意外と知らない、最新鋭旅客機のすごい技術 ANAとJALを支える機体の強みとは?
国内航空大手2社の2015年4~6月期(第1四半期)決算が7月に発表された。ANAが売上高と経常利益で4~6月期としては過去最高を更新すれば、JALも営業利益と経常利益が同期では過去最高を記録。それぞれ好決算を謳歌している。
両者ともに力を注ぐのは国際線だ。欧米やアジアへの新しい路線を着々と開拓する両社の現時点での“空の勢力図”は、ほぼ互角と見ていいだろう。
ANAは2014年の夏スケジュールより羽田からロンドン、パリ、ハノイ、ジャカルタなど7路線を開設し、成田からはデュッセルドルフにも直行便を就航させた。年内にスタート予定のクアラルンプールやブリュッセル、シドニーへの3路線を含め、海外ネットワークは41都市に増える。
一方のJALも、経営破綻後は不採算路線の整理が続いたが、その後はボストンやサンディエゴ、ヘルシンキなどの新たな長距離路線に進出。就航地は36都市にまで拡大した。
それら新規路線の開拓を支えてきたのが、次世代旅客機として2011年秋にさっそうと登場したボーイング787である。
この旅客機の最大の特徴は、従来のアルミ合金(ジュラルミン)に代わって機体全体の50%に炭素繊維複合材という新素材が採用されたことだ。炭素繊維複合材は、鉄の4分の1ほどの軽さで、強度は鉄の約8倍。これをボディ構造に多用したことで、同サイズの従来機に比べて燃費性能が20%も向上している。世界で最初に787を受領したANAの機長は、コクピットに座った感想を次のように話していた。
「たとえば東京/大阪間で重量を(従来機である)767より10万ポンド(約45トン)重くして飛んでも、787の燃料消費量はほとんど変わりません。10万ポンドをお客さまや荷物に換算すると、かなりの量を増やすことができますし、反対に同じ重量で飛ぶときにはどんどん飛行距離を延ばせるわけです。787は飛行距離が延びれば延びるほど、真価を発揮できる機種だといえますね」
長距離国際線を運航する場合は、多くの燃料が必要で、これまではジャンボ機(ボーイング747)などの大型機に頼らざるを得なかった。その大型機を飛ばすには、一度に400人以上の乗客が利用する路線でなければ黒字にはならない。1回のフライトで売り上げの3割が消えてしまうといわれるほど燃料費コストが重いためだ。
その点、燃費効率に優れコストを抑制できる787なら、150~200人の乗客数で長距離を飛ばしてもビジネスとして成立する。従来は不可能だったさまざまな路線に就航できるわけだ。JALのボストン線やヘルシンキ線、ANAが10月に開設を予定するブリュッセル線なのは、その最たる例だろう。
2014年夏には787のボディを延長した787-9も完成し、ANAは羽田からミュンヘンやハノイなどの路線に、JALは成田からジャカルタなどの路線に投入している。また今後を担う大型機の主力機材としては、ANAは開発が進むボーイング777の次世代型777Xを、JALはエアバスが送りだした最新鋭機A350XWBを選定。これら最新鋭機には、さまざまな魅力がある。
拙著『これだけは知りたい旅客機の疑問100』でも詳しく解説しているが、そのひとつは「窓」だ。「客室の窓がもっと大きければいいのに……」。サービス向上に役立てようと航空会社が乗客へのアンケート調査を実施すると、ときどきそんな意見が書かれてくるそうだ。窓が大きければ、たしかに地上の景色もよく見えて楽しい。鉄道の世界では、窓を大きくとった観光用の車両が走っている。
しかし旅客機の窓は、構造上の理由でむやみに大きく作ることはできない。胴体部分を構成している何本もの柱が邪魔をして、スペースを十分に取れないのだ。
旅客機の外板には厚さわずか1~2mmのアルミ合金が使われ、その薄い材料で機体の強度を保つため、頑丈なフレームや縦通材(ストリンガー)を組み合わせた「セミモノコック構造」で設計されている。客席の窓は骨組みがない部分に作る必要があり、設置できるスペースが限られてしまう。仮に骨組みを減らすと、強度を維持するため外板を厚くしなければならない。そうすると機体重量が増し、飛ばすことができなくなる。窓が小さいのは、旅客機の宿命だったのだ。
ところが最近、そんな“常識”をくつがえす旅客機が世界の空を飛び始めた。先ほど紹介した、ANAが採用するボーイング787と、JALが選定したエアバスA350XWBである。
787の窓は従来機の1.3倍、A350XWBもエアバスのどの機種に比べても窓を大きく設計している。それを可能にしたのが、両機種ともにボディや主翼など機体の全重量の50%以上に採用した炭素繊維複合材だ。ボーイング787は機体全体の50%が、エアバスA350XWBでは52%が炭素繊維複合材でできている。
炭素繊維複合材は、アクリル繊維を約1000度という特殊な条件で焼いて作った直径5ミクロンの炭素繊維の糸を束ね、樹脂とともに重ねたものを焼き固めて製造する。“軽くて強い”特徴を生かし、ゴルフクラブのシャフトや釣りざおなどに利用されてきた。材料サンプルを手に取ってみると、本当に薄くて軽い。こんなヤワそうな素材で機体の強度は大丈夫なの? と不安に思えてくるほどだ。そんな不安を、787の導入に関わったANAの整備エンジニアは一蹴する。
「私たちも最初は不安で、どんな壊れ方をするのか確かめるために、材料を用意してたたいて壊してみようという話になりました。ところが、ハンマーでたたいて壊そうとしても、自分の手が痛くなるばかりで一向に壊れない。それで『強度も大丈夫、これなら心配ない』と全員で納得した経緯があります」
このように軽量かつ高強度の炭素繊維複合材を使用することで、壊れにくい大きな1枚板でボディを構成することが可能になり、継ぎ目を少なくしてキャビンの窓のサイズを拡大することに成功した。
次に航空機に乗る際には、ぜひこれらにも注目されると、より空の旅が楽しめるかもしれない。