児童文学作家を目指す日々 ver2

もう子供じゃない20代が作家を目指します。ちょっとしたお話しと日記をマイペースに更新する予定です。

明日の天気はきっとハレ

2017-12-12 | 物語 (電車で読める程度)

「寒いね」その子からくる言葉は決まっていつも天気の話だった。
「うん」たった二文字だけを送って、やっぱりそれだけじゃ寂しいかなとおもい「そだね」と三文字を追加した。僕は気がつけばあっという間に無職だった。就職活動に失敗した僕は結局自分の理想を妥協することも出来ず、こうしてふあふあとしている。ふあふあとまるでジェットコースターで落っこちるような気持ち悪いふあふあだ。「いってきます」テキトーに書いたような犬のスタンプがそう言い残していた。同い年のその子は僕より幾分早く社会にでていた。「いってらっしゃい」[い]と文字を入力するだけで予測変換できてしまう。僕はごろんとベッドに仰向けになった。「い。」小さく声に出してみる。僕の言葉は圧縮されてもあの子に届くのかな。今度やってみよう。ゆっくりと眼を閉じながらふあふあと定まらない心臓の音に耳を澄ませた。
 
 「別になんだっていいよ。君なら」あの子は僕にそう言った。電話越しでもあぁあの子だってわかるくらいその声はまさしくあの子のものだった。僕は自分が就職活動に失敗するなんて本当に思っていなかった。だから失敗したときはもう未来なんてなくて、何もかもお仕舞いなんだってごく平凡にそう感じた。だから本当は「がんばれ」「だいじょうぶ」と安易に言わないあの子の気づかいに感謝するべきだったんだろう。けれど当の僕は鈍感で、なんで「頑張れ」って応援してくれないんだと一人悲しんでいた。

 その一方であの子の独特なリズムに僕はよくもわるくも安心した。あの子のゆっくりとした、やや暢気なリズムは明日を行き急ぐ僕にはあまりにもトロくさく、明日を顧みない僕にはあまりにもたおやかなものだった。


「ねぇ」僕はsnsにそうメッセージを残すと、暫くうつむいてから「明日晴れる?」と唐突に投げかけた。
僕が投げかけた言葉は宙ぶらりんとなって画面のすみにひっかかった。


そっと携帯をしまう。


両目を閉じて、内側から食い破りそうな心臓に言い聞かせる。
きっとあの子は明日の天気を教えてくれるだろう。傘はいらないよだとか、お布団を干したいねだとか。放牧的でしみったれたことをぬかすんだろうなって。



携帯が震えた。液晶にあの子のアイコンが浮かび上がる



「どうかな」

僕はその声色に青ざめた。



「わからないけど」

僕はあの子がとても遠くに感じた。



「よくわからないけど」

僕は名前さえも忘れてしまおうと覚悟した



「好きだよ」

あぁ、そうだ。

僕は二度とその名を忘れられないだろうと悟った



「大事だよ」

僕は誰にもそんなことを言えなかったことを思い出した







「君がわたしにちょうどいい」








両手の花束が抱えきれないものになった








【おわり】