8/25(日) 10:00配信
毎日新聞
ソウルでタクシーに乗ったら、運転手さんが「お客さん、どこから来たの?」と聞いてきました。
日本だと答えると、いきなり「韓国人は日本人を好きだって分かってますよね」と言われて面食らいました。
「政治家が悪いんだよ。安倍(晋三首相)も、文在寅(ムン・ジェイン、大統領)もどっちもダメだ」と続きます。
【外信部長・澤田克己】
他の運転手さんからは「数日前に日本人客を乗せたら、少しおびえてる感じだった。親切に対応したら安心してくれたみたいだけど」とも聞きました。
現在の日韓関係悪化は指導者2人に責任を押し付けて済むようなものではないのですが、運転手さんたちの話は率直な庶民感情の表れなのでしょう。
13日からソウルに来ています。いろいろな人に会ったり、慰安婦の日(14日)や光復節(15日)に合わせた政治集会をのぞいたりしました。簡単に報告します。
◇いつの間にか「反安倍」が主流に
慰安婦の日はちょうど水曜日だったので、少女像の建つ日本大使館敷地前で集会がありました。
「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯(正義連、旧韓国挺身隊問題対策協議会=挺対協)」が毎週水曜日に開いているもので、この日はちょうど1400回目。
しかも、国の記念日となってから2回目の「慰安婦の日」だったこともあってか、参加者を数えてみると1500人を超えているようでした(韓国メディアによると、主催者発表は「2万人」)。
100人以下という時が多いので、かなり盛況だったことになります。
与党・共に民主党の議員らが壇上で日本政府の輸出規制を非難し、日本製品不買を呼びかける人もいました。
初めて集会に参加したというソウル市の高校3年の女子生徒に話を聞くと、「買い物をする時は日本ブランドを避けるようにしている」という答えが返ってきました。
ただ、会場で目立ったのは「NO安倍」という言葉。
「O」を日章旗に見立てて赤く塗ったデザインで「NO安倍」とプリントしたTシャツを着たグループもいます。
現場には多くの記者が来ていて、中には知っている顔も。
シンガポールのテレビ局記者に聞くと、「最初は『反日本』だったけれど、先週末くらいから『反安倍』が増えたような気がする」と言います。
翌15日に都心の光化門広場で行われたロウソク集会も「安倍政権糾弾」を掲げていました。
何が契機になったのか、何人かに聞いてみました。韓国紙記者や政界関係者たちの話を総合すると、次のような構図が浮かんできます。
もともと保守系大手紙を中心に「行きすぎた反日」をたしなめる声はあったそうです。
そうした中でターニングポイントになったのは、6日にソウル市中区が「ボイコット ジャパン」と書かれた垂れ幕を通りの街灯などに並べたこと。
ニュースを見た市民からの批判が殺到して数時間後には区長が謝罪に追い込まれ、垂れ幕は撤去されました。
区長が与党所属だったこともあり、与党内で「行きすぎ批判」への警戒心が拡散。
8日に開かれた与党の会議では、輸出規制をする安倍政権が問題なのであって「ノー・ジャパン」ではないという意見が続出しました。
その後、「ノー安倍」が一気に増えたようです。
通信社・聯合ニュースの記事の見出しを見ると、7日に日本大使館敷地前で開かれた水曜集会は「NO日本」、土曜日の10日に同じ場所で開かれた集会は「NO安倍・親日清算」になっていました。
◇安倍糾弾集会より人数多い「文在寅やめろ」集会
15日のソウル都心は終日落ち着きませんでした。そう言われると反日集会だろうと思うかもしれませんが、実際に多かったのは文大統領を非難し、退陣を要求する保守強硬派の集会です。
ソウル市役所から半径1キロほどの間でこの日行われた集会は、午前中に徴用工問題、午後から夜にかけて保守強硬派がたくさん(隣接する場所で同じような集会を開いているので何件かわからず)、夕方から安倍政権糾弾のロウソク集会という感じでした。
日本がらみは2件ということになります。
参加者は、徴用工問題が約600人。
自分では数えられず後で警備関係者に聞いた残りは、保守強硬派集会の最大だったものが約3万人、ロウソク集会が約1万人でした。
ただ、文大統領の下野や朴槿恵(パク・クネ)前大統領の即時釈放を訴える保守強硬派の主張は極端すぎます。
集会に集まる人は多いけれど、現実政治に影響力があるとは言えません。
そして、ロウソク集会も時勢に乗って「安倍糾弾」に切り替えていました。
壇上では安倍政権非難が繰り返されるのですが、一方で在庫整理なのか「ノー・ジャパン」のバッジやTシャツを売る屋台が出ていたり、壇上でも日本製品不買を訴える人がいたりとチグハグな印象はぬぐえません。
不買運動は「ノー安倍」と矛盾しないように話す人もいるのですが、その二つがどうやったら両立するのか私には理解できませんでした。
そして熱気はというと、そこまで強いものは感じられませんでした。
そもそも1万人というのは、韓国の集会としては特に多いとは言えません。
朴前大統領を弾劾に追い込んだロウソク集会は100万人規模だったとされますし、米国をターゲットにした集会だと数万人規模は珍しくないからです。
◇「反日意識が高まる日」という思い込み
この原稿を書いていて、7月下旬から8月上旬にかけて出演した日本のテレビ番組のことを思い出しました。
そこでは司会者がその後の日程を説明しながら「反日意識の高まる8月15日へ向けた時期」といった話をしていたのです。
その時は聞き流していましたが、よく考えてみると「8月15日に向けて反日意識が高まる」という言葉には違和感があるなと気付きました。
私は1980年代末から今年までの間に計11回、ソウルで8月15日を迎えています。でも「反日意識の高まり」を感じた記憶はありません。
もちろん政治的な緊張関係があったり、慰安婦問題で日本を非難する集会が開かれたりということはあります。
特に今年は「日本政府が経済的攻撃で韓国を屈服させようとした」と受け取られたため、韓国世論は今までになく悪化しました。
一般人がほとんど関心を持っていなかった従来の政治的対立とは、少し様相が違います。
過去四半世紀に一回も成功したことのない不買運動も、今回は実体経済に影響を及ぼし始めています。
ただ、それでも町中を歩いている日本人に悪意をぶつけてくる人がいるようには見えません。
その点では「いつもどおりの」ソウルの町並みです。
ちなみに私は15日の夜、ロウソク集会を見た後に近くの店で日本人4人、韓国人2人での飲み会となりました。
カラオケボックスでの2次会が終わって解散したのは、翌16日の午前2時でした。