盧泰愚の上から目線の要求

 韓国外務省が3月29日に1990年前後の外交文書を公表したことを受け、当時の大統領・盧泰愚(ノ・テウ)関連の記事が取り上げられた。

なかでも注目を集めたのが、「韓国が日本へ強いおわびの表明を求めた」というものだった。

振り返れば、韓国の歴代トップは日本に謝罪と賠償請求を断続的に行ってきた。改めて、その歴史をひもといてみたい。

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 今回、メディアが紹介した盧泰愚関連の記事の見出しを並べておくと、以下の通りである。

・韓国、90年に強いおわびの表明求める(2021.03.29 共同通信)

・日韓が韓国軍機の領空侵犯の非公表で一致(2021.03.29 共同通信)

・盧泰愚政権「日朝進展を制止」 90年の金丸訪朝で警戒強める 韓国外交文書(2021.03.29 時事通信)

・初の韓国・ソ連首脳会談は「太白山」の暗号名で極秘裏に推進された(2021.03.30 ハンギョレ)

 最も注目された「韓国、90年に強いおわびの表明求める」とは、ざっくり言うと、盧泰愚の訪日前、韓国政府は日本政府に天皇陛下(現在の上皇さま)の強いおわびを要望、その内容を見極めたうえで盧泰愚が日本滞在中に陛下に訪韓を招請する段取りだったという内容である。

 1984年に全斗煥(チョン・ドゥファン)が大統領として訪日した際、昭和天皇は「両国間に不幸な過去が存したことは誠に遺憾」とお言葉を述べられたのだが、その表現では「(韓国の)国民感情を解消するのは不十分」とし、「より具体的で強いおわび」を要望していたのだ。

 これを受ける形で、1990年5月、陛下は「昭和天皇が『今世紀の一時期において、両国の間に不幸な過去が存したことは誠に遺憾であり、再び繰り返されてはならない』と述べられたことを思い起こします。我が国によってもたらされたこの不幸な時期に、貴国の人々が味わわれた苦しみを思い、私は痛惜の念を禁じえません」とお言葉を述べられている。

逆ギレした初代大統領

 盧泰愚に限らず、韓国の歴代大統領というものは、前政権を否定して自身のポジションを確立させることが多く、日本に対し謝罪及び賠償請求を行うのは、初代からのお家芸と言えるだろう。

 謝罪及び賠償請求について、日韓関係に大きな影響を与えたものをいくつか紹介しよう。

 まず初代大統領・李承晩(イ・スンマン)から。

 彼は対日戦勝国(連合国の一員)であるとの立場を主張、日本に戦争賠償金を要求したものの、連合国から除外され、請求権に関しても日本が要求を飲まないため“逆ギレ”。

 その報復として日韓会談直前の1952年1月、日本海に軍事境界線の李承晩ラインを宣言、竹島を一方的に韓国領土とした。

 続いて朴正煕(パク・チョンヒ)について。

 彼は在任中に「日韓請求権協定」を締結した。この協定は、請求権に関する問題が「完全かつ最終的に解決された」と確認し、「今後いかなる主張もすることができない」と定めたものである。

 この時、日本は韓国に対し、約8億ドルにのぼる有償・無償の支援を行った(当時1ドル=約360円換算で約2900億円)。

 なお、当時の韓国の国家予算は3.5億ドル、日本の外貨準備額は18億ドル程度であったことを考えると、破格の規模だったといえる。

 もっとも、韓国政府が補償した戦時徴兵補償金は死亡者一人あたりわずか30万ウォン(約19万円)にとどまり、個人補償の総額も約91億8000万ウォン(約58億円)に過ぎなかった。

 資金の大部分は道路やダム・工場の建設などインフラの整備や企業への投資につぎこまれ、「漢江の奇跡」と呼ばれる経済発展を遂げた。

 現代においても朴正煕を支持する国民は多く、娘の朴槿恵(パク・クネ)が女性初の大統領として就任できたのも、この「漢江の奇跡」があったからだと言える。

 しかし、韓国人の誇る「漢江の奇跡」が日本から拠出された資金で成し遂げられたということを大部分の韓国人は教えられていないし、知らないはずだ。

文在寅のちゃぶ台返し

 続いて金泳三(キム・ヨンサム)について。

 彼は在任中に、言葉巧みに宮澤喜一元首相らを誘導し、「河野談話」を発表させた。

 日本は日韓基本条約・日韓請求権協定を前提に考えていたため、謝罪が賠償請求に発展することはないと高をくくっていたことはあるだろう。

 そして時代は下って朴槿恵政権下の2015年12月。

 日韓外相会談で「慰安婦問題の最終的かつ不可逆的な解決を確認した」ことが合意された。

 16年7月に日本側の資金拠出により「和解・癒やし財団」が設立され、8月には日本側が10億円を拠出。

 その後、財団側は元慰安婦23人に現金を支給したことを明らかにし、合意時点で生存していた元慰安婦46人のうち34人が受け取りの意思を示していることが確認された。

 にもかかわらず、大統領となっていた文在寅(ムン・ジェイン)は2018年11月に日本へ相談もなしに財団の解散を一方的に発表、慰安婦合意は反故にされてしまった。

 そして今年3月には、韓国の鄭義溶(チョン・ウィヨン)外相が慰安婦問題に言及し、「日本が2015年の合意精神に従い、反省して誠意ある謝罪をすれば、問題の99%は解決される。日本の決心によっては容易に解決することもできる」と発言している。

 盧泰愚の時代にタイムスリップしたかのような既視感を覚える人は少なくないだろう。

羽田真代(はだ・まよ)
同志社大学卒業後、日本企業にて4年間勤務。2014年に単身韓国・ソウルに渡り、日本と韓国の情勢について研究。韓国企業で勤務する傍ら、執筆活動を行っている。

デイリー新潮取材班編集

2021年4月8日 掲載