「半導体バブル」終焉?米IT大手の設備投資減で東芝メモリ減産
11/5(月) 6:00配信
ダイヤモンド・オンライン
「半導体バブル」終焉?米IT大手の設備投資減で東芝メモリ減産
米オレゴン洲にあるフェイスブックのデータセンター。ITの巨人たちの巨額投資が、メモリーバブルを支えてきた Photo:Bloomberg/gettyimages
半導体バブルをけん引してきたメモリー大手が、相次いで投資を抑制した。米IT大手がデータセンター向けの投資を控え始めたからだ。
活況だった半導体市場に黄信号がともりそうだ。(「週刊ダイヤモンド」編集部 大矢博之)
半導体メモリーバブルをけん引してきたサムスン電子に続いて東芝も──。
東芝メモリと四日市工場を共同運営する米ウエスタンデジタル(WD)が、同工場への新規製造装置導入の延期を決めた。
併せて、同工場での減産も発表した。
メモリー業界首位の韓国サムスン電子は既に設備投資を抑制しているが、業界2位と3位の東芝メモリ・WD連合が設備導入の先送りを決めたことで、半導体バブルの恩恵を受けていた製造装置業界にも余波が及びそうだ。
半導体業界には3~5年ごとに好不況を繰り返す「シリコンサイクル」の波があるといわれてきた。
ところが2016年以降、半導体市場が長期的に成長する「スーパーサイクル」に入ったとする見方が広がり、業界はバブルの様相を呈していた。
実際、世界半導体市場統計(WSTS)によれば、17年の半導体市場規模は過去最高の4122億ドルに達し、前年から21.6%伸びた。
主役を演じたのはデータの保存に使われるメモリーで、市場規模は前年から61.5%増の1239億ドルとなり、半導体市場の約3割を占めるまでに急成長した。
.
これまでメモリー市場成長の原動力になっていたのは、スマートフォンの普及だ。
ただ、世界のスマホ出荷台数は年10億台を超えたころから頭打ちになり、
米調査会社IDCによれば、17年は前年比0.3%減の14.6億台と初めて減少。18年も同0.2%減の見通しで、踊り場を迎えている。
そうした中、超大口の買い手が現れた。グーグルやアマゾン、マイクロソフト、フェイスブックなど、米国を代表するITの巨人たちである。彼らが巨費を投じて建設するデータセンターのサーバー用にメモリーを買いあさったのだ。
従来、データセンターの記憶装置は、モーターで駆動するHDD(ハードディスクドライブ)が主流だった。
だが、ここにきてフラッシュメモリーを用いるSSD(ソリッドステートドライブ)に置き換える流れが加速している。
SSDはHDDに比べて高価だが、低消費電力かつ処理が速いというメリットがある。運用コスト削減につながるのはもちろんなのだが、とりわけアマゾンやマイクロソフト、グーグルがしのぎを削る企業向けクラウドサービスでは、大量のデータを瞬時に処理することが要求される。
だから、“お金持ち”の米IT大手にとって、データセンターはSSD一択なのだ。
17年後半から米IT大手の設備投資は加速した。とりわけグーグルの伸びは顕著で、18年1~3月は77億ドルと前年同期の約3倍を投じている。米IT大手のデータセンターへの巨額投資。これがメモリーバブルの正体だ。
● データ独占批判や圧縮技術向上で メモリー需要減
メモリーバブルをもたらしたのが米IT大手ならば、終焉をもたらすのもまた、彼らの決断だ。
「大規模なクラウドサービス事業者のデータセンター向けの設備投資が、一時的に減速している」
WDのマイケル・コルダノ社長は10月25日の決算発表で、19年のメモリー出荷量を当初計画から記憶容量ベースで10~15%引き下げる今回の減産の背景について、こう説明した。
米IT大手の投資抑制について、調査会社IHSマークイットの南川明主席アナリストは、二つの理由があると説明する。
一つは5月のGDPR(EU一般データ保護規則)施行や、フェイスブックの大規模情報漏洩事件など、ITの巨人がデータを独占することへの風当たりが強まったことで、データセンターへの投資意欲が減退しているという。
もう一つは、データ圧縮技術の向上だ。データセンターに保存されるデータの約7割は画像や動画で、メモリー価格の高騰もあって、米IT大手は画像圧縮技術の開発を加速させた。その結果、「従来ほど記憶容量が必要とされなくなっている」(南川氏)。
世界半導体製造装置統計によれば、18年4~6月の製造装置の世界販売高は前四半期比1%減の167億ドルで、2年半ぶりにマイナスに転じた。
サムスン電子の投資抑制の影響もあってか、韓国での販売高が同22%減の48.6億ドルと落ち込んだことが要因だ。
メモリーへの投資が抑制される一方、イメージセンサー世界首位のソニーは10月30日、今後3年間の半導体事業への設備投資を当初計画から20%増の6000億円へと増やす方針を明らかにした。とはいえ、17年のセンサー市場は125億ドルで、メモリー市場の約10分の1の規模にすぎない。
WSTSは19年の半導体市場を前年比4.4%増と予測している。メモリーバブルのような半導体市場の2桁パーセント増の急成長は、当面は望めないようだ。
.
週刊ダイヤモンド編集部
別記事
2018.8.6
サムスン半導体投資減額の衝撃、バブルの陰りは東芝メモリにも?
半導体バブル終焉の始まり?
背景には、今年初めから続くフラッシュメモリー価格の下落がある。
サムスンは17年に3Dメモリーの量産で先行したが、今や東芝メモリ、韓国SKハイニックス、米マイクロン・テクノロジーなど業界全体が相次ぎ量産に参入。
さらに、中国で紫光集団が総額3兆円のメモリー工場を年内にも稼働させる見込みで、価格競争は激しさを増している。
ある東芝メモリ幹部は、「サムスンさんは17年に投資を激しくやり過ぎたので調整を入れているようだが、市況全体に変化はない」と冷静さを崩さないが、「モノ不足だった17年は顧客も二重発注したのでバブルが起こったが、それが修正されつつあるのは確か」と認める。
もっとも、米アップルが株主でもある東芝メモリは、今秋の新型iPhoneに向け、再びフラッシュメモリーの出荷拡大が期待できる場面だ。
だが、スマートフォンの需要はピークアウトを迎えつつあり、あらゆるものがネットにつながるIoTや、ビッグデータでばら色の未来が語られてきたデータセンター向けの需要も出荷実績が試される局面に入ってきた。
急速に意識され始めた半導体メモリーのバブルの終焉。半導体の主役を演じてきたフラッシュメモリーの投資環境は曲がり角を迎えている。
(「週刊ダイヤモンド」委嘱記者 村井令二)
東芝メモリが建設を開始した新たなフラッシュメモリー製造拠点の北上工場。サムスン電子の投資減額で新たな判断が迫られる
フラッシュメモリーの活況はピークアウトか
半導体フラッシュメモリーの活況はピークアウトを迎えたのだろうか──。
世界規模で半導体市場がバブル化する中、業界をけん引する韓国サムスン電子が2018年のNAND型フラッシュメモリーの投資計画を減額したことが分かった。
半導体製造装置業界を中心に衝撃が走っており、英調査会社IHSマークイットは18年のサムスンのNAND型フラッシュメモリー投資額の予測を約30%も引き下げ、76億ドル(約8300億円)に下方修正した。
17年の113億ドル(約1.2兆円)に比べても大幅な減額だ。
世界半導体市場統計(WSTS)によると、17年の世界半導体市場規模は16年比22%増の4122億ドル(約45兆円)で過去最高だったが、その原動力がフラッシュメモリーだ。
サムスンは巨額資金を三次元(3D)構造のメモリーを中心とする設備に投入し、17年の世界シェアを38.7%に引き上げて2位の東芝メモリの16.5%を突き放した。
東芝メモリも、主力の四日市工場で3Dメモリーの設備投資を増強し、2ヵ所目の拠点となる北上新工場の建設を開始するなど、サムスンに対抗して投資額を増やしてきた。
IHSによれば、17年の投資額は、協業する米ウエスタンデジタルとの合算で50億ドル(約5500億円)。1
8年もこの水準を維持するのか、それともサムスンに続いて投資を減額するのか、半導体業界全体が注視している。