【コラム】防疫と経済を同時に捕まえるという魔術
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
脱原発では「経済」お構いなし、命が懸かったウイルスとの戦争では経済を重視
今は防疫に集中すべき時
「防疫と経済という2匹のウサギをどちらも捕まえなければならない」
2月21日の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の発言だ。
この発言があった日は、武漢コロナ感染症(新型コロナウイルス感染症)による国内初の死者が出て、一日で感染者が100人以上増えた日だ。
防疫に国の力を総動員すべき時期に、文大統領は国民に「通常通り経済活動に臨んでほしい」というメッセージを発信した。
世論の相当数は中国からの入国を全面的に阻止し、感染症の対応を最高水準の「深刻」段階に引き上げるべきという意見だったが、
文大統領はやんわりと拒否し、結局23日になって対応水準だけを「深刻」に引き上げた。
内需拡大のための懇談会で出た発言だが、この発言に多くの国民は「大統領が経済をこんなに重視してきただろうか」という感覚を抱いたはずだ。
ある経済団体トップはどんな思いで「(現政権において)経済は捨てられて忘れられた息子」とまで言ったことだろう。
国民は文大統領が執権後本当に経済を最優先視してきたのかという部分に疑問を抱いている。
急激な最低賃金引き上げと労働時間週52時間制の全面実施は、その趣旨には同意するにしても、無謀な推進がもたらす経済的被害は明らかだった。
脱原発も同じだ。頭脳しかない韓国が数十年間かけて積み上げてきた成果なのに、それを一瞬で水の泡にしてしまう国家的自殺行為をいとも簡単にやってのけた。
その過程で「経済」がまともに議論されたことがあっただろうか。
特に昨年の「日本との経済戦争」のときと今回は、克明に対比される。
日本が素材3品目の輸出をストップすればわれわれの半導体産業が崩壊するという懸念が浮上した。
それにもかかわらずこの政権は「竹槍歌」「12隻の船」などといった刺激的なスローガンで感情による戦いをあおっただけで、大統領自身が「経済も考えよう」と言及したことは記憶にない。「
経済は捨てられた息子」発言が出たのはこの時期だった。
そんな文大統領が、全国民の命が懸かったウイルスとの戦争では、経済と防疫を同じ線上に乗せるほど経済を重要視した。
戸惑いを禁じ得ない。
今回の事態で暮らしが立ち行かなくなる自営業者や零細商人、企業人たちの実態から目を背けているわけではない。
大統領の発言に一貫性がないように思えるため、さまざまな推測があふれているのだ。
専門家たちは「2匹のウサギ」論は結局、政府の「中国のご機嫌伺い」が原因だとの解釈を示している。
中国の習近平主席の訪韓に固執するあまり、数多くの専門家が提言する中国人入国禁止拡大または全面禁止措置をためらい、その言い訳として「経済」を前面に掲げたというわけだ。
防疫の専門家からは「ウイルスと戦争しながら防疫と経済を同時に成功させること自体が極めて異常な目標」という指摘も出ている。
どちらも重要であることは間違いないが、物事には優先順位があるというものだ。
「防疫が最優先の経済対策」「防疫の基本は一歩先を行く強力な対策」という指摘も同じ脈絡だ。
ウイルスを封じ込めるための一歩先を行く強力な対策を打ち出す代わりに、経済も生かさなければならないと言って対策をずるずる引き延ばし、
その間に韓国は中国に次いで世界で2番目に感染者の多い国になってしまった。
その結果、経済の現場では「(景気が)ろくでもない」という鬱憤(うっぷん)が爆発しているのだ。
感染症の患者が増えれば増えるほど、不確実性が高まり、経済は委縮し、社会全体が大混乱に陥る可能性がある。
防疫の失敗は経済に致命傷を負わせる最悪の毒なのだ。
本当に経済が心配なら、まずは防疫から成功させるべきだ。
その次に、過去最大級の強度で押し寄せる経済的後遺症を鎮静化させる対策を今から準備し、適切な時期に執行しなければならない。
そうすれば、防疫と経済の2匹のウサギを捕まえるという政治的レトリックよりはるかに信頼を得られるはずだ。
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版