写真 正月料理には欠くことのできないお餅。温度が下がるとかたくなり、粘ってくっつきやすくなる特性が…… |
新年の祝い膳にお餅は欠かせませんが、1月は高齢者が餅を喉に詰まらせることによる窒息事故が多い月です。なぜお餅は喉に詰まりやすいのでしょうか? 食べる際の注意点と、緊急時の対処法をご紹介します。
■約90%が高齢者……お餅の窒息事故が最も多い1月
2013年12月18日に出された消費者庁のリリースで、お餅の持つ特性と加齢による喉の変化で、窒息事故が起こりやすい理由が解説されました。
リリースによれば、厚生労働省の統計で「不慮の窒息」による死亡者数をみると、毎年1月が最も多く、次いで12月。1月の死亡者数の約90%は高齢者です。また食べ物が気道に詰まる窒息事故が原因の高齢者は40%を超えています。
東京消防庁管内救急搬送データでは、餅・団子等による窒息事故で救急搬送された人数は、平成20年から平成24年までの5年間で608人。思っていた以上に多い印象を持ちました。
■なぜ高齢者はお餅で窒息事故を起こしやすいのか?
リリースでは、専門家の知見として、餅の特性と高齢者の口内や喉等の特徴について解説されていましたので、ここで簡単にご紹介します。
餅は、体温に近い40℃以下に下がるとかたくなる特性があります。たとえ熱々に調理されたお餅も、冬は室温が低いですし、口に入れて体温より低い温度になると硬くなり、また口の中で喉の粘膜などにくっつきやすくなります。気道の入り口に餅がくっつき剥がれない場合、窒息につながることがあるのです。
一方、口腔内や喉の機能は、加齢とともに変化してきます。歯が抜けたり、入れ歯になることで噛む機能が低下し、また唾液の分泌量が減ることで、食べ物が飲み込みにくくなります。他にも口腔内の感覚が低下したり、加齢により喉頭が下がってしまい、食べ物が喉を通るときに気道を塞ぎきれずに食べ物が気道に入り込みやすくなるなど、食べ物を食べて飲み込むための機能が低下します。
お餅がかたくなってくっつきやすくなるという特性と、高齢者の食べ物を飲み込む機能低下により、お餅の窒息事故が起こりやすくなるということです。
もちろん、噛む機能が未熟な幼児、また大人でもドライマウスなどが気になる人などは、お餅を食べるときには十分注意したいものです。
■お餅を安全に食べるポイントは唾液をしっかり出すこと
消費者庁のリリースでは、食べる場合の注意として、次のように、唾液等の水分が有効だとしています。餅の場合には、よく噛むことで餅に唾液を十分混ぜることができ、飲み込みやすくなるとともに、喉に餅が張り付くことも防ぎます。朝は唾液の出が悪いので、食事の前に口の準備体操となるよう、話をしたりすることもよいことです。また、いきなり餅を食べるのではなく、スープ等の滑らかなもので喉を潤してから食べることが、窒息を防ぐことに有効です。
他にも高齢者や幼児等の窒息事故を防ぐためのポイントとして、下記を挙げています。
□食べる人の能力に応じて、一口で食べやすい大きさに切っておく。
□入れ歯などをちゃんと入れる。
□普段の食事以上によく噛むことを意識する。
□飲み込まないうちに、次のお餅を口に入れない。
□食べるときには、一人でいないように気をつける。
きなこ餅などは、高齢者だけでなく、中高年やドライマウスの人などもむせやすいので気をつけましょう。水分のあるお雑煮やおろし餅等の方が食べやすいでしょう。また温かいお茶などの水分も、用意しておきましょう。
他のことに気をとられるとふとした拍子に飲み込んだりすることもありますから、食べることに集中し、急に上を向くなど姿勢をかえないことも大切です。
近年は、本来のお餅にうるち米粉やでんぷんを混ぜるなどして、噛み切りやすく粘りが少なくくっつきにくいタイプのお餅(キッセイ薬品工業「やわらか福もち」)等が市販され、現在介護食として開発段階の食材もあります。お好みに応じて、使ってみてはいかがでしょうか。
若い頃には思いもよらないことですが、加齢とともにむせやすくなります。高齢者ではないからと他人事にするのではなく、せっかくの御祝いの席で心配事なく、おいしいご馳走を家族みんなで楽しめるよう、心にとめておきましょう。