源氏物語と共に

源氏物語関連

撫子、リンドウ、葛葉、稲、藤衣

2008-05-19 14:16:32 | 

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夕霧の巻は、雲井雁と夕霧の橋田風ホームドラマと対照的に、
柏木の妻落葉宮とその母・御息女が住まう静かな小野の秋の田園風景が描かれる。


その中で花が色々出てくるので、ちょっとご紹介。


まず<撫子>について。


  『垣ほに生ふる撫子の、うちなびける色もをかしう見ゆ。
   前の前栽の花どもは、心にまかせてみだれあひたるに』(夕霧)


この時代、撫子には大和撫子と唐撫子(セキチク)があると書いたが、(拙文撫子参照)
この場合新潮古典成の訳は、「くびをかしげた花の淡い紅色も可憐に見える」とあり、
ここは唐撫子より大和撫子が妥当と思う。


現代のセキチク(唐撫子)は、大和撫子にくらべて背丈がかなり短く、色も濃い。
断定はできないけれど、くびをかしげるほど長くない。、
次の乱れあいたるという文章からも、風になびいているという背丈は
大和撫子そのものと思う。


我が家の大和撫子も背丈が伸びて先に蕾が出そうになっている。
風に揺れるか細い感じがする花である。


現代では、季節は夏に向かっているのに、ここでは秋の七草の一つという事が不思議。


夕霧では、女郎花(おみなえし)の名も出てくるし、荻原というオギの原っぱも出てくる。
秋らしい自然の沢山ある山里・小野の風景。


小野とは、京都の北白川を越えて現代の一乗寺から奥だとか。


珍しいのはリンドウの花の登場である。
<りんどう>
『枯れたる草の下より、竜胆のわれひとりのみ心長うはひ出でて露けく見ゆるなど・・』(夕霧)


リンドウは多年草で、花色は青紫。漢方では健胃薬。
源氏物語で不明な名前<くたに>かとも。


広江美之助の「源氏物語の植物」によると野分にも出ているよう。
リンドウや朝顔などの絡みついていたませ垣という秋の時節の描写にあった。


しかし、「知っとこ古典植物誌」によると
この夕霧の巻のリンドウはツルリンドウではないかとあった。


『・・竜胆のわれひとりのみ心長うはひ出でて・・』


つまりこのはい出でてという所がつるのあるツルリンドウかと。どうだろうか。


枕草子では、
「りんどうは枝さしなどもむつかしけれど、異花どもの皆枯れたるに、
いと花やかなる色あひにさしいでたるもいとをかし」


と、晩秋に花が皆枯れた中の鮮やかな色をほめている。


この場面は、晩秋の小野に向かう夕霧の心に、寂しい山里で皆枯れた中、
ふとリンドウの鮮やかな色が目にとまったとある。


その後の落葉宮の女房の小少将の紫の紙の手紙といい、何やら紫色を使用しているが、
夕霧にとって、リンドウは落葉宮なのかもしれない。



<葛葉>


『峰の葛葉も、心あわたたしう・・』(夕霧)


葛は秋の七草。豆科で山野に生え、茎は10メートル以上。紫色も細長い花がつく。
また根から葛粉や干した葛根は漢方では解熱剤。
またこのつるでカゴなどを編む事が出来る。


私も一度教えてもらって葛のつるでカゴを編んだ事がある。
山の川沿いの崖一面に生えている大きな葛のつるを取って編んだ。
無残なできばえであったが、はじめて知った葛の花と葉は予想より大きなもので感激した。


<稲>
 『鹿はただまがきのもとにたたずみつ、山田のひたにも驚かず。
 色濃き稲どもの中にまじりてうち鳴く』 (夕霧)


稲は文学的に雁や鹿などとの取り合わせでよくとりあげられるそうだ。
小野の田園秋の風情を現している。



<藤衣>
 『藤衣露けき秋の山人は 鹿の鳴く音に音をぞ添へつる』(夕霧)
これは本来は喪服の歌語。
もともとは、藤つるなどの粗末な繊維で織った服だが、
その後は喪服に転じた。


京都府立植物園の源氏物語の花
興味のある方はどうぞ。
撫子に夕霧の巻が載っていないとつっこんでおこう(^_-)-☆
http://www.pref.kyoto.jp/2008genji/1184817638183.html


画像は花図鑑より リンドウ