食品のカラクリシリーズ 稚魚の放流/魚介類
稚魚を川に大量放流しても魚は増えないどころか生態系のバランスが崩れ衰退が懸念
自然でない人工孵化行為をすれば、結局、魚のためにならぬのだろう
■シミュレーションによる「理論分析」と北海道の河川で「実証分析」の結果が・・・
しんぶん赤旗の「科学」特集記事を活用しました/資源管理や自然保護の観点から魚の種類や数を増やそうと、人工的に孵化(ふか)させて育てた稚魚を河川に放流する試みが国内外で進められている。こうした放流は、生態系にどんな影響を与えるのか―。米ノースカロライナ大学、北海道立総合研究機構(道総研)、北海道大学などの研究チームが理論分析(予測)と実証分析から検証した。何と結論は意外なもので、多くの場合『放流しても魚は増えない』、むしろ『川の魚全体に長期的に悪影響を及ぼす』、『放流数が増えると魚類群衆の種類も密度も減る』結果だった。様々な魚がおり、食べ物をめぐる競争など互いに影響し合いながら共存してきた。しかし自然界ではありえない膨大な数の稚魚を放流すれば、生態系のバランスが崩れてしまい、放流する魚を含む生物群集全体の衰退につながる可能性が懸念されると言う。
研究チームの検証はシミュレーションによる「理論分析」と、北海道の河川での過去21年間の魚類群集データ(道総研が1999~2019年まで調査)を使った「実証分析」の2つの角度から実施した。理論分析は放流する10種の魚類群集のシミュレーションで、放流する魚が子孫を残す数、個体の生き残りやすさ、競争の強さ、環境収容力(どれだけ多くの生き物が生息できるか)など異なる32パターンのシナリオを準備。放流によって、魚類群集の種数や密度が変化するのかを計算した。一方、「実証分析」の対象は、北海道全域の31河川。現在、放流ゼロから最大で年間24万匹が放流される河川まで、様々な規模で「サクラマス」の放流が行われている。それらは①「保護水面」に設定され、釣りを含めて漁獲が禁止されている。②放流後すぐ海に出ていくサケとは異なり、サクラマスは少なくとも1年間は河川に留まる。③他の魚との相互作用が強い~放流の影響を調べる上で、理想的な“天然の実験場”と言える。
■結果・放流すればするほど魚同士の競争が激化し自然繁殖による増加が抑制される
「理論分析と実証分析」とを突き合わせた結果―――
1.多くの場合、群集内で別種の魚との競争が激化し、放流対象以外の種が排除される。
2.過度な放流では、仲間同士の競争が激化し、放流対象種の自然繁殖による増加が抑制される。
3.放流対象種の増加につながるのは、環境収容力が大きく仲間同士の競争が弱い場合のみ。
道総研は、「放流し過ぎると何らかのマイナスの影響があると思っていた」、「放流が増えれば増えるほど、生息数が右肩下がりに減ってしまう、中々、理解しづらかった」、「当初は分析が間違っていると疑うほど意外な結果だったが、実証分析からも裏付けされた」としている。また他の魚類群集にも共通する結果には、「餌や場所をめぐる奪い合いの強さに注目する。本州のアマゴ、イワナのように、同じ場所に長期間生息する魚や縄張りをめぐって競争するアユなどでは、同じような結論が導き出される可能性は高い」。
研究チームは今回の結果から、放流への過度な依存は、将来的に生物多様性や生態系サービス(自然の恵み)に大きな損失を招くと指摘。持続可能な資源管理や生物多様性保全には、野生のサケマスが産卵遡上(そじょう)するダムなどの部分撤去、魚道の設置、河川改修で失われた環境の復元などが重要だと訴えている。今後、各地で行われているサケマスなどの漁業対象種の孵化放流事業が、どれだけ悪影響をもたらすのかを調べたいと言う。また経済的利益をもたらす魚だけではなく、絶滅危惧種など個体群の状態がより深刻な魚を、はたして放流で守れるのかという問題への応用も必要になると話している。
【知識】桜鱒 サケ目の魚。全長60cmほど。体は延長し側扁するがサケより丸みを帯びる。体色は背面が濃藍色で小黒点が散在し、腹面は銀白色。淡水で孵化し、2年後に海へ下る。3年目に成熟して産卵のために5〜7月頃川を上る。食用として美味。本種の陸封河川型がヤマメ。北洋から関東地方以北の太平洋側と中国地方以北の日本海側に分布。
■投稿者の文章|魚社会を見て人間は自然界において謙虚であるべきと再認識した
よくTVニュースでは、幼い子や小学生が稚魚を川に流す微笑ましいシーンを見る。その程度では問題はないだろうし、大半はやや大きな魚に食べられてしまうだろうなと思っていた(それは魚社会の自然な営み)。でも専門家が言うように何万匹も放流すれば、投稿者のような素人でもバランスが崩れるのは分かる。これって人間様の世界と同じか?大都市のように大量の人間が集まれば競争が激しくなり、失われるものも大きくなること。魚の世界も勝手な人間が自然環境を壊し、だからと言って自然でない人工孵化行為をすれば、結局、魚のためにならぬのだろう。やはり人間は、(投稿者は無宗教だが)神から与えられた自然の営みを壊してはならない。人間は自然界において、謙虚であるべきと再認識した。