勝又壽良の経済時評
日々、内外のニュースに接していると、いろいろの感想や疑問が湧きます。それらについて、私なりの答えを探すべく、このブログを開きます。私は経済記者を30年、大学教授を16年勤めました。第一線記者と研究者の経験を生かし、内外の経済情報を立体的に分析します。
韓国、「文大統領」屈辱的訪中による後遺症「日米の信頼失う」
日米の信頼を失った訪中
中国の主張を飲まされる
文大統領は、中国から国賓として招かれたが冷たい待遇を受けた。
3泊4日の訪問日程では、10回の食事があった.中国最高指導部が接待したのは習氏の一回のみ。
李首相が午餐会を取り止め、会見を午後遅くにするという仕打ちを受けた。中国の企みは何だったのか。
韓国は、このように裏表のある中国に対して、なお「忠誠」を誓っている風情である。
馬鹿馬鹿しい限りだが、韓国大統領府を牛耳る「86世代」は、「反米・親中朝」派である。
中国から冷たい仕打ちを受けても、それを否定して中韓友好の実が上がった訪中と弁解している。ここまで、中国にひれ伏している姿を見ると、「哀れ」の一言では済まされまい。
日米の信頼を失った訪中
『中央日報』(12月18日付)は、「韓国は日米の信頼を失い、中国は韓国民の心を失った」と題する記事を掲載した。
この記事は、韓国では「中国学の開拓者」として50年以上にわたって中国を見つめてきた高麗(コリョ)大学の徐鎭英(ソ・ジニョン)名誉教授のインタビューをまとめたもの。
文大統領の訪中失敗を厳しく指摘している。
とりわけ、日米への「裏切り」が、今後の韓国外交の道を狭くさせると警告した。
(1)「文在寅政権は韓中会談の準備過程から、戦略的に中国へアプローチした。
中国との戦略的協力強化を通じて、韓半島(朝鮮半島)問題を解決するメッセージを送ることだ。
いわゆる『3不』の立場
〔①THAAD(高高度ミサイル防衛)追加配備をしない、
②米国のMD(ミサイル防衛)体制に編入しない、
③韓日米軍事同盟に発展しない〕を中国と性急に公約した。
文大統領は、日本の安倍首相と米国のトランプ大統領の面前で、『日本は我々の同盟ではない』と言い放った。
日米のインド太平洋戦略に対しても、青瓦台(大統領府)がわざわざ出て『編入の必要はない』と明らかにした。
これらが戦術的な中国への代表的メッセージだ。
さらに一歩進めて、今回の首脳会談を通じて、韓日米の3国安保協力に立脚した20世紀の冷戦的東アジア秩序の代わりに、21世紀を中国と共に切り開いていくというメッセージを明確に出した」
文氏は、中国訪問前に入念な対中メッセージを準備していたと指摘する。
「3不」はその代表的なものだ。
それ以前にも、「日本は同盟国でない」
「日米のインド太平洋戦略とは無関係」という発言を重ねてきた。
だが、中国は「3不」を文書化するように求めたのだ。
韓国はこれに応じず、結果として中国側の姿勢を急変させた。
格式では国賓という最高の扱いだが、中身は最低最悪の粗略な国賓として蔑まされた。
こう見ると、韓国の中国への接近姿勢は全て無駄になった。
韓国政府は、中国から足下を見られて、もう少し「振り回してやれ」という暴力団的な冷酷さを見せつけられている。
韓国の「86世代」は、惚れた弱みでまだ目が覚めずに「親中姿勢」をとり続けている。
ここまで中国に入れ込んでいる動機は何か。
学生時代に陥った「反米・親中朝」の思い込みが、30年以上経ってもなお醒めないのだ。気の毒と言うほかない連中である。
(2)「徐教授は、文大統領の今回の訪中で最も大きな損失は、『日本と米国の信頼を失った点』だと述べた。
『米国は、文在寅政府の今後4年間またはその後の韓国政府とどこまで安保協力をしていくべきか、北朝鮮問題を扱うにあたり、韓国政府が果たして助けになるのかどうか疑わざるを得ない状況だ。
韓国が中国に傾斜したと批判してきた安倍政権も、韓国が日米との価値を共有して協力するような国ではないことが確実になったと判断するだろう。
今後、米国が韓国を排除して独自の北朝鮮措置を取ったり、決定的な瞬間に日米が韓国の味方についてくれなくなったりする可能性がある。
20年前、外国為替危機の時(注:1997年のアジア通貨危機)が最も恐ろしい事例ではないか。
その時は経済的破産だったが、今後は軍事・安保的破産を迎えることになるかもしれない」
文氏の訪中3泊4日の旅は、ひたすら中国の歓心を引くことに汲汲としていた感じだ。
後のパラグラフに出てくるが、「南京事件」について文氏は3度も言及した。
習氏が対日関係を考慮して、自らの談話を自粛するほどの気配りを見せたのだ。
これに比べ、文氏の発言は、中国へのご機嫌取りに終始し、対日関係は無視し続けた。習氏とは好対照をなした。
日米にとって、文氏の行動は「中国寄り一辺倒」に映ったはずだと指摘する。
「信頼できない韓国」というイメージがより一層、強まったとのでないかと懸念している。
韓国を襲うかも知れない3度目の通貨危機が起こっても、米中は通貨スワップを結んで救済する必要もあるまい。
また、記事では「軍事・安保的破産を迎えることになるかもしれない」と危機感を募らせている。
韓国の「中国寄り姿勢」が、こういう反作用をもたらすはず。それすら読めなかった外交知識のない「86世代」が、外交の指揮を執った当然の事態と言える。
(3)「徐教授は、文大統領が南京大虐殺に3回も言及したことも問題に挙げた。
『文在寅政権は、南京を媒介に中国と日本に対する歴史同盟を結ぶ方向にいくかもしれず、これを通じてTHAAD体系問題を迂回して、戦略的協力を引き出すことができると考えているようだ。
だが、これは日本を諦める危険な行為だ。
中国のパワーが強くなるといっても、今後20年は日本や米国とも協力して生きていかなければならない。
日本をそんなに追い詰めて何を得ようというのか。日本を追い詰めたからと言って中国から何かを得ただろうか」
文政権は、中国で南京事件を持出すことで、日本に対する「警戒観」を共有し、これをテコに「THAAD」問題を乗り越えようとしたと指摘している。
日本を悪者にして、韓国が漁夫の利を得ようという策略だったと見られる。浅はかなことを考えたものだ。
文政権は、日本を踏み台にして中国から目先の利益を得ようとしたが、二つの誤算をしている。
中国が今後、不動産バブルの後遺症に本格的に苦しむという事実を忘れている。
そして、中国が世界の覇権を握ることはないという点である。
文政権は、「反米・親中朝」が基本的なスタンスである。
ここから導き出された「架空」の結論に酔っているに違いない。
文政権は、独裁政治が勝ち民主政治が敗退するという見通しなのだろう。
日米が、こういう韓国を支援する理由があるだろうか。この記事では、この点を懸念している。
(4)「文政権は、『3不』で中国に譲ればTHAAD問題が解決でき、北朝鮮も平昌に引っ張ってきて、それによって南北関係が改善されれば文在寅政府の国際的地位も上昇するという一連の構想を描いていた。
この思惑で、大急ぎで17年中に習近平国家主席に会おうとしたようだ。
平昌冬季五輪の2年後には東京五輪、その2年後には北京冬季五輪が開かれる。
韓日中に集まった3つのオリンピックを通じて東アジアを平和と祝祭の場にできるという絵を描いて中国がこれに引き寄せられると考えたかもしれない。
問題は、中国を読み誤ったところにある」
「86世代」の考えついた対中戦略は、極めて幼稚なものだった。
「3不」で中国を釣り、THAAD問題を乗り切る。
さらに、これからアジアで続く五輪開催で日中韓三カ国の間で協力関係を結び、平昌冬季五輪で日中に協力させるというものだ。
「海千山千」の中国が、この戦術にだまされるはずがない。「
3不」を中国に提示した段階で、中国はまたとない機会が巡ってきたと小躍りしたに違いない。
韓国は、中国を甘く見過ぎての失敗である。外交専門家でない「86世代」が考えついた「駄作」のアイデアである。
(5)「中国が得たものは何か。
韓国が不名誉に甘んじながら『強大国・中国』に汲々としている姿を全世界に、特に米国に見せつけた。
『それ見ろ。お前が大好きな韓国が私のところに来ている』と。
強大国の政治で相手の貴重なカードの一つを、それも引っ張って奪い取ってくるのは大きな意味があることだ」
中国は、外交戦で張り合う米国に対して、「米韓同盟」で結びついているはずの韓国が、中国へ馳せ参じている姿を見せつけて勝利に沸いているだろうと指摘している。
そうだとすれば、文政権は米国の信頼も裏切ったことになる。
韓国は、民主陣営を離れて共産陣営に走ったという評価になれば、世界史の笑い物になろう。
やっぱり、「86世代」は学生運動家上がりの妄念集団という位置づけで終わるのだ。
中国の主張を飲まされる
『朝鮮日報』(12月18日付)は、「韓米同盟と国民のプライドを傷つけた文大統領の訪中外交」と題する社説を掲載した。
この社説でも、文大統領の言動が日米の信頼を傷つけたとして、厳しく批判している。
「86世代」にとって、「反米」が基調であるゆえに日米の信頼感など重視していないのかも知れない。
民主主義国でありながら、中国や北朝鮮に親近感を持つという類い希な政権の当然の結末であろう。
(6)「韓国大統領府は12月17日、
『わが国の安全保障上の利益を確実に保護した』
『THAAD(米国の高高度防衛ミサイル)に伴う(韓中間の)問題は解消された』などとして文在寅大統領の3泊4日の中国国賓訪問の成果を自画自賛した。
大統領府はまた北朝鮮の核問題をめぐり中国との間でいわゆる『4大原則』に合意したことも成果だと主張している。
この4大原則のうち『韓半島(朝鮮半島)での戦争を容認しない』と『韓半島無核化』『対話による平和的解決』の三つは1993年から中国が24年にわたり繰り返し主張してきたことだ。
今回はこれに「南北関係改善は韓半島問題の解決にプラスになる」という内容が追加されただけだ」
中韓の間で合意された「4大原則」のうち三つまでは、中国が1993年から24年にわたり繰り返し主張してきたことがらである。
文氏はこの中国の原則を飲まされたに過ぎない。
最大の問題は、「韓半島(朝鮮半島)での戦争を容認しない」点とされている。
誰も戦争を好む人間はいない。
だが、北朝鮮に核を放棄させる上で、軍事オプションを持たずして、どのようにして核を放棄させるのか。警察官が泥棒を捕まえるのに、ピストル所持を許されるのと同じ理屈だ。
文氏は、この項目を受け入れることで事実上、北の核保有を認める算段だろう。
将来は、北を中心にして南北統一を図る。
「86世代」の民族統一論は、南北いずれが統一の主体でも構わない。ただ、統一できればそれで良いという考えをカムフラージュしているとも読めるのだ。
米国が、文政権を警戒するのは当然である。
(7)「文大統領は12月15日に北京大学で行った講演で、『中国と韓国は近代史における苦難を共に克服した同志』と述べた。
しかしあの時日本による侵略に共に対抗した中国(注:中華民国)は今の中国とは違う。
今の中国は、6・25戦争(朝鮮戦争)で韓国軍兵士を数多く殺傷し、統一を妨害したあの中国だ。
いつまでも過去にしがみついてはいられないとなれば、確かに今の中国と共に新たな未来に向けて進んでいかねばならない。
しかし人間であれ国家であれ、決して忘れてはならないこともあるだろう。
また文大統領の訪中日程が南京虐殺80周年と重なったことも思慮に欠けていた。
韓国が日本を敵対視しないのなら、相手を無用に刺激する必要は無い。
中国の習近平・国家主席が南京で何も語らなかったのは日本との外交関係を意識していたからだ。
ところが、その当事者でもない韓国の大統領がこの日に中国を訪問した。韓国にとって、日本との外交は必要ないのだろうか」
日本が、日中戦争で戦端を交えたのは中国共産党ではない。中華民国である。
文氏は、この歴史的事実をわざと間違えた振りをしている。
共産党は、日本軍に蒋介石軍の情報を売っていた「売国奴」である。
この共産党軍が、朝鮮戦争では38度線を突破して、韓国へ侵略してきた。
韓国がこういう侵略相手に、親近感を持つというのは不思議な感覚である。
「中国と韓国は、近代史における苦難を共に克服した同志」ではない。中国は、韓国に人的・物的な損害を与えた侵略者である。
文氏は、中国の機嫌取りに終始して、南京事件で日本を敵視するごとき演説を3度もした。
これは、日本に対する敵視であると指摘している。
習氏ですら自粛しているのに、文氏は積極的に憎まれ役を買って出ている感じだ。
この社説では、「韓国にとって、日本との外交は必要ないのだろうか」と疑問の声を上げている。
韓国外交にとって、日本の存在は大きいことを言外に示唆している。
(8)「文大統領の訪中によってTHAAD報復が撤回され、中国に進出した韓国企業への圧力が解消されたことは大きな成果だ。
しかし、これらの成果を得るため失ったものはあまりにも多い。
何よりも米国と日本が、『韓国は中国の側に立った』との疑念をさらに一層強くしたことだろう。
かといって、(韓国が)中国からの信頼を新たに勝ち取ったわけでもない。
このままでは,韓国をめぐる問題が韓国抜きで決められる惨事がまたも繰り返されるのではないか」
文氏の訪中が、日米から不信の念を強めたと指摘している。
代わりに、中国との関係が深まったのか。
これは中国の冷たい対応が示すように、不信感を強めている。
「3不」という安全保障政策を囮にして、中国をTHAAD問題解決へ誘い出す策略が、逆に韓国の手足を縛る結果になった。
皮肉な結末である。
韓国は本来、米韓軍事同盟の枠の中で行動すべきだが、妄想を抱いて飛び出そうとし大火傷を負った。
今回の「3不」騒動は、韓国が国際情勢に関して無知であることが招いた問題である。
(2017年12月22日)