ゆるキャン車輌が手元にあったのが契機となって、鉄道模型のNゲージを始めてみたのだが、これが意外に楽しく、しばらくは熱中しそうな感触があった。嫁さんも一緒にノリノリ状態であった。当然ながら小さな周回のレールだけでは物足りなくなってきて、レイアウトを拡張してみることにした。
嫁さんと相談して、Nゲージのレイアウトに使えるスペースの最大値を、縦80センチ、横205センチと算出してあったので、その範囲内で新たなレイアウトを考えてみることにした。京間の畳一畳分のサイズである縦95.5センチ、横191センチを縦を少し縮めて横を少し長くした範囲であるので、畳一畳分のサイズで作られる一般的なレイアウトと比べてやや横長になる感じであった。
そのイメージで、嫁さんの「出来たら、複線化してみたいですよね」という意見も入れて上図のように基本案を作成した。使えるスペースの最大値である縦80センチ、横205センチギリギリの縦77.4センチ、横203.4センチのサイズにまとまった。複線化が可能なように2種類のカーブレールを使い、駅スペースの待避線も複線化可能とし、さらに内部に車両基地か機関区を設けられるように駅の近くにポイントを置いて分岐線を延ばす、という内容にまとまった。そのレイアウト案に必要なレールのサイズを計算し、上図にレールのサイズも記した。
そして、嫁さんの希望である「全線複線化」と私の希望である「車両基地または機関区」を全て実現した場合の最終レイアウトの概念図も、上図の左上に描き添えた。
嫁さんが「全線複線化」を希望したのは、一本ずつを担当してそれぞれに好きな車輌を走らせたいから、というのが理由であった。もともと鉄道模型には大いに関心があるようなので、今後も私と一緒に楽しんでくれるようであるが、時には私よりも熱心にトミックスやカトーのカタログを読んでいて、だんだんとハマってゆくのじゃないかと思わせられた。
私が「車両基地または機関区」を希望したのは、これまでのゆるキャン聖地巡礼で天竜浜名湖鉄道と大井川鐡道に行った時に、最も興味をもって見物し、かつ楽しんでいたのが両方の車両区であったからである。すなわち、前者の天竜二俣車両区、後者の新金谷車両区である。いずれも転車台を伴うので、出来たらレイアウトにも転車台を入れてみたいなあ、と思っている。
そして、このレイアウトに必要なだけのレールを上図のように算出した。Sは直線レールで、280ミリが8本、140ミリが4本、カーブレールのCは半径317ミリ角度45度のが8本、半径541ミリ角度15度のが2本、が必要であった。ポイントのPLは2本が必要で、手動と電動の二種類があったが、安価な手動のほうにした。これは電動ユニットを追加すれば電動に換えられるので、いずれ全線を複線化する際にポイントも「電化」しましょう、との嫁さんの意見に従った。
これらの計24本のレールを、新品で買うと9900円もするので、全て中古品で揃えることにして、翌6月16日の退勤後の夕方に買い出しに出かけた。川本氏に連絡をしたら「絶対に行く」と言われ、嫁さんも行くと言うので、その退勤時刻に合わせて四条河原町で待ち合わせた。
そして川本氏の案内で、上図の「ホビーランドぽち京都店」に行った。全国に13店舗を展開する鉄道模型専門ショップ「ホビーランドぽち」の京都支店にあたり、新品とともに中古品も幅広く扱っていて、レールは1本50円から売っているという。河原町通り繁華街のなかに位置するが、私も嫁さんも何度も前を通っているのに気付かなかった。
「ホビーランドぽち」の公式サイトはこちら。
川本氏は、まるで自分の家に案内するかのようなスタンスで入っていったが、嫁さんも私もこのお店に入るのは初めてだったので、嫁さんが「なんかドキドキしますねー」と小声でささやいた。
すると川本氏が振り向いて「大丈夫ですよ奥さん、近鉄と阪急と京阪のような安心安全の運行ですから」と意味がよく分からない事を言うのであった。本人は励ましの言葉をカッコよく放った積りでいるらしかった。
必要であったレールは、幸いなことに中古品も全て揃っていて、一括で買えた。確かに一番安いのが1本50円であり、直線の280ミリレールのみが1本100円、ポイントはもともと電動だったのをユニットを外して手動にしてあって1本500円となっていた。
それら計24本のトータルでの購入額は2500円であった。新品で揃えた場合の計9900円の三割にも満たなかったので、「レールの中古ってこんな安いんですか!」と嫁さんが私よりも驚いていた。
そうなると、今後の全線複線化および車輌基地追加にあたっても、必要なレールは全部ここのお店で買えばよいか、という結論になってくるのだが、川本氏が「ヤフオクとかのネットオークションやったら、もっと安く買える場合があるで」と教えてくれた。
聞けば、鉄道模型を辞めて手放したりするケースがあって、そのレール類がジャンクとして大量に出品される事が少なくないそうである。各種の山ほどのレールが安く買えたりするらしい。嫁さんが「メルカリでもそんな感じなんですか」と聞くと、川本氏は「それはちょっと止めといたほうがええかな、破損品や劣化品も混じってる確率が高いので」と返していた。
続いて、嫁さんが「私も何か車輌走らせたいので、車輌も買いたい」と希望していたので、車輌の新品や中古品も色々と見た。私が中古品の陳列を見始めて間もなく、川本氏が「おい、ええもんがあるで。これ買っときや」と上図の品を指さした。つられてパッケージを見て、「あっ、この電車は南海のズームカーやないか、大井川鐡道でも走ってるな」と気付いた。
パッケージの裏面にも、南海電鉄21000系の2輌の車輌の図があった。川本氏は「重要なのは車番やで。よく見てくれ、モハの21003、21004とあるやろ」と言った。
「車番が重要なんかね?」
「これさ、大井川鐡道に譲渡されて今も運行してる1編成の車番なんやで」
「えっ、そうなんか・・・」
確かに現在大井川鐡道で走っている旧南海21000系ズームカーの2編成は、南海時代の車番をそのまま受け継いでいる。上図の模型は、そのうちの1編成の車番が付けられている。つまり、この製品そのものが、南海電鉄の車輌であると同時に、大井川鐡道の車輌でもあるわけだった。
つまり、ゆるキャン聖地巡礼で何度か乗った、このズームカーである。これは塩郷駅で吊橋渡りの後で撮影したものであるが、別の写真を見ると車番もバッチリ同じのモハの21003、21004であった。
購入時に中身を見せて貰って確認した。店員さんが「綺麗な状態ですよ」と言っていた通り、傷も汚れも見当たらなかった。1輌1000円、2輌計で2000円で購入した。
この製品は、川本氏の説明によれば、トミックスの系列であるトミーテックが2005年から販売している、Nゲージ規格のプラスチック成形のディスプレイモデル(展示用模型)の一種である。シリーズで「鉄道コレクション」と呼ばれ、既にラインナップは限定品や架空品も含めて500種を超えるそうである。鉄道模型Nゲージの規格においては圧倒的なシェアを占める人気商品群となっているそうである。
そのため、昔の商品ほどプレミアが付いていて、定価よりも市場価格のほうが高くなっている傾向があるという。上図の南海21000系ズームカーは2006年9月に発売されたもので、当時の販売価格は460円(税抜)であった。初期の製品群に属するためか、中古品価格平均が1輌あたり2000円から3000円前後で推移しているという。今回の2輌ぶんの購入価格2000円は、かなりの安値であったことが理解出来た。
プラスチック成形のディスプレイモデルなので、見た感じはプラモデルと大して変わらなかった。嫁さんが「プラモの組み立て塗装済み製品のようなものですねー」と的確な感想を述べていた。
「川さん、これさ、展示品ということやが、Nゲージの線路には載るんかね」
「載るよ。走らせることも可能なように作ってあるんや。別売のモーター入りの動力ユニットというのがあってな、それを組み込んだら、電気で走れるようになる。ホッさんが買った線路でも問題無く走るで」
「そりゃええなあ、大井川鐡道の電車というのがまたええ。予想外のええ買物やったな」
「ホッさんは、大井川鐡道に関しちゃ近鉄の16000系も持っとるもんな・・・、どうせなら、ゆるキャンの聖地巡礼で見たり乗ったりした大井川鐡道の車輌をこうやって少しずつ揃えていったらええんやないか」
「えっ・・・、ゆるキャンの大井川鐡道の・・・・、ああ、なるほど、そういう楽しみ方もあるか・・・」
その時は何となくそう答えたにとどまった。後でこれが重要なキーワードに成長することになろうとは、この時点では思いも及ばなかったのである。
嫁さんは、川本氏に色々教えて貰いながら、中古品の車輌を3点選んで購入した。その一つ目は上図のカトーの「いなかの街の貨物列車」であった。
嫁さんが「小さなレイアウトでも走れる、小さなカワイイ車輌があるといいなあ」と言っていたので、川本氏がすぐに「そんなら、こいういうの、どうですかね」と取り出して勧めた品であった。それを見て嫁さんは笑顔になり、「うんうん、こういうのでええんですよ」と即座に決めていた。定価は、カトーのカタログによれば4290円だが、購入価格は1500円であった。
二つ目は上図のトミックスのDE10形ディーゼル機関車であった。茶色のカラーが好きな嫁さんらしいチョイスであった。定価は、カトーのカタログによれば4950円だが、動作不良品つまりは動かない品、とのことで購入価格は500円であった。
動作不良ってヤバイんじゃないですか、と不安がる嫁さんに、川本氏は「大丈夫。近鉄と阪急と京阪のような安心安全のメンテナンスで直せるんですよ」と意味がよく分からないアドバイスを述べ、清掃および分解メンテナンスを施せば、大抵の動作不良品は直る旨を説明していた。
このDE10形ディーゼル機関車に関しては、三日後に川本氏が拙宅に来て、実際に清掃および分解メンテナンスを実施して、その手順やコツ、車輪などの清掃すべき箇所を細かく丁寧に教えてくれた。
その通りに嫁さんが無水エタノールで清掃を行って車輪軸部に詰まっていた塵芥を取り除くと、モーターもライトも元通りに作動して見事にレール上を走るまでに復したのであった。嫁さんも私も驚いてしまった。治せる可能性が高い不良品が500円で買えたのは、超お得じゃないか、と喜び合った。
これをふまえて、川本氏は「ジャンク品や不良品で動かんのがあっても、大体は清掃してメンテナンスすれば元通りに走るんでな。ジャンクで動かない車輌を在庫処分感覚でべらぼうに安く売ってるのが多いんけど、そういうのが、ある意味狙い目でもあるの。新品なら何万もするような蒸気機関車とかがさあ、それこそ二束三文で売ってたりするけど、ダメもとで買って、洗ったり掃除したりすりゃ、たいていは走るんや。俺もこれまでにジャンクや不良品を30輌ぐらい買ってんけど、全部メンテナンスで治したで。いっぺん、ホッさんも試してみ?」と話した。
なるほど、と頷いて、一度それも試みようと決めたのであったが、後日にそれが大きな成果を呼ぶことになるとは、予想だにしなかったのである。
三つ目は、DE10形ディーゼル機関車だけじゃ寂しいから、という理由で上図右のカトーの「ワ12000」貨車2輌セットを選んでいた。定価は1760円であったが、中古品価格は500円であった。
「ワ12000」の貨車は国鉄サイズの一般的な貨車より小振りに作られたもので、地方私鉄などで多数が使用されているという。ミニ貨車という感じであるが、川本氏によれば、大井川鐡道ではもっと小型のワフ0形という貨車が使われているそうである。
それは、おそらく私もゆるキャン聖地巡礼の際に見ている筈である。千頭駅、川根両国駅、家山駅などに幾つかの種類の貨車が置かれているのを見かけたが、そのなかにワフ0形もあったのだろう。
かくして、この日嫁さんが購入した車輌3種の中古品購入価格計は2500円となった。全てを新品で買うと11000円になるのだが、中古品で買えば費用が約二割で済むのであった。思った以上の戦果に嫁さんは御機嫌であったが、私にとってもこれは大きな「教訓」となった。
なぜならば、以後の動力付き車輌も含めた全ての車輌を、全て中古品で買い揃えたからである。川本氏のアドバイスがあったのも一つの理由ではあったが、それ以上に、私が対象とした車輌の全てが昔の製品ばかりで、いまでは新品での購入が不可能だったからである。 (続く)