魚を大事にしない日本人シリーズ R5-20
ROUND5 魚を食べる時に思った疑問
イカ墨のスパゲティはあるのに、なぜタコ墨のスパゲティはないの?
“墨みません!”タコ墨には旨みも味もないので使われません
烏賊(いか)の墨を使った「イカ墨のスパゲティ」は、人気が衰えません。本場、イタリアでは、サフランの代わりにイカ墨を用いたパエリアも多くあると聞きます。日本でもスパゲティに限らず、麺やパン、その他の料理に練り込むなどすっかり定着しています。考えてみると海中で真黒い墨を吐くのは、烏賊の他に蛸(たこ)もあるではないか! しかし料理では、なぜ烏賊だけなのでしょうか? それは同じ黒い墨でも、イカ墨・タコ墨の成分が大きく違うためです。違いの1つめは、イカ墨は甘みや旨みがありますが、タコ墨は味がないことです。2つめが、イカ墨には粘り気があっても、タコ墨にはないことです。粘り気があると、食材に絡みやすく味を引き立てます。
イカ墨には、グリシンやプロリンなどのアミノ酸が豊富に含まれています。特にグリシンは魚介類の甘みの主要成分であり、プロリンはズワイガニやホタテに沢山含まれる甘みです。こうした成分がイカ墨に多く含まれるため、料理に使われます。残念ながら、タコ墨はこれらの成分も乏しいのです。料理としての墨の説明ばかりをしましたが、生体に対する墨もお話しておきます。烏賊も蛸も、敵に襲われそうになると、墨を吐いて目を眩ませ逃げます。ここでも成分の違いによって、墨の役割に相違があります。烏賊の墨は粘性があるため、海中に散らばらず塊になっています。敵の目を欺く、ダミーです。一方、蛸の墨は海中に散らばり、言わば煙幕です。イカ墨料理を食べる時は、料理と生体における墨の役割を、“墨から墨まで~”知っておきましょう(いつものオヤジギャグ)。