勝又壽良のワールドビュー
好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。
労組や市民団体が支持基盤の文政権は、コロナ禍で経済がすべてストップ状態の現状を前に、経済対策を指揮する人材不在という悲劇に見舞われている。
労組や市民団体は、デモを行なう能力があっても、総合的に経済混乱を解決する能力があるわけでない。
この欠陥が、現在の韓国経済を混迷に導いている。最も恐れていたことが今、表れて来たと言うほかない。
『朝鮮日報』(3月14日付)は、「通貨危機、金融危機当時と違うのは経済リーダーシップの不在」と題する社説を掲載した。
武漢コロナの大流行がグローバル経済危機を触発するとの恐怖感が広がり、韓国の株式市場では史上初めて総合株価指数(KOSPI)・新興企業向け株式市場コスダックの双方で同時に取引が一時中断となる事態が起こった。
株式市場の衝撃は今後緩和されるかもしれないが、実体経済が非常に良くないため、金融不安は今後も継続する可能性が高い。
問題は今の市場で韓国の経済リーダーシップへの信頼が低下しているという点だ。
(1)
「文在寅(ムン・ジェイン)大統領はこの日青瓦台(大統領府)で緊急の会議を招集し「MERS(中東呼吸器症候群)、SARS(重症急性呼吸器症候群)とは比較にならない非常経済時局」として「前例のない対策」をとりまとめるよう指示した。
その4時間後には株式市場を安定させるため、政府から「空売りの6カ月禁止」という対策が発表された。
しかし金融委員会と企画財政部(省に相当)はこの対策について事前に合意していたという。
発表を大統領への報告後に先送りしたことで対応が遅れ、市場の不安を加速させる結果をもたらした。
危機への対応は迅速かつ即座に行われねばならないが、「空売り禁止」程度のさほど強くない対策さえ大統領に報告し裁可を受けねばならない対応システムでは、急変する危機状況にしっかりと対処するのは難しい」
韓国経済は、株式市場で「空売りの6カ月禁止」措置を取らざるを得ないほど、危機に追い込まれた。
この社説では、大した評価をしていないが、市場機能を奪う重大な決定である。
市場機能は「現物」と「先物」の売買によって、より公正な決定ができるものだ。
ここで、「先物」=空売り禁止は、株式市場の死を意味する。韓国経済は9月まで「休眠」することを宣言したに等しい。
ただ、こういう重大事項を臨機応変に執行できない現政権の無力さも浮き彫りになった。
市場対策は時間との勝負である。それを実施できない文政権が、いかに脆弱な存在であるか。
そういう新たな問題に注目する必要があろう。
(2)
「過去2回の金融危機をうまく克服できたのは、状況を総合的に管理するコントロールタワーが確実だったからだ。
1998年のアジア通貨危機当時、金大中(キム・デジュン)大統領は李揆成(イ・ギュソン)氏や李憲宰(イ ・ホンジェ)氏など専門家に全権を委ねて対応を任せた。
2008年のリーマンショックの時は、実体経済に精通した李明博(イ・ミョンバク)大統領自ら指揮し、145回の非常対策会議を重ね総合対策を相次いで打ち出した。
もちろん姜萬洙(カン・マンス)氏のような経済政策のリーダーシップも存在した」
文政権の特異性は、労組と市民団体だけに顔を向けている点にある。
すなわち、文政権の回りには、前記2団体と密接な関係を持つ「党派性」の人材しか集まらず、他はすべて排除されていることである。
過去の通貨危機(1998年)や経済危機(2008年)当時は、国民一般に顔向けた政権であった。その点で、文政権と決定的に異なっている。
(3)
「今は誰が危機への対応を総括するのかわかりにくい。
経済を知らない大統領、リーダーシップが認められていない経済副首相、在野団体にいた青瓦台政策室長、いるのかいないのかわからない青瓦台経済首席、現実を知らない経済部処(省庁)の長官らが集まった会議の様子をみると、あれがこの巨大な国家的危機を乗り切る司令塔とは信じられない。
今大統領が腕まくりして経済を指揮しているわけでもなく、かといって経済副首相と経済チームが全権を持っているわけでもない、どっちつかずの状態が続いている」
下線の部分は、重大な点を指摘している。経済の素人が集って議論しても、適切な政策を打てるか疑問である。
なにせ、2年間で約29%もの最低賃金の大幅引上げを実行した政権である。
経済を理解する人材がいれば、このような無法な政策を行なうはずがない。
やはり、来るべきものが来たという諦観を持つほかないだろう。
(4)
「まず補正予算問題をめぐって党と政府から異なる声が出ている。
補正予算をはじめとする危機対応の「実弾」をいかに準備し、どう使うかは総合的な観点から検討されねばならないが、与党・共に民主党は国会の各常任委員会からの要請額を合算し「6兆ウォン(約5300億円)増額」を押し通そうとしている。
国会常任委員会の審査がおおまかにしか行われていない点を考慮すると、この6兆ウォンは具体的な根拠や内訳のない政治的な数値の可能性が高い。
補正関連の会議をしながら経済副首相を除外したかと思えば、経済副首相に向かって「解任」うんぬんし、脅迫することもあった。「経済」ではなく「政治」をしているのだ」
文政権では、経済の論理が停止している。
政治の思惑が先行している点で、韓国経済は大きな打撃を受ける。
すでに、最低賃金の大幅引上げで骨格は傾いた。立直しが困難な局面で、コロナ禍の直撃を受け、対策もままならぬ事態だ。野戦病院そのものの混乱状態である。
(5)
「歴代政権の中で経済チームの存在感がこれほどなかったことはない。
チームのリーダーとなる経済副首相は青瓦台の指示通りにしかやらないので「イエスマン」と呼ばれている。
経済部処の長官らは仕事自体をやろうとしない。だからといって危機を前にリーダーを交代させるのも簡単ではない。
経済副首相に全権を委ね、総合的なコントロールタワーの役割をしっかりと行わせねばならない。やはりそれが最善だ」
この混乱状態は、75年前の日本で見せた「8月15日」前と瓜二つだ。
敗戦は、しかるべき理由で起こった。韓国の経済敗戦も同じ状況であろう。
好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。
労組や市民団体が支持基盤の文政権は、コロナ禍で経済がすべてストップ状態の現状を前に、経済対策を指揮する人材不在という悲劇に見舞われている。
労組や市民団体は、デモを行なう能力があっても、総合的に経済混乱を解決する能力があるわけでない。
この欠陥が、現在の韓国経済を混迷に導いている。最も恐れていたことが今、表れて来たと言うほかない。
『朝鮮日報』(3月14日付)は、「通貨危機、金融危機当時と違うのは経済リーダーシップの不在」と題する社説を掲載した。
武漢コロナの大流行がグローバル経済危機を触発するとの恐怖感が広がり、韓国の株式市場では史上初めて総合株価指数(KOSPI)・新興企業向け株式市場コスダックの双方で同時に取引が一時中断となる事態が起こった。
株式市場の衝撃は今後緩和されるかもしれないが、実体経済が非常に良くないため、金融不安は今後も継続する可能性が高い。
問題は今の市場で韓国の経済リーダーシップへの信頼が低下しているという点だ。
(1)
「文在寅(ムン・ジェイン)大統領はこの日青瓦台(大統領府)で緊急の会議を招集し「MERS(中東呼吸器症候群)、SARS(重症急性呼吸器症候群)とは比較にならない非常経済時局」として「前例のない対策」をとりまとめるよう指示した。
その4時間後には株式市場を安定させるため、政府から「空売りの6カ月禁止」という対策が発表された。
しかし金融委員会と企画財政部(省に相当)はこの対策について事前に合意していたという。
発表を大統領への報告後に先送りしたことで対応が遅れ、市場の不安を加速させる結果をもたらした。
危機への対応は迅速かつ即座に行われねばならないが、「空売り禁止」程度のさほど強くない対策さえ大統領に報告し裁可を受けねばならない対応システムでは、急変する危機状況にしっかりと対処するのは難しい」
韓国経済は、株式市場で「空売りの6カ月禁止」措置を取らざるを得ないほど、危機に追い込まれた。
この社説では、大した評価をしていないが、市場機能を奪う重大な決定である。
市場機能は「現物」と「先物」の売買によって、より公正な決定ができるものだ。
ここで、「先物」=空売り禁止は、株式市場の死を意味する。韓国経済は9月まで「休眠」することを宣言したに等しい。
ただ、こういう重大事項を臨機応変に執行できない現政権の無力さも浮き彫りになった。
市場対策は時間との勝負である。それを実施できない文政権が、いかに脆弱な存在であるか。
そういう新たな問題に注目する必要があろう。
(2)
「過去2回の金融危機をうまく克服できたのは、状況を総合的に管理するコントロールタワーが確実だったからだ。
1998年のアジア通貨危機当時、金大中(キム・デジュン)大統領は李揆成(イ・ギュソン)氏や李憲宰(イ ・ホンジェ)氏など専門家に全権を委ねて対応を任せた。
2008年のリーマンショックの時は、実体経済に精通した李明博(イ・ミョンバク)大統領自ら指揮し、145回の非常対策会議を重ね総合対策を相次いで打ち出した。
もちろん姜萬洙(カン・マンス)氏のような経済政策のリーダーシップも存在した」
文政権の特異性は、労組と市民団体だけに顔を向けている点にある。
すなわち、文政権の回りには、前記2団体と密接な関係を持つ「党派性」の人材しか集まらず、他はすべて排除されていることである。
過去の通貨危機(1998年)や経済危機(2008年)当時は、国民一般に顔向けた政権であった。その点で、文政権と決定的に異なっている。
(3)
「今は誰が危機への対応を総括するのかわかりにくい。
経済を知らない大統領、リーダーシップが認められていない経済副首相、在野団体にいた青瓦台政策室長、いるのかいないのかわからない青瓦台経済首席、現実を知らない経済部処(省庁)の長官らが集まった会議の様子をみると、あれがこの巨大な国家的危機を乗り切る司令塔とは信じられない。
今大統領が腕まくりして経済を指揮しているわけでもなく、かといって経済副首相と経済チームが全権を持っているわけでもない、どっちつかずの状態が続いている」
下線の部分は、重大な点を指摘している。経済の素人が集って議論しても、適切な政策を打てるか疑問である。
なにせ、2年間で約29%もの最低賃金の大幅引上げを実行した政権である。
経済を理解する人材がいれば、このような無法な政策を行なうはずがない。
やはり、来るべきものが来たという諦観を持つほかないだろう。
(4)
「まず補正予算問題をめぐって党と政府から異なる声が出ている。
補正予算をはじめとする危機対応の「実弾」をいかに準備し、どう使うかは総合的な観点から検討されねばならないが、与党・共に民主党は国会の各常任委員会からの要請額を合算し「6兆ウォン(約5300億円)増額」を押し通そうとしている。
国会常任委員会の審査がおおまかにしか行われていない点を考慮すると、この6兆ウォンは具体的な根拠や内訳のない政治的な数値の可能性が高い。
補正関連の会議をしながら経済副首相を除外したかと思えば、経済副首相に向かって「解任」うんぬんし、脅迫することもあった。「経済」ではなく「政治」をしているのだ」
文政権では、経済の論理が停止している。
政治の思惑が先行している点で、韓国経済は大きな打撃を受ける。
すでに、最低賃金の大幅引上げで骨格は傾いた。立直しが困難な局面で、コロナ禍の直撃を受け、対策もままならぬ事態だ。野戦病院そのものの混乱状態である。
(5)
「歴代政権の中で経済チームの存在感がこれほどなかったことはない。
チームのリーダーとなる経済副首相は青瓦台の指示通りにしかやらないので「イエスマン」と呼ばれている。
経済部処の長官らは仕事自体をやろうとしない。だからといって危機を前にリーダーを交代させるのも簡単ではない。
経済副首相に全権を委ね、総合的なコントロールタワーの役割をしっかりと行わせねばならない。やはりそれが最善だ」
この混乱状態は、75年前の日本で見せた「8月15日」前と瓜二つだ。
敗戦は、しかるべき理由で起こった。韓国の経済敗戦も同じ状況であろう。