韓国文政権はコロナ対策でも「レッドチーム寄り」歴然、元駐韓大使が解説
武藤正敏:元・在韓国特命全権大使
国際・中国 元駐韓大使・武藤正敏の「韓国ウォッチ」
2020.3.10 5:17
韓国は社会主義体制に
向かっているのか
韓国の文在寅大統領は新型コロナウィルス対策においても、同盟国である日米ではなく、レッドチームである中朝に寄り添っている。
文大統領は国内の苦境打開に集中するのではなく、相変わらず北朝鮮を支援することに情熱を燃やしている。
日本政府による韓国からの入国制限に対しては直ちに反発し、同様の措置で報復したにもかかわらず、中国からの入国者について湖北省と武漢を除き、入国制限措置を講じていない。
韓国で新型コロナが流行する原因は、元を辿れば中国であったことを忘れているとしか思えない。
また、韓国国民がマスクを入手するのが困難になってきていることに対し、文大統領は市場での販売を止めさせ、マスク生産業者の自由な販売を阻止し、配給制に変えた。
北朝鮮と類似した政策をとっているのだ。
新型コロナによって韓国経済は未曽有の苦境に陥りつつあるが、これに対して所得主導成長政策のように市場原理を無視し、国家のコントロールを強化しようというのだろうか。
韓国はもはや自由な資本主義活動に支えられた民主主義国というよりも、中朝のような社会主義体制に向かっているように見える。
親書のやり取りで交流するも
ミサイル三発発射される文政権
韓国の朝鮮日報などによると、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は5日、韓国の康京和(カン・ギョンファ)外相と面談した際、同外相は「韓国は北朝鮮を支援する意思があり、準備ができた」と語ったと明らかにした。
しかし、韓国政府の公式発表は、北朝鮮支援について国民の目を意識し、言質を取られないように慎重に対応している。
実際、青瓦台の幹部は7日のブリーフィングで「当局が協力して準備すべき事項であるため、三・一節の時に(文大統領が)提案はしたが、具体的内容を明らかにするのは難しい」と述べた。
また、統一部当局者も「現時点では、それこそ自分たちのことで精一杯なので、北朝鮮への防疫を話題にする状況ではない」と説明している。
北朝鮮支援が正式に固まる前に韓国国内にその情報が漏れると、自国民からの猛烈な反発を招くということを恐れているのだろう。そんな気配りをしながら、北朝鮮支援の準備を進めていた。
その一つが北朝鮮の金正恩国務委員長との親書やりとりだ。4日、金正恩委員長は文大統領に
「必ず勝ち抜くと信じる。南側同胞の大切な健康が守られるよう祈る」
「文大統領が新型肺炎を克服できるよう静かに応援するし、文大統領に対する変わらぬ友情と信頼を送った」とする親書を送った。
これに対し文大統領は、金委員長に感謝の意を込めた親書を返したそうである。
青瓦台は文大統領の親書の内容について「詳しく明らかにするのは外交上正しくない」として具体的な言及を避けている。
ただ、青瓦台の尹道漢(イン・ドハン)国民疎通首席は金正恩委員長の親書に防疫の要請はなかったと伝えた。
金正恩委員長はこれまで、韓国が米朝の仲介役を果たすことや、文大統領の南北協力の提案をことごとく拒否している。
また、前日には金与正朝鮮労働党組織指導部第一副部長(金正恩氏の妹)が、「青瓦台の低能な思考方式に驚きを表す」として、韓国の北朝鮮の飛翔体発射への懸念を強く非難する声明を発したばかりである。
北朝鮮がこうした説明不能な行動を示すこと自体は珍しくなく、韓国のマスコミはその背景に北朝鮮の苦境があるとの見方を示している。
これまでと同じく、北朝鮮は文大統領の“微笑み”はほぼ相手にせず、支援を要請したり強硬姿勢を和らげて歩み寄ったりするような態度は微塵も見せていない。
ちなみにロイヤルファミリーである金与正氏が、このような非難声明を出したのは初めてであり、与正氏が表に出たことは、正恩氏に何かあった証ではではないかと見る向きもある。
北朝鮮は、公式的には新型コロナの国内感染者は「一人もいない」と主張してきた。
だが韓国メディアは、実際には北朝鮮内部で新型コロナの感染が急速に拡大し、収拾が困難な段階に入ったと推測している。
北朝鮮の新聞が3月1日、平安南北道と江原道で7000人近い住民を「医学的監視対象者」に分類し、「自宅隔離した」と報じたのは、独自の防疫に限界を感じ、「国際社会の支援を引き出そうとの意図」(韓国の国策研究所の関係者)との見方も出ている。
北朝鮮メディアはその後、約半数の住民を隔離から解除したと報じたが、これは逆に韓国への支援要請をカモフラージュする動きとも考えられる。
北朝鮮は1月22日、中国との人的往来を封じた。
しかし、これも遅すぎたと推察できる。昨年末に中国に派遣していた労働者が大挙して帰国し、その労働者が北朝鮮国内で感染を広めたといわれている。
また、中朝国境付近ではつい最近まで密貿易が行われていたようだ。
北朝鮮は新型コロナ感染拡大で後手に回り、2月中旬から中国や海外の貿易会社に対して、コロナ診断ツールや防護服、マスクを急いで購入するよう指示した模様だ。
中国での購入が難しくなると、国際機関やインド、ブラジルでも購入するように奔走したようだが、
世界各国が自らの新型コロナ対策を急ぐ中、北朝鮮に協力しようという国はなく、実現しなかったようである。
これまで北朝鮮が韓国に歩み寄ってきたのは、いずれも自国が困ったときである。
新型コロナが蔓延すれば、北朝鮮の体制危機を招きかねない。金与正氏の強硬な非難は、弱みを見せないための隠れ蓑だろう。
文政権はこれまでも各国との首脳会談で都合の悪いところは隠ぺいしてきた。
青瓦台が、文大統領の親書の詳細を明らかにしないというのは「外交上の配慮」というよりも、新型コロナに対する協力について国民に知らせたくないとの意図が感じられる。
文政権は、自国民の目を逃れ北朝鮮との協力に走っていくのではないか。
文大統領は、北朝鮮に秋波を送り続けているが、北朝鮮は全く振り向いていない。
片思いの状態は相変わらずである。
そんな中、北朝鮮は9日、再び3発の飛翔体を発射した。
南北融和どころか、地域の平和と安定がますます損なわれるばかりだ。文大統領はいつまで独り相撲を取るつもりなのだろうか。
日本には抗議、中国には気遣い
新型コロナをきっかけに反日を加速
韓国の青瓦台と外交部は、韓国からの入国者について隔離政策をとった日本と中国に対し対照的な態度をとった。
中国は中央政府が隔離政策をとっているわけではないが、韓国からの入国者を隔離する政策をとっている地方政府が19カ所に及んでおり、北京や上海、重慶、広東省など主要なところはほぼ含まれている。
青瓦台は5日午前、国家安全保障会議(NSC)常任委員会を開催し、日本に対し「相互主義に立脚した措置を含め必要な対抗策を検討する」との立場を明らかにした。
同日午後には、康京和外交部長官が冨田在韓国日本大使を招致し、「今回の措置は非友好的であるだけでなく非科学的」だと抗議し、同日夜、外交部は日本に対するノービザ措置の無効化、日本人の隔離措置など「日本に対する相互措置」を発表した。
世界103カ国が韓国からの旅行者の入国を禁止・制限している中、韓国政府は日本に対してのみ報復措置を講じたことになる。
記者から、「非友好的・非科学的措置というのは中国には適用されないのか」という問いかけに対しては、「中国の状況に対しては答えがはっきりしないのでオフレコにしてほしい」と報道自体をしないように求めた。
そもそも多くの韓国の国民は、韓国で新型コロナが蔓延したのは中国からの入国を禁止しなかったためではないかと考えており、今回の韓国政府の日本だけ標的にする一方的措置には納得していないようである。
青瓦台に対しても中国人入国禁止の請願が80万件あまり寄せられているようである。
しかし、文政権は「日米の言うなりになるのは恥だ」「中国とは運命共同体である」という思考方式であるようで、これが今回の措置に歴然と出たのである。
「日本にだけ強硬に対応した」とする世論の批判に対し、
青瓦台は約2700字の反論文を発表し、
「日本の消極的な防疫に伴う不透明な状況、地理的な近接性及び人的交流の規模、日本国内の感染拡大傾向を総合的に考慮して決めた」
「『中国を庇い、日本にだけ超強硬』と主張するのは事実ではないだけでなく、このような非常局面で危機を克服するのに役立たない」と主張した。
しかし、中国に対し腰砕けなのは今に始まったわけではない。
防疫失敗の責任者とされる保健福祉部の朴凌厚(パク・ヌンフ)長官は、中国人の入国を禁止すべきとの世論の声が高まったのに対し、感染拡散の最も大きな原因は中国人ではなく「中国から入ってきた韓国人だった」と主張し、韓国国内で「中国の長官か」と揶揄されている。
文大統領も、中国では既に終息に向かっているという言い訳をしている。
韓国の日中に対するあまりにも異なった対応は、日韓関係冷却化を一層進めるだろう。
保守の未来統合党は、
「総選挙を1カ月後に控えて反日感情にまた火をつけようとしているのか」
「中国からの(入国)遮断時期を逃し、日本の措置には激しく対応するのは、政府が感染症さえも政略的有利・不利の問題で眺めているということだ」と批判している。
最近では反日を煽ってもそれほど票に結びつかない時代になっているが、
文政権は一般大衆よりも、自身の支持層向けの政治をしているから、このような対応になるともいえる。日韓の対立は、さらに韓国のレッドチーム入りを決定的にするであろう。
韓国のマスク対策は北朝鮮と同じ
強硬策はむしろ生産性を落とす
丁世均(チョン・セギュン)首相は8日、国民向けの談話を発表し、マスクの品薄状態が続いていることに対し、9日から出生年によってマスクを購入可能な曜日を指定する「マスク5部制」を実施すると発表した。
政府は、薬局・郵便局・農協にマスクの重複購入を調べるシステムを導入、マスクの購入数を1週間に一人2枚までに制限する計画である。
購買者は購入者の身分証を確認し、購入履歴をチェックした上で販売することになる。
しかし、1週間に2枚でどのように暮らすのかと国民の不満は絶えない。
また、販売者も購入履歴のチェックなど業務負担ばかり増やす政策に不満をぶちまけている。
他方、マスク生産者に対しては生産量の80%を政府に納品することを義務付けた。
しかも、政府調達庁は生産原価の50%のみ認めるという通知とともに、1日の生産量の10倍に達する生産量契約を求めてきているという。
「政府がマスクメーカーに一律で指針を適用し、マスクが必須の医療機関向けに生産販売していることすら不法扱いした」という。
生産量を増やすために人員を増やし、残業を行わせ、さまざまな手当てでコストが上昇したがこれも政府は認めなかったという。
あるマスクメーカーは「これ以上損失を覚悟でマスクを生産しなければならない名分も意欲も完全に失った状態だ」として生産中断を決断した。
また別のマスクメーカーは
「食品医薬品安全処の職員が工場に陣取り、生産量が期待に満たないと従業員をいじめる。われわれは罪人なのか」と語ったという。
これは「民主主義、資本主義ではなく共産主義の供出制度」だと憤慨している。
文在寅大統領は先月25日、「マスク需要を満たす十分な生産能力がある」と発言し、翌日、企画財政部はマスク輸出禁止措置などを発表した。
だがそうしている間も、長時間並んでもマスクが購入できない状況は継続している。
文在寅政権は自身の失政を一切認めず、自画自賛を繰り返してきたが、さすがにこの状況はまずいと思ったのか、二度も謝罪する状況に至っていた。
ただ、二度あることは三度ある。文大統領はこの先、再び謝罪しなければならなくなるかもしれない。
上記のようにマスクの供給量を増やすための強引な手法は、むしろマスクの供給を減らす可能性があるからだ。文大統領は共産主義国で生産性が低い原因を理解していないのだろう。
韓国経済は社会主義化へ
レッドチーム入り着々と
韓国ギャラップの調査によれば、最近1カ月で回答者の46%は所得が減ったという。
特に、自営業者は9割が所得の減少を経験している。
こうした状況は、所得の格差を一層広げるだろう。
これを反映したのか、1月の消費は9年ぶりの大きな減少幅であり、2月の1日当たりの輸出も11.7%減少した。
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しかし、景気の本格的な落ち込みが始まるのはこれからである。
中国からの原材料の供給が滞って、現代自動車などが一時国内の操業を停止した。
中国の生産停止は韓国の原材料輸出に跳ね返ってくる。
世界103カ国が韓国からの入国を禁止したり、韓国人の行動を制約しており、これが韓国との取引の妨げとなり始めている。
文政権は所得主導で経済を好転させようとして失敗した。
昨年のGDP成長率は終盤に財政支出を増やし、やっと2.0%に達したが、そのうちの公的部門の貢献は1.5%であり、民間部門は0.5%に過ぎなかった。
失業率はほぼ横ばいといっても、雇用が増えているのは高齢者で、政府支出で作り出した雇用だった。
これから凄まじい景気後退が韓国経済を襲う中で、政府には公的部門の成長で何とか経済を維持させる以外に方法はないだろう。
民間部門の停滞を政府主導で誤魔化すしかないのだ。
韓国経済はますます補助金漬けとなっていくだろう。勢い余って、政治や社会も社会主義化しなければいいのだが。
(元駐韓国特命全権大使 武藤正敏)