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アマビエさんのお話

わたしは今でも若干、お寺や神社を訪ねることが、多少の趣味となっています。

今から約20年前、関東の一都六県にまたがる八十八ヵ所霊場を参拝しました。
毎週末になると、電車を乗り継いで最寄り駅まで行き、そこから徒歩で歩くスタイルで、
全八十八ヵ所を一年がかりで参拝しました。
そのときの経験は、良き思い出、心の財産となっています。

歳をとった今も、そのときの札所を都度再訪し、思い出をなぞっています。
過去記事「尊き御方の十一人連れ」でも書きましたように、寺社巡りをしていると
不思議な偶然に出くわすことがあり、それも密かな楽しみです。



しかし、良いことばかりではなく、苦い経験もありました。
6年前の3月10日に、栃木県にある某札所を再訪したときのことでした。

わたしは札所に着いたら、まず本堂の前へ行って読経をしてから、
その日の訪問の記念に、写真撮影タイムを楽しみます。

お堂や仏像の他に、納経所の入り口に掛かった「関東八十八ヵ所霊場」の看板。
これは霊場のシンボルなので、記念撮影に欠かせないということで、パシャッ!
その付近の、犬小屋にいたワンちゃんにもカメラを向け、パシャッ!

境内にある目につくものを、気ままに写真に収めていきました。
カメラ好きとしては、なかなか楽しいひとときです。



そうしていると、納経所の入口が突然ガラッと開き、
住職さんが出てきました。

「おたくね、お寺の写真を撮るのは公共物だから一向に構わないが
 ここから先は俺の私的な部分だ、その私的な部分にカメラを向けるなら
 一言声をかけてからにしてくれないか」

「最近、住居に侵入して金品を強奪する事件が相次いでいて
 不審者を確認次第、通報してくれと警察に言われている。
 悪気はないみたいだから、通報はしないが、一言声をかけてからにしてくれ」

わたしは直立不動で聞き入り「申し訳ありませんでした」とお詫びしました。
住職さんの言われたことは、まったく以てその通りで、
実際に盗難の被害が出ている事情があれば、尚更のことでした。

一方で、「お参りご苦労さまです」的な言葉がなく、つまり、
不審者と誤解されたまま終わったことで、後味の悪さは残りました。
このときの苦い記憶は、その後、心に長く影を落としました。



その他にも、こんなことがありました。

中国武漢ウイルス、所謂「コロナ禍」の猛威が世界を襲った 2020年。
日本でも「ステイホーム」「県境を跨ぐ移動は控えて」と政府から
要請があり、五月連休も帰省できず、家にいるしかありませんでした。

しかし、ヒマなので、どうしたって出掛けたくなります。
「県内だから特に問題ないっしょ」と思って、車を走らせ、
先述の同じ霊場の、県内にある札所「光明寺」へと向かいました。

到着し、車から降りて、本堂へ向かおうとすると、
外に出られていた住職さんが、わたしを見て一言。

「家にいなきゃいけないんじゃないの?」
「すいません。。。」

速攻で足止めを食らい、退散せざるを得ませんでした。
他のお寺では、参拝者の受け入れ黙認なところも多かったのですが、
このお寺では、住職さんの意向で強制退去の措置が取られていました。
政府の要請ですから、それも当然のことでした。



そのようなことが過去にありながら、歳を重ねた今現在も、
昔訪ねたお寺を再訪し、思い出に浸ることを楽しみとしています。

先日も、新調したカメラ DSC-RX10Ⅳ の試し撮りがてらに
コロナ禍で追い返されたとき以来の約4年半振りに「光明寺」へ行ってきました。
正直、何度もお参りしているお寺なので、新鮮さはありません。

しかし、過去記事「尊き御方の十一人連れ」でも書きましたように、
「虚往実帰(虚しく往きて実ちて帰る)」つまり、
「何事も期待せずそこへ行き、心は満足して家路に就く」
という気持ちにさせてくれる、小さな出来事が起きるやもしれません。

その日も、いつものように本堂前で読経してから、境内の様子を撮影しました。
すると、不動堂の前で、何やらカラフルな色合いのノボリが2本、
はためいているのが目に付き、見ると「終息祈願」と書かれていました。
ノボリの裾には、アマビエの絵も描かれていました。



それを見たとき、ああ、そういうことだったのかと、わたしは思いました。
あれから4年半が過ぎた今もなお、このノボリを立てている。
それほどの強い願いがあったなら、あのときの強制退去も納得できるよな、と。

おまけに、そのノボリに描かれたアマビエの絵が、
花の応援団の「クエッ、クエッ」と同じような顔をしていてですね(笑)
それを見たとき、何だかもう笑えてしまって、全てが氷解したというか。

コロナ禍のとき追い返されたことを、根に持っていたわけではありませんが、
そのことと、それから、先述の不審者と間違われた苦い記憶も含めて、
アマビエさんの絵が全てを笑い飛ばしてくれたという、そういうお話でした。
こうして、その日も「虚往実帰」な気持ちで、家に帰ることができたのでした。


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