Kyoko AIHARA's Diary (Writer&Photographer) 相原恭子(作家&写真家)のブログ 

ヨーロッパ紀行、京都花街と着物、ビールとグルメなどをテーマに執筆、撮影、国内・海外での写真展や講演等。今日も良い日!

2011年5月8日(日) 水上勉とシュニッツラー

2011-05-08 | 文学
今日は某所で、
「わが 女ひとの日記」 (水上 勉) を読んだ。

その中で、印象に残った「遊郭の女」。
千鶴子さんの心田に、著者と同じような随想を持った。
ギリギリのところで生きている人のインノセントとも言える心映え、「今」に一生懸命な、刹那的な美を感じさせられた。

そこに、著者がシュニッツラーの「盲目のジェロニモとその兄」を引き合いに出していることにも、共感を覚えた。
アルトゥール・シュニッツラーは、私が大好きな作家だ。
学生のころは「女の一生」、「賢者の妻」、「緑の鸚鵡」、「輪舞」、「恋愛三昧」など彼の小説をたくさん読んだものだった。

情緒的、だけれども、現実をキラリと刺し通すような繊細で鋭いリアリズム。
その作風に魅力があると思うのだ。
「賢者の妻」は、ドイツ語の教科書だった。私は当時、ドイツ語の予習復習に熱心ではなかったのだが、小説の主人公の教授の妻への生真面目な淡い恋心の描写に興味を持った。
博士になってから、北の海で幼い子供を連れた彼女と再会した時の様子。
保養地の楽団がメランコリーなデンマークの曲を奏でている・・・というところや、島へ漕ぎ出そうと誘うところ・・・など、その地の情景をありありと思い浮かべながら呼んだものだった。
後に、ドイツやスカンジナビアを旅した時、自分の想像通りの小説の風景に出会い、感動したものだった。

「ひとは温泉芸妓とよぶけれど」Hさんにも、魅かれた。
真正面で生きる年増芸妓。「遊郭の女」の千鶴子さんにも通じる、
ギリギリのところで生きている人のインノセントとも言える心映えや行動に、読後感は爽やかであった。

人間性とは、ア・プリオリなものもあるに違いないが、当人の置かれている状況により、培われるのではないだろうか。そして、肩書きや地位、世間の評価とは別個に存在することができる。
哀しくもあり、美しくもあり、嬉しくもあるな・・・。