日々、内外のニュースに接していると、いろいろの感想や疑問が湧きます。それらについて、私なりの答えを探すべく、このブログを開きます。私は経済記者を30年、大学教授を16年勤めました。第一線記者と研究者の経験を生かし、内外の経済情報を立体的に分析します。
2017-12-08 05:05:00
景気の先行きに赤信号
曲がり角の半導体景気
韓国銀行(中央銀行)が、12月1日に発表した10月の主要景気指標は、消費・投資・生産がともに悪かった。
韓銀は前日の11月30日、先行きの景気が明るいと太鼓判を押した翌日、この始末で赤恥をかいた。
私は、12月3日のブログで韓国経済と取り上げ、サブタイトルに「家計債務急増で重大局面、大企業の景況も19ヶ月『水没』」とつけておいた。
韓国経済が順調などあり得ないこと。10月の重要指標急落は、当たり前の話なのだ。
韓国大企業の景況感は、12月で19ヶ月連続して好不況の分岐点(100)を下回っている。
これは、不況感を脱していない証拠だ。
それにも関わらず、7~9月期のGDPが、実質で前期比1.5%も成長したのは、「10月の秋夕連休(中秋節、9日間)」によって、企業活動が大幅な前倒しとなった結果であろう。
季節調整値では、調整しきれないほどの影響が統計に現れたのだ。前述の10日間もの超大型連休が、統計の攪乱要因になったに違いない。
統計談義はこの程度にして、12月1日に発表となったデータは反っくり返るほど驚かされた悪い数値が出てきた。
景気の先行きに赤信号
『朝鮮日報』(12月2日付)は「韓国経済10月の消費・投資・生産、トリプルマイナス」と題した記事を掲載した。
7~9月期の実質GDPは、前期比1.5%増で7年ぶりの高水準となった。
前年同期比の成長率は3.8%で、14四半期ぶりの大きさだ。この数字が発表されたのは11月30日である。
「韓国経済好調」という喜びは、たった1日しか持たなかった。
皮肉な話だ。翌日は「トリプルマイナス」という想像もつかないデータが飛びだした。
この背景は、私のブログ(12月3日)が取り上げている。
前記ブログを書いている段階では、データは未発表であった。
というのは、私は早めに入稿しているので、どうしても時間差が出る。ご容赦いただきたい。
(1)「10月の産業生産が過去21カ月で最大の落ち込みを示した。
消費と投資に続き、生産まで減少する『トリプルマイナス』の状況に陥った格好だ。
9月には『トリプルプラス』だった経済が1カ月で正反対の状況となった。
韓国統計庁が先月30日発表した10月の産業活動動向によると、産業生産は全体で前月を1.5%下回った。
減少幅は昨年1月(1.5%)以降で最大だった。10月の生産減少と同時に、消費動向を示す小売売上高は2.9%減となり、設備投資は14.4%減という急速な落ち込みを示した」
10月のデータでは、生産全体が前月比で-1.5%、小売売上高は同-2.9%、設備投資も同-14,4%という落ち込みである。
この中で、最も気懸かりなのは設備投資の落ち込みだ。これは、雇用に大きく影響する。
文政権は、来年から最低賃金をなんと16.4%も引上げる。
この大幅引上げでは、経営的に耐えられない企業も出てくるので、「戦線縮小」という形で廃業なども噂に上がっている。
その予兆が、設備投資に現れてきたとも見えるのだ。これだけの設備投資縮小は不気味である。
仮に、今後も設備投資が落ち込んだままという状況になると、文政権への風当たりが強くなるはずだ。
文政権は、賃金引き上げだけに関心をもっており、生産性向上という企業活動活発化には無関心である。
大企業法人税の引き上げを行なうなど、世界の潮流と逆方向に動いている。労働市場改革では全くの「逆走」だ。こういう、トンチンカンな経済政策が、総批判の的になるのは避けられまい。
(2)「10月のトリプルマイナスについて、企画財政部(省に相当)関係者は『秋夕連休を控え、まるで仮払いでもしたように、9月に数字が前倒しで計上されたものだ』と説明した。
輸出業者が大型連休を控え、10月分の生産と輸出を前倒ししたため、9月の産業活動が活発になり、そのあおりで10月は相対的に数値が悪化したとの見方だ。
実際に9月は生産が0.8%増、消費が3.1%増、投資が5.3%増というトリプルプラスだった」
普通の政策当局であれば、9月のデータが「トリプルプラス」になった段階で、警戒すべきであった。
それが、輸出の好調に目がくらみ、10月の「トリプルマイナス」への想像にまでは頭が回らなかったのだ。
IMF(国際通貨基金)まで、韓国の実質GDPを上方修正していたから、韓国当局だけを責めるわけにもいくまい。
(3)「8月以降、生産、消費、投資は毎月増減が入れ替わるシーソー現象を示している。
企画財政部は、『10月の産業活動は前月比で相対的な調整を受けたが、全般的には回復の流れが続いている』と判断した。
これについて、専門家の見方はさまざまだ。
現代経済研究院のチュ・ウォン経済研究室長は『(政府判断のように)秋夕連休が数値に影響を与えた点を考慮し、韓国経済が回復基調にあるとはいっても、その勢いは長続きしない可能性が高い』と述べた。
景気の先行きを示す先行指数の循環変動値が8月以降、101.8、101.6、101.3と下落しているためだ。
チュ室長は『製造業の平均稼働率が8月から3カ月連続で低下し、建設受注が9月から2カ月連続で減少していることも悪材料だ』と指摘した」
このパラグラフでは、重要な点が取り上げられている。
① 景気の先行指数の循環変動値が、8月以降、101.8、101.6、101.3と下落。
② 製造業の平均稼働率が、8月から3カ月連続で低下。
③ 建設受注が、9月から2カ月連続で減少している。
これらデータの悪化は、韓国経済の先行きを占う上で、極めて気になる悪材料になってきた。
これに、注意を払わずGDPの安易な上方修正を喜んでいた点は、不注意の一語に尽きる。
前記の3データは、いずれも設備投資の低下に結びつく要因である。
私は昔、東洋経済で景気担当記者であった。
毎週、通産省(現・経済産業省)へ通い、産業データを収集して取材した。
その時の経験から言っても、これだけの「悪材料」が重なれば、企業が設備投資を控えて当然であろう。
先ず、先行指数の低下は、タイムラグ(時間の遅れ)を置いて、一致指数(生産・出荷など)の産業活動が落ち込みを示唆している。
製造業の平均稼働率低下は、現有設備で間に合うことを意味しているから、増産=増設の必要性は薄らぐ。
また、設備投資に結びつく建設受注が9月から具体的に減少過程に入っている。ここまで、「悪材料」がそろえば、今後の設備投資の落ち込みは避けられないと見るほかない。
私は、12月3日のブログで、半導体景気について慎重論を述べた。過去の半導体市況の暴落の例を出して、楽観論に水をかける内容である。ほぼ、この線に沿った記事が出てきたので紹介したい。
曲がり角の半導体景気
『朝鮮日報』(12月2日付)は、「韓国経済を支える半導体の景気見通しに悲観論」と題する記事を掲載した。
現在、韓国経済を支える唯一の柱は、半導体産業しかない。自動車は不振だ。
これまでは、「サムスンと現代自」が韓国経済の二枚看板であった。
それが、サムスンの一枚看板となり、それを裏で支えた半導体市況が頭打ち状況を見せている。
これまでのような半導体市況の「奔騰」はあり得ない。「山高ければ谷深し」である。
市況産業の怖さはここにある。
(4)「韓国経済を支えている半導体産業の景気見通しに悲観論が流れている。
市場専門家の多くは来年までは半導体の好況が続くと予想しているが、
今年10月以降、サムスン証券、世界的な市場調査会社のIHSマークイット、米投資銀行モルガン・スタンレーなどが相次いで半導体市場に警告を発している。
サムスン電子、SKハイニックスなど世界的な半導体メーカーが攻撃的に設備拡充を行ったことで、これまで半導体好況の要因となっていた供給不足が近く解消されるとの見方だ。
韓国科学技術院(KAIST)の李炳泰(イ・ビョンテ)経営学部教授は「サムスン電子、SKハイニックスが半導体生産量を増やしたことで結局は半導体価格が下がり、景気後退につながる可能性はある」と指摘した」
昨年6月に1.31ドルだったDRAM価格(4Gb)の固定取引価格は、今年7月末に3.25ドルまで上昇した。
それ以降は上昇ペースが鈍り、3.5ドル前後で推移している。NAND型フラッシュメモリー(128Gb)も昨年6月の3.60ドルから今年8月には5.78ドルまで上昇した後、9月は5.60ドルで取引され、下落に転じている。
以上は、『朝鮮日報』記事による。市況産業はいったん、頭を打ち先行き弱気論が出てくると、さすがの高騰相場も冷やされて様子見が始まるもの。
通常は、これを契機に下落基調を辿るケースが圧倒的だ。
こうした微妙な空気を反映して、韓国のサムスン証券は11月、「来年半ば以降、メモリー半導体の景気サイクルが後退局面に転換する」とし、
IHSマークイットは「DRAM価格が今年、1Gb(ギガビット)当たり0.77ドルでピークに達した後、来年は0.67ドル、19年は0.45ドル、20年には0.34ドルに下落する」との予測を出している。
いずれも『朝鮮日報』記事だが、こうした記事が出てきたこと自体、半導体市況の曲がり角を証明している。
(5)「モルガン・スタンレーは11月26日、メモリー半導体の景気が近くピークを迎えるとするリポートを発表し、韓国株式市場に衝撃が走った。
モルガン・スタンレーは『NAND型フラッシュメモリー価格の値下がりは既に始まっており、DRAMも来年1-3月以降は供給不足が解消する見通しだ』とし、2019年以降はメモリー半導体の供給が需要を上回るとの見方を示した。
モルガン・スタンレーはサムスン電子についても、『サムスン電子のこれまでの業績を支えてきたスマートフォン市場は停滞期に入り、これ以上営業利益を期待することが難しい。
テレビの出荷台数は減り続けており、生活家電の営業利益率も3%前後にとどまる見通しだ』と評価した」
モルガン・スタンレーは、悲観的な見通しを発表している。
NAND型フラッシュメモリー価格の値下がりは既に始まっており、DRAMも来年1~3月以降は供給不足が解消する見通しだ、という。
確かに、先のパラグラフで説明したように、NAND型フラッシュメモリーもDRAMも、さらに市況が跳ね上がる雰囲気ではない。逆に、値下がりの公算が高くなっている。
半導体の最大需要先であるスマートフォン市場は、停滞期に入った。世界最大の中国市場のスマホ出荷台数が、今年3月から前年比マイナスが続いている。
(6)「需要面では人工知能(AI)による自動走行車やモノのインターネット(IoT)など新たな市場が登場したことがプラス要素だが、これまでメモリー半導体の主な用途だったパソコンは5年連続で世界市場の規模が縮小しており、スマートフォンも成長停滞期に入った。
一方、来年にはDRAMの生産量が前年比22%、NAND型フラッシュメモリーは39.9%増える見通しだ。
半導体業界関係者は、『来年前半から中国メーカーの半導体量産が本格化するため、市況がどう変化するか予測が難しい』と話した」
ここで気を付けるべきは、世界の「安売り王」という価格破壊者の中国が、来年前半から半導体の量産化に入ることだ。
これまでも鉄鋼やアルミの過剰生産によって、世界市場を攪乱してきた。
そういう悪名を持つ中国が、半導体市場へ参入すれば大きなリスクをはらむはずだ。
半導体主要マーケットのパソコンやスマホは、すでに成熟市場と化している。
既存大手の半導体メーカーは、中国を迎え撃つために増産体制に入っている。
半導体産業が、収益的に有望産業であり続ける条件を失いはじめたようだ。