ずるい女にはなりたくなかった
えろい男にもなりたくなかった
男にも女にもなりたくないから恋愛なんかしたくなかった
働きたくなかった
現実をみたくなかった
誰の言うこともききたくなかった
だから僕は走り出すフリをしながら
助走ばかりして
泳ぎ出すフリをしながら
準備体操ばかりして
そしてきっとこの世界で溺れてゆく
午後6時66分の時計を見ながら
僕はモニター画面に触れようとする
鼓動がどんなに激しくても誰かの心に触れることがないように
僕は画面に触れることができない
やがてすぅっと融けるように
モニターが僕なのか
僕がモニターなのかわからなくなる
境界がなくなり騒ぎがあたりを散らかしだす
とんつくてんてんと音がするから
僕は耳鳴りに耳を澄ます
耳鳴りのメロディーだけを聴こうとする
そしてまた僕は、僕の話を何も訊かない
だからそう、ここは僕の世界だ
ここは君の世界だ
明日の足跡を探すため、僕は図書館という名前の本屋に入って
文字だけを大安売りする消費デパートに入って
エレベーターのような密室で
エスカレーターのような足取りで
前へ前へと逆立ちするように
後ずさりのステップで歩き出す
整列され、どこまでも続く本棚は
機械人形の軍隊行進のように重々しく軽やかで
あの集団太極拳のような、ぎこちない柔和な体の動きが
機械仕掛けの風を起こすようで
頼りなく並び続けている
僕はその中から一冊だけ、
たった一冊だけを手にとって
そして僕が読まれることがないように、
僕が本を読もうとする
そしてまた、そこには物語が映し出され
新しい扉は開かれる
ひとつの文字を知るたびに
ひとりの人を知るたびに
やがて開かれるべき並行世界の扉はガチャリと音がして
鍵をかけられたのか、取っ手を掴まれたのか、扉が開かれたのか
そのどれもが間違っているのか、よくわからなくなる
そこで僕はゆっくり悟るように思い出す
あぁそうだった、、、、!
僕はわからなくなるために本を手にするのだ
文字に触れ、投影し、内なる隠された世界を読むために
意味に触れる機会に巡り合う奇跡を意味づけするために
僕は言葉で世界を思い込むために
塗り固められた嘘の輪郭線を確認し
たどたどしくたどり確認するように
やっぱり僕はつらつらつらりと文字を追う
原初の意味は決して伝わらない
伝わらないことを確認しながら読む
そしてまた安心するように
僕は孤独の海で
うゎんぅわんぅおんうぉんと
溺れて騒ごうか
すすすとスーーーっと文字が流れて
もにゃもにゃと…
あしたのために…
明日のために、
明日の為に!
ハッっと気付く。
僕の中で僕が目覚める。
「現実を見るな、俺を視ろ」
「明日を見るな、今を診ろ」
病理の陶酔の中で、心理呼吸の浸透圧で、激しく鼓動の孤独を感じながら
僕はまた眠りにつく
目を逸らすように、めをそらすように、
遠い世界を看るように