勝又壽良の経済時評
日々、内外のニュースに接していると、いろいろの感想や疑問が湧きます。それらについて、私なりの答えを探すべく、このブログを開きます。私は経済記者を30年、大学教授を16年勤めました。第一線記者と研究者の経験を生かし、内外の経済情報を立体的に分析します。
2018-11-23 05:00:00
中国、「空前絶後」バブル最終局面で不動産時価「日欧米上回る」
テーマ:ブログ
中国の不動産時価総額が、米国とEUと日本を合わせた額を超えたというニュースに、中国市民はよろこんでいると言う。
平成バブルの盛んなころ、東京の地価で米国を買えるというたわいない話が交わされたものである。
あの時の日本と、いまの中国は瓜二つだ。バブルが、社会的な病理であることを実感させる。正常な判断能力を奪うからである。
一度膨らんだバブルが破裂したときの強烈さは、日本社会が経験済みである。
超高値の不動産売買を支えた金融システムは、価格暴落時に受ける衝撃が極めて大きい。
高値で成立した債権債務は、価格暴落時には決済不可能になるゆえ、その尻はデフォルトという形で金融システムへ持ち込まれる。
こうして金融システムの破綻が起るのだ。すでに、中国でその一部が始っている。
こういう視点で見ると、中国の不動産時価総額が先進国合計を上回る事態は、喜ぶべきことでない。逆に、破裂した時の影響を予想すれば恐怖にかわるはずである。中国社会はそのことに気づいていないのだ。
『レコードチャイナ』(11月21日付)は、「中国の不動産時価総額が米国・EU・日本を超えた?」と題する記事を掲載した。
(1)
「中国メディア『鳳凰網』(11月19日付)は、最近中国のネット上に掲載された株式・不動産時価総額を紹介。
それによると、『中国の不動産時価総額の合計は65兆ドル(約7310兆円)となり、米国とEUと日本を合わせた額の約60兆ドル(約6750兆円)を超えた。
しかし、中国の株式時価総額は6兆ドル(約675兆円)で、米国とEUと日本を合わせた額の10分の1ほどに過ぎなかった。
中国の不動産時価総額は、株式時価総額の10倍となったが、米国やEUでは不動産と株式の時価総額は同じだった』という」
不動産時価がバブルであるかどうかの判断基準は、対名目GDP比でみることである。
不動産時価は、最終的に名目GDPを反映する。
そのGDPを飛び抜けて高い不動産時価は、バブルの証拠である。
中国の名目GDPは、米国の6割である。それに対して不動産時価が、日本+米国+EUの合計を上回るとは、「市場空前」のバブルという動かしがたい事実を発見するはずだ。
(2)
「65兆ドルという中国の不動産時価総額について記事は、『今年1月の時点で恒大経済研究院の任沢平(レン・ゼーピン)院長が、約43兆ドルと見積もっていた額と比べると大きな差がある』と指摘。
しかし、『(総合不動産サービス会社の)サヴィルズは2016年8月の時点で中国の不動産時価総額を39兆ドルと見積もっており、
その後の2年で50以上の都市の不動産価格が1割以上上昇し、20以上の都市では2割以上上昇している』と伝え、決してあり得ない数字ではないとしている」
架空の計算をしても無意味である。
休火山の噴火口で、銭勘定しているような愚かな振る舞いである。
基本はGDPである。国の産み出す付加価値総額がGDPである。
地価は、そのGDPへ還元されるはずだ。
GDPの規模から飛び離れた時価は、いずれしぼむ運命である。
中国では、その第一歩が間もなく始る。夢から覚めるべきである。
不動産バブルの主役である不動産開発会社が、経営危機に直面し始めている。
主因は、資金コストの上昇である。
不動産事業は、土地の手当てに始り住宅建設・販売などと資金回収まで相当の時間がかかる。
それ故、資金コストの上昇は資金確保の困難につながり、経営の死命を制せられするリスクとなる。
中国人民銀行は現在、金融政策の効果より財政支出の効果大きいと訴えるほど、緊急事態を迎えている。
その危機の一断面が、不動産開発企業に現れてきたとみるべきだろう。
『ブルームバーグ』(11月21日付)は、「中国不動産開発業者に暗雲、資金調達コスト上昇、デフォルト懸念」と題する記事を掲載した。
(3)
「資金不足に悩む中国不動産開発業者の間で、資金調達コストの高騰や借り換え圧力の高まりを背景に、デフォルト(債務不履行)が増加する事態に投資家は備えている。
不動産開発業者など中国のハイイールド債発行体企業にとってのドル建て借り入れコストは、今年2倍近くに上昇し11.2%と、約4年ぶりの高水準にある。
さらに悪いことに、同セクターは2019年1~3月期(第1四半期)にオンショア市場とオフショア市場の両方で過去最大の180億ドル(約2兆円)の債券が満期を迎えることがブルームバーグの集計データに示されている。
不動産開発業者は、ドル建て債券を発行して資金調達している。
すでに金利が、11.2%と2倍近くなっている。
債券デフォルト・リスクが金利を押上げているのだ。
不動産開発業者の経済環境が、それだけ悪化している証拠である。
投資家の誰もが「住宅関連を忌避する」ムードに変わった。
オンショア(国内)市場とオフショア(国外)市場の両方で、来年1~3月期に180億ドル(約2兆円)の債券が満期を迎える。
借換え困難で、デフォルトは不可避であろう。これまで、不動産バブルを踊ってきた「罰」を受けるのだ。
(4)
「中国の不動産開発業者は、シャドーファイナンシングへの2年にわたる取り締まりで民間セクターが直面する資金繰り難の嵐に見舞われている。
当局は非国営企業の資金調達を容易にする措置を打ち出したものの、既存の不動産規制は緩和しない方針だと国営新華社通信が論評で指摘した。
不動産関連企業で少なくとも4社が今年に入ってデフォルトに陥っている。
NNインベストメント・パートナーズのシニア・クレジットアナリスト、クレメント・チョン氏(シンガポール在勤)は、『資金調達状況はセンチメントが変化するまでは改善しない可能性がある』と述べ、『デフォルトはオンショア市場で一段と頻発している。
一部の不動産開発業者は資金調達コストが上昇し続ければ、巻き込まれると思う』と語った」
不動産開発業者のデフォルトが、すでに4社出ているという。
金融当局は、不動産バブルを沈静化させる目的で、不動産開発業者への融資は緩めない方針と指摘している。
となると、不動産開発業者は、逃げ場を失ったのも同然である。あとは、死を待つばかりだ。
これが、引き金になって、住宅の投げ売りになれば一転、金融システムの崩壊へつながる。
危ない橋を渡る。
当局は、計画的に廃業させる道筋をつくって、倒産の混乱を少しでも和らげる対策を取るべきだろう。
中国政府は長いこと、不動産バブルによってGDPを押上げる恩恵を受けてきた身だ。
ここは、「葬送」も丁寧にやらないと、そのショックで中国経済全体が沈む危険性を抱えるに違いない。
(5)
「中国の住宅価格の上昇は9月に半年ぶりに鈍り、政府の規制による住宅市場鈍化の兆しが強まった。
S&Pグローバル・レーティングの企業格付け担当マネジングディレクター、クリストファー・リー氏はこのほどインタビューに応じ、『中国の不動産開発業者の間で来年、デフォルトが増える可能性がある。
消費者心理の悪化で販売見通しがあまり期待できない一方、大量の社債償還が控える中でドル資金調達コストは一部の大手企業ですら過去最高水準にある』と指摘した」
株式市場には、「まだはもうなり」という格言がある。売買のタイミングの難しさを指している。
中国経済についても同じこと。中国経済の潜在成長力は大きいと過大評価してきた向きには、ドデン返しが始ると見るべきだろう。
その引き金は、金融システムの破綻である。誰も気付かないところで、引き金が引かれるだろう。まさにドデン返しである。
日々、内外のニュースに接していると、いろいろの感想や疑問が湧きます。それらについて、私なりの答えを探すべく、このブログを開きます。私は経済記者を30年、大学教授を16年勤めました。第一線記者と研究者の経験を生かし、内外の経済情報を立体的に分析します。
2018-11-23 05:00:00
中国、「空前絶後」バブル最終局面で不動産時価「日欧米上回る」
テーマ:ブログ
中国の不動産時価総額が、米国とEUと日本を合わせた額を超えたというニュースに、中国市民はよろこんでいると言う。
平成バブルの盛んなころ、東京の地価で米国を買えるというたわいない話が交わされたものである。
あの時の日本と、いまの中国は瓜二つだ。バブルが、社会的な病理であることを実感させる。正常な判断能力を奪うからである。
一度膨らんだバブルが破裂したときの強烈さは、日本社会が経験済みである。
超高値の不動産売買を支えた金融システムは、価格暴落時に受ける衝撃が極めて大きい。
高値で成立した債権債務は、価格暴落時には決済不可能になるゆえ、その尻はデフォルトという形で金融システムへ持ち込まれる。
こうして金融システムの破綻が起るのだ。すでに、中国でその一部が始っている。
こういう視点で見ると、中国の不動産時価総額が先進国合計を上回る事態は、喜ぶべきことでない。逆に、破裂した時の影響を予想すれば恐怖にかわるはずである。中国社会はそのことに気づいていないのだ。
『レコードチャイナ』(11月21日付)は、「中国の不動産時価総額が米国・EU・日本を超えた?」と題する記事を掲載した。
(1)
「中国メディア『鳳凰網』(11月19日付)は、最近中国のネット上に掲載された株式・不動産時価総額を紹介。
それによると、『中国の不動産時価総額の合計は65兆ドル(約7310兆円)となり、米国とEUと日本を合わせた額の約60兆ドル(約6750兆円)を超えた。
しかし、中国の株式時価総額は6兆ドル(約675兆円)で、米国とEUと日本を合わせた額の10分の1ほどに過ぎなかった。
中国の不動産時価総額は、株式時価総額の10倍となったが、米国やEUでは不動産と株式の時価総額は同じだった』という」
不動産時価がバブルであるかどうかの判断基準は、対名目GDP比でみることである。
不動産時価は、最終的に名目GDPを反映する。
そのGDPを飛び抜けて高い不動産時価は、バブルの証拠である。
中国の名目GDPは、米国の6割である。それに対して不動産時価が、日本+米国+EUの合計を上回るとは、「市場空前」のバブルという動かしがたい事実を発見するはずだ。
(2)
「65兆ドルという中国の不動産時価総額について記事は、『今年1月の時点で恒大経済研究院の任沢平(レン・ゼーピン)院長が、約43兆ドルと見積もっていた額と比べると大きな差がある』と指摘。
しかし、『(総合不動産サービス会社の)サヴィルズは2016年8月の時点で中国の不動産時価総額を39兆ドルと見積もっており、
その後の2年で50以上の都市の不動産価格が1割以上上昇し、20以上の都市では2割以上上昇している』と伝え、決してあり得ない数字ではないとしている」
架空の計算をしても無意味である。
休火山の噴火口で、銭勘定しているような愚かな振る舞いである。
基本はGDPである。国の産み出す付加価値総額がGDPである。
地価は、そのGDPへ還元されるはずだ。
GDPの規模から飛び離れた時価は、いずれしぼむ運命である。
中国では、その第一歩が間もなく始る。夢から覚めるべきである。
不動産バブルの主役である不動産開発会社が、経営危機に直面し始めている。
主因は、資金コストの上昇である。
不動産事業は、土地の手当てに始り住宅建設・販売などと資金回収まで相当の時間がかかる。
それ故、資金コストの上昇は資金確保の困難につながり、経営の死命を制せられするリスクとなる。
中国人民銀行は現在、金融政策の効果より財政支出の効果大きいと訴えるほど、緊急事態を迎えている。
その危機の一断面が、不動産開発企業に現れてきたとみるべきだろう。
『ブルームバーグ』(11月21日付)は、「中国不動産開発業者に暗雲、資金調達コスト上昇、デフォルト懸念」と題する記事を掲載した。
(3)
「資金不足に悩む中国不動産開発業者の間で、資金調達コストの高騰や借り換え圧力の高まりを背景に、デフォルト(債務不履行)が増加する事態に投資家は備えている。
不動産開発業者など中国のハイイールド債発行体企業にとってのドル建て借り入れコストは、今年2倍近くに上昇し11.2%と、約4年ぶりの高水準にある。
さらに悪いことに、同セクターは2019年1~3月期(第1四半期)にオンショア市場とオフショア市場の両方で過去最大の180億ドル(約2兆円)の債券が満期を迎えることがブルームバーグの集計データに示されている。
不動産開発業者は、ドル建て債券を発行して資金調達している。
すでに金利が、11.2%と2倍近くなっている。
債券デフォルト・リスクが金利を押上げているのだ。
不動産開発業者の経済環境が、それだけ悪化している証拠である。
投資家の誰もが「住宅関連を忌避する」ムードに変わった。
オンショア(国内)市場とオフショア(国外)市場の両方で、来年1~3月期に180億ドル(約2兆円)の債券が満期を迎える。
借換え困難で、デフォルトは不可避であろう。これまで、不動産バブルを踊ってきた「罰」を受けるのだ。
(4)
「中国の不動産開発業者は、シャドーファイナンシングへの2年にわたる取り締まりで民間セクターが直面する資金繰り難の嵐に見舞われている。
当局は非国営企業の資金調達を容易にする措置を打ち出したものの、既存の不動産規制は緩和しない方針だと国営新華社通信が論評で指摘した。
不動産関連企業で少なくとも4社が今年に入ってデフォルトに陥っている。
NNインベストメント・パートナーズのシニア・クレジットアナリスト、クレメント・チョン氏(シンガポール在勤)は、『資金調達状況はセンチメントが変化するまでは改善しない可能性がある』と述べ、『デフォルトはオンショア市場で一段と頻発している。
一部の不動産開発業者は資金調達コストが上昇し続ければ、巻き込まれると思う』と語った」
不動産開発業者のデフォルトが、すでに4社出ているという。
金融当局は、不動産バブルを沈静化させる目的で、不動産開発業者への融資は緩めない方針と指摘している。
となると、不動産開発業者は、逃げ場を失ったのも同然である。あとは、死を待つばかりだ。
これが、引き金になって、住宅の投げ売りになれば一転、金融システムの崩壊へつながる。
危ない橋を渡る。
当局は、計画的に廃業させる道筋をつくって、倒産の混乱を少しでも和らげる対策を取るべきだろう。
中国政府は長いこと、不動産バブルによってGDPを押上げる恩恵を受けてきた身だ。
ここは、「葬送」も丁寧にやらないと、そのショックで中国経済全体が沈む危険性を抱えるに違いない。
(5)
「中国の住宅価格の上昇は9月に半年ぶりに鈍り、政府の規制による住宅市場鈍化の兆しが強まった。
S&Pグローバル・レーティングの企業格付け担当マネジングディレクター、クリストファー・リー氏はこのほどインタビューに応じ、『中国の不動産開発業者の間で来年、デフォルトが増える可能性がある。
消費者心理の悪化で販売見通しがあまり期待できない一方、大量の社債償還が控える中でドル資金調達コストは一部の大手企業ですら過去最高水準にある』と指摘した」
株式市場には、「まだはもうなり」という格言がある。売買のタイミングの難しさを指している。
中国経済についても同じこと。中国経済の潜在成長力は大きいと過大評価してきた向きには、ドデン返しが始ると見るべきだろう。
その引き金は、金融システムの破綻である。誰も気付かないところで、引き金が引かれるだろう。まさにドデン返しである。