世界が終わった。
ありとあらゆる肩の荷が降りた。
世界は眠りについて、
不眠症の亡者が徘徊する。
「七つ質問をするんだ」
「ひとつでも答えられないなら射殺しろ」
握らされたのは備品のバインダーと貸与扱いの自動小銃だった。
具体的な質問については保秘義務がかるのでここには書けない。けれども、7つのうち1つははじめて知る言語だった。
ハノンを飲むとよく眠れる、という評判は所詮噂程度のものだった。
世界のほとんどは永遠の眠りにつくか、深い眠りについた。眠れない不眠者だけが心地よい眠りを求めて世界を徘徊した。
環状線の内側は決して眠らないことを決めた者達によって楽園が築かれていた。
東西南北に駅があり、列車が通過した線路は不眠によっておかしくなった元人間を拒む防壁となった。
ネオンに輝く繁華街と旧世界の摩天楼には睡眠以外のあらゆる快楽があった。
自動小銃を握りしめた。
「いまからこちらへ来る大群はひとつ残らず射殺するように」
「質問はしなくてよろしいのでしょうか」
「巡回者がすでに確認済みである」
防壁と化した線路から見下ろす。亡者たちの群れが闇にうごめく。
照射された旧世界の建物の影から亡者の青白い足がのぞいた。
「撃て」
合図とともに一斉に銃声が鳴り響いた。
倒れ行く亡者をどこか他人事に感じながら、それらは本当に亡者だったのだろうかと自問した。
巡回者が確認済みであるとはいえ、この数すべてに対して7つの質問をし、それぞれ確認することはできない。だから仕方のないことなのかもしれない。そう納得する自分がいる一方、心のどこかで、この中に要安眠者がいたかもしれない。
引き金に指をかけながら、胸のうちで質問を繰り返した。
おやすみなさい。
それはせめてもの祈りに似た言葉だった。