい状態になる。ニコチンによる強い快感を生み出す効果は喫煙行動を強化する。一方、長期にわたる喫煙習慣の結果、肺がんや喉頭がんなどに罹患し、放置すると死を招くことを知っている。喫煙行動について、ギャンブラーの心理学という観点から分析していくと、禁煙に導くためのヒントが得られるかもしれない。
喫煙によるデメリットの増大
喫煙行動の継続が、喫煙による損得勘定(メリット感とデメリット感の主観的勘定)の結果だと考えると、喫煙行動がもたらすデメリットをいかに強く、大きく感じさせるかが禁煙行動開始の動機付けになると予測される。
健康被害についての正確な知識を与えること、経済的負担を具体的な数値で示すこと、喫煙者に対する世間の冷たい目をさらに厳しいものとすることなど、こうした考えにまつわる禁煙テクニックが思い浮かぶ。
今話題の紙巻きたばこ1箱1000円議論がそれである。一箱の値段を現行の300円から1000円に引き上げるだけで、中高生などの若年喫煙者は禁煙を考えるという調査結果が出ている。ところが長期喫煙者である中高年のヘビースモーカでは、たとえ1000円になろうとも吸い続ける人の割合が、若年者ほど低下しない。
緒方拳や筑紫哲也のようなヘビースモーカーが、元気な間に禁煙し、世に禁煙をアピールするCMに登場してくれればどうなるだろうと空想する年末である。
余計な注釈
かっこいい大人はたばこを吸っていたのは1970年代まで。今の若者は、ちょい悪おやじがタバコを吸うと感じるのだそうだ。時代は変わったのか?学生から聞いた話です。
私と健康心理学第10話:たばこを吸うこと、やめることーーーその意志決定のメカニズムーーー
喫煙のメリットとデメリット
2008年は、多くの著名人が亡くなった。なかでも、ジャーナリストの筑紫哲也さんと俳優緒方拳の両氏の死は印象に残った。お二人とも、大の愛煙家であることを多くの人が知る。健康のためにと禁煙することはせず、好きなたばこを吸い続けたと聞く。喫煙による健康被害という悪い影響よりも、喫煙がもたらす気ばらし効果などのよい効果を得ようと愛煙家でい続けられたのであろう。
喫煙マナーをうたったテレビCMで、落ち着いた紳士を演じた緒方氏が肝臓ガンと闘っていたことを知った今、はてなと思うのは私だけではないだろう。
人はなぜ健康被害という危険を冒してまでたばこを吸うのだろうか。意志決定のメカニズムの一端をかんがえてみたい。
税調とたばこ
アメリカのサブプライムローンこげつき問題を起源とする世界同時不況の嵐は、さまざまな経済政策立案を可能にしている。庶民が期待するのは、減税なのだが、逆に増税を声高に叫ぶ人たちがいる。たばこの値段を上げようという意見である。たばこ税を今の倍以上にすると、どうなるかがマスメディアでも議論の的になってきている。
これまで、たばこの値上げをすると、消費は落ちた。直前の買いだめの反動効果がなくなった後でもわずかながら喫煙者は減った。だが売れたぶんの値上げ効果と相殺して、大概収支はトントンとなる。さて、今いくらまで値上げしたら税収は減らずに喫煙者を減らせるか。議論の的である。
たばこを買うコスト(出費)と、得られるベネフィット(利益)の主観的な比較をして、喫煙者は禁煙の意志を固めるという単純な経済心理学である。
ギャンブリング課題
今心理学の分野で、ギャンブリング課題と名付けられた実験課題が流行っている。ハイリスク行動をとりやすい人を見つけるのに役立つというのが理由である。
A,B,C,Dの4つのデッキがコンピュータのディスプレイに表示されている。
AかBをクリックすると、比較的高額のお金が得られるが、ある確率で高額のお金がとりあげられる。
一方、CかDかを選ぶと、得られる金額は少ない。ある確率で少額だがお金がとりあげられる。
このような事態のもとで、デッキを何度もクリックしてもらい、獲得した賞金総額を競わせるわけである。ルールがわかってきたら、徐々にハイリスク・ハイリターンのデッキA、Bよりも、ローリスク・ローリターンのデッキC、Dを選ぶ確率が増し、ついにはデッキC、Dしか選ばなくなる人が多い。理性的な人が論理的に判断すればそうなるはずである。
ところが、ハイリスク・ハイリターンのデッキA、Bを選びたいという衝動がわいてくる。何パーセントかの人は、いつまでたってもデッキA,Bを選び続ける。一度の大勝ち体験が、ハイリスクであるにもかかわらずデッキA、Bを選択するようである。いわば、ギャンブラーの行動をとり続ける。
たばこを吸うことは、ある意味、こうした実験事態でデッキA、Bを選びつづける行動と似ている。たばこを吸うとニコチンが脳に作用して気持ちよい状態になる。ニコチンによる強い快感を生み出す効果は喫煙行動を強化する。一方、長期にわたる喫煙習慣の結果、肺がんや喉頭がんなどに罹患し、放置すると死を招くことを知っている。喫煙行動について、ギャンブラーの心理学という観点から分析していくと、禁煙に導くためのヒントが得られるかもしれない。
喫煙によるデメリットの増大
喫煙行動の継続が、喫煙による損得勘定(メリット感とデメリット感の主観的勘定)の結果だと考えると、喫煙行動がもたらすデメリットをいかに強く、大きく感じさせるかが禁煙行動開始の動機付けになると予測される。
健康被害についての正確な知識を与えること、経済的負担を具体的な数値で示すこと、喫煙者に対する世間の冷たい目をさらに厳しいものとすることなど、こうした考えにまつわる禁煙テクニックが思い浮かぶ。
今話題の紙巻きたばこ1箱1000円議論がそれである。一箱の値段を現行の300円から1000円に引き上げるだけで、中高生などの若年喫煙者は禁煙を考えるという調査結果が出ている。ところが長期喫煙者である中高年のヘビースモーカでは、たとえ1000円になろうとも吸い続ける人の割合が、若年者ほど低下しない。
緒方拳や筑紫哲也のようなヘビースモーカーが、元気な間に禁煙し、世に禁煙をアピールするCMに登場してくれればどうなるだろうと空想する年末である。
余計な注釈
かっこいい大人はたばこを吸っていたのは1970年代まで。今の若者は、ちょい悪おやじがタバコを吸うと感じるのだそうだ。時代は変わったのか?学生から聞いた話です。