© JBpress 提供 韓国では「報復消費」でゴルフが大人気に
松山英樹が米国のメジャー大会であるマスターズ・トーナメントで優勝したことによって、日本の若者の間でゴルフブームが到来しているという話を聞いた。
実は、韓国でも若者のゴルフブームが起きている。背景の一つに新型コロナウイルス感染症のパンデミックがある。
コロナ禍ではソーシャル・ディスタンスを守り「三密(密閉、密集、密接)」を避ける必要がある。韓国では「5人以上集合禁止」の規制があり、これに引っかからないゴルフが若者の関心を引いたようだ。
韓国のKB経営研究所の発表によると、2020年、韓国の年間ゴルフ場の利用客数は、約4700万人でここ5年間年平均で約5.4%増加した。2020年には前年より11.9%増加した(韓国ゴルフ場経営協会調べ)という。
韓国には現在全国に501カ所のゴルフ場があり、ここ10年間、年平均で約3.1%増加した結果である。
韓国で続くゴルフブームにコロナ禍が拍車をかけ、なかでも若者がゴルフに目覚めたのはなぜか。
日本ではバブル崩壊とともにゴルフ業界の市場規模は縮小していったが、韓国経済は幸いにバブル崩壊を経験しておらず、ゴルフ市場は着実に成長してきた。
とはいえ、ゴルフは若者のイメージはなく、お金と暇を持て余す年配のスポーツという印象が強かった。
会社から会員権を支給されたり、会社の費用でゴルフ接待をしたりされたりするのは日本と同じで、それが年配のスポーツというイメージに繋がっているようだ。
コロナ禍の前は日本へのゴルフ旅行も一般的だった。
韓国のゴルフ場は、供給に需要が追いつかず、コースに多くの利用者を入れるため各ホールごとに待たされたり後ろの組からせっつかれたりして、余裕のあるゴルフライフを楽しめず、一部のゴルファーが距離的に近い日本へ遠征して行ったのだ。
九州など日本の地方では、韓国よりずっと安い料金でゴルフを楽しめ、しかも温泉付きの宿などでゆっくりくつろげる。
日本と韓国の間には格安航空会社がいくつも路線をもっており、格安チケットを使えば韓国でゴルフをするより安い場合もあった。
しかし、コロナ禍で日本へ行くことができなくなった。また外出規制や自主規制のため、韓国のゴルフ場も一時は閑古鳥が鳴いていた。
会員権は大幅に値下がりし、ピーク時に比べると90%も値下がりしたケースもある。
ところが、2021年に入るとその様相が一変した。コロナ禍に疲れ、三密にならないなら外出も構わないという風潮が広がった。ゴルフは自然の中でのスポーツであり、最大4人で回るため「5人以上集合禁止」にもならないということで人気が急回復したのだ。
韓国のカネ余りもそこに拍車をかけた。2020年に株式投資や仮想通貨への投資で儲けた人が多い。多くの若者もその恩恵にあずかっている。
ところが、本来なら若者が生活のために買いたい不動産は、文在寅大統領の失政もあって、価格はうなぎ上りで高騰し、いくら稼いでも不動産を買えなくなってしまった。
こうして、儲けはしたものの使いたくても使えないお金が貯まり、「お金を使いたい欲求」が噴出して、現在韓国では「報復消費」と呼ばれる現象が起きている。
この報復消費とは、韓国のマスコミによる造語で、2020年にできなかった消費を2021年になって一気に消費するという意味で使われる。
この報復消費の矛先が今、ゴルフに向いているのだ。
ゴルフのイメージも様変わり。以前のようなビジネスや親睦のためのゴルフを楽しんでいた年配のイメージではなく、若者たちは、華やかなゴルフウェアやグッズを身にまとい、格好よく遊び始めたのだ。
SNS映えするゴルフウェアを身につけ、「ゴルフ初心者」などのハッシュタグをつけてSNSに発信する若者たちが増えている。
ゴルフばかりではない。韓国の若者たちは、世界中で流行っているキャンプや車泊、ボルダリングなど、様々なアウトドアにご執心なのである。
だが、唯一こうした若者の消費ブームに乗っかれなかった市場がある。5人以上集会禁止に触れてしまう「ゴルフ練習場」だ。
2021年5月、韓国で運営中のゴルフ練習場は約9000カ所。2019年までは毎年増加してきたが、2020年に新型コロナの影響で前年対比7.9%減少し、コロナ禍で廃業したゴルフ練習場も多い。
そうしたなかでも、一部には元気なゴルフ練習場がある。韓国人が開発し世界中に広まっている「スクリーンゴルフ場」である。
大型スクリーンゴルフ場企業のゴルフゾーン社の売上高は、2020年2810億ウォン(約280億円)を記録し、前年対比21.3%増加した。
スクリーンゴルフ場は、コロナ禍の中でも海外へ行っていたゴルファーたちの流入に加え、若いMZ世代(韓国では20代と30代の若者をこう呼ぶ)のゴルフ初心者が利用するようになり成長している。
従来のゴルフ練習場が三密と言われて利用できないなら、少人数で利用できるスクリーンゴルフ場へ行こうというわけだ。
また、週52時間勤務制度の施行により、余暇時間が増えた結果、ゴルフに対する関心が高まっている面もある。
韓国のゴルフブームは若い世代に確実に広がり、大きく成長しつつある。
しかし、これに便乗してゴルフ場は、グリーンフィーやカート代、食事代、キャディ代などを値上げし、利用客の不満が高まっている。
せっかく、盛り上がったゴルフ人気に、目先の利益にとらわれて水を差すゴルフ場が多いのだ。
韓国でもワクチン接種が着々と進められ、今年中には集団免疫状態になると期待されている。
そうすると、また高すぎてかつ混雑する韓国のゴルフ場を離れ、伸び伸びとプレーができる日本など海外へ出てしまうゴルファーが増加する可能性がある。
韓国では株式投資が本格的に大衆化し、証券会社の利益は目を見張るものがある。
そのせいか、最近汝矣島(ヨイド、韓国の証券取引所がある場所で証券会社が密集している場所で国会議事堂もある)では、昼休みの時間に、スクリーンゴルフ場でプロに教えてもらうゴルフレッスンは予約が満杯で、中々取れないという。
報復消費で韓国人のゴルフ熱は高まる一方のようだ。