ものづくりに携わる世界の若者がその腕前を競う2年に1度の技能五輪が11日から、ブラジル・サンパウロで開かれる。日本はかつて「世界最強」を誇ったが、韓国などに押されて前回大会では金メダル獲得数で4位に甘んじた。ものづくり大国の復権をかけ、トヨタ自動車日立グループなどの社員が世界一に挑む。

 「支えて下さった方々への思いを込めて、絶対に日本に金メダルを持ち帰る」「緊張すると思うが、自分の作業に徹する」――。サンパウロへの出発を前に都内で記者会見した日本代表選手らは、日の丸の入った紺のブレザー姿。取材陣の前で、そろってガッツポーズを決めてみせた。

 日本は今回の大会で40種目に計45人の代表を送り込む。選手団の山田亮団長は、「スポーツの五輪に負けない血のにじむ努力をしてきた」と話す。

 トヨタ自動車は日本企業で最多の5種目に参加。事故に遭った想定の車を修理する「自動車板金」に出場する清水拓摩さん(22)もその一人だ。4日間計22時間の競技では、へこんだボディーをトンカチでたたいて直したりする。指示書からの誤差などをもとに採点され、「100分の1ミリ単位で削ったりする正確さが求められる」(指導役の小林大輔さん)という。

 この種目はトヨタの社員が2連覇中。清水さんは「プレッシャーがかかるが大会を楽しみたい」と話す。

 メダル獲得が特に有力視されるのは、トヨタのほか、日産自動車日立グループなど、日本の大手メーカーが社員を送り込むものづくり系の種目だ。

 大手メーカーの選手の多くは、工場などの現場では働かず、企業内の練習施設などでひたすら技を磨く。トヨタの清水さんの場合、企業内訓練校のトヨタ工業学園の高等部を卒業後、ほかの仲間は工場に配属されたが、自身は学園に残って練習を続けてきた。

 目先の利益につながらない職人の養成に力を入れるのは、「現場のものづくりのレベルを上げるには、高度な技能を持つリーダーが必要」(日立製作所)と考えているからだ。

 技能五輪を経験した社員はその後、主に製品を量産する工場のラインではなく、試作品や最先端の生産設備をつくる部署に配属される。前例のない製品にチャレンジする仕事は、細かい手作業や、機械の構造への深い理解が欠かせない。トヨタではロボット開発など、日産では自動運転技術の開発などで、メダリストが活躍しているという。

 サンパウロ大会の予選を兼ねた昨年の国内大会の出場者数は5年前の大会より2割増。円安で業績が回復し、日本企業は再び技能五輪に力を入れ始めている。

■韓国の躍進に危機感

 日本は技能五輪で上位の常連だ。2005、07年の2大会連続で金メダル獲得数でトップに立った。だが、ここ3大会ではトップの座を韓国に奪われ、13年の前回大会では、16年ぶりに上位3位に入れなかった。今回は、「前回大会の5個を上回る金メダルを取り、金メダル数の上位3位以内を奪還したい」(山田団長)と意気込む。

 国をあげて選手を育成する韓国は、技能五輪をスポーツの五輪並みに重要視。メダリストは兵役を免除されるなど手厚く支援する。台湾なども急速に力をつけ、日本が世界で勝てなくなっている。成績低迷が続けば、「『ものづくり大国』の存在感が世界で下がったり、ものづくりに憧れる若者が減って現場力が低下したりしかねない」(厚生労働省の担当者)。

 関係者は危機感を募らせ、国内大会を主催する中央職業能力開発協会が前回大会の「敗因」を分析。手作業を重視してきた国内の大会の競技内容を、機械での作業が中心の国際大会のルールに近づける作業も一部の種目で始めた。

 国内ではライバルである日本企業がお互いの手の内を明かさない文化も、「チームジャパンで戦うように変わってきた」(日立の田宮直彦・総合教育センタ長)。企業間の合同練習や、過去の五輪での審査員の傾向などのノウハウ共有も進めているという。(高橋諒子、大日向寛文)

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 〈技能五輪〉 若手技能者が競い合い、技のレベルを高める狙いで1950年にスペインで始まり、日本は62年から参加している。43回目となるサンパウロ大会は、62の国・地域から選ばれた過去最高の1200人超が参加。原則22歳以下の若者が、「溶接」「移動式ロボット」「車体塗装」といったものづくり系の種目のほか、「洋裁」「洋菓子製造」など計50種目を競う。