韓国ムン大統領 任期満了まで1年 支持率最低水準に
2021年5月9日 19時56分
韓国のムン・ジェイン(文在寅)大統領は、9日で任期の満了まで残り1年となります。
支持率が就任以来最低の水準に落ち込み、求心力の低下が指摘される中、冷え込んでいる日本との関係で任期内に事態を打開するのは難しいのではないかという見方も出ています。
韓国の大統領の任期は1期5年限りで再選は認められておらず、2017年に就任したムン・ジェイン大統領は、1年後の来年5月9日に任期満了となります。
ムン大統領は、北朝鮮との関係改善を最優先課題に掲げ、2018年には三たび南北首脳会談を行いました。
しかし、おととしアメリカと北朝鮮の2回目の首脳会談が物別れに終わってからは、韓国と北朝鮮の関係も行き詰まっています。
さらに、不動産価格の高騰などで支持率が就任以来最低の30%前後に落ち込んでいて、先月の首都ソウルと第2の都市プサン(釜山)の市長選挙ではムン政権を支える与党が大敗しました。
その与党内では、来年3月の大統領選挙に向けてムン大統領に近い主流派と非主流派がせめぎ合っており、大統領の求心力の低下が指摘されています。
ムン大統領としては、今月21日の米韓首脳会談などをきっかけに、北朝鮮との対話の再開に向けた機運を高めたいところですが見通しは立っておらず、厳しい政権運営を迫られそうです。
こうした中、冷え込んでいる日本との関係でも、慰安婦問題や太平洋戦争中の「徴用」をめぐる問題で、日本側にとって受け入れ可能な解決策を示すことができるのかは不透明で、任期内に事態を打開するのは難しいのではないかという見方も出ています。
ムン政権下で積み上がった課題
ムン・ジェイン大統領の支持率が就任以来最低の30%前後に落ち込んでいるのは、国民の生活にかかわる経済政策の失敗が影響しています。
世論調査で、ムン大統領を支持しない理由として最も多かったのが、首都圏を中心とした不動産価格の高騰です。
韓国では、ソウルやその近郊に全人口の半分が集中し、慢性的に住宅が不足していることに加え、低金利政策が続く中で不動産への投資が過熱したことなどから、ソウルではムン大統領就任後、マンションの平均価格が2倍近く上昇しました。
ムン政権は、不動産価格の抑制を図ろうとこの4年間にさまざまな政策を打ち出しましたが、価格上昇には歯止めがかからず、国民の不満につながっています。
こうした中、ことし3月、土地住宅公社の職員らが開発計画の発表前に値上がりが見込まれる土地を不正に購入していた疑惑が浮上。
ムン大統領は「公正な社会を実現する」と訴えていただけに、大きな反発につながりました。
また、ムン大統領は就任時から若者の雇用の確保に取り組むと強調してきました。
しかし、この4年間で雇用は改善せず、若い世代の支持離れにつながったと指摘されています。
新型コロナウイルス対策をめぐっても、批判や不満が高まっています。
去年前半は、徹底的なPCR検査などで感染の広がりを抑え、評価されましたが、去年12月に1日当たりの感染者数が過去最多になり、その後もさまざまな規制を行ってきましたが、感染者を大きく減らすことはできていません。
また、ワクチンの接種は2月下旬から開始しましたが、ほかの国にくらべてワクチンの確保が遅れたという批判も出ました。
最重要課題に掲げる南北関係も停滞したままです。
先月下旬に韓国の脱北者団体がキム・ジョンウン(金正恩)総書記を批判するビラを飛ばしたことに、北朝鮮が強く反発していて、事態打開の糸口すら見いだせていないのが実情です。
今月21日にワシントンで行われるバイデン大統領との首脳会談で、アメリカ側に対し、北朝鮮との対話の早期再開に向けた働きかけも行いたい考えとみられますが、北朝鮮の人権問題などで、双方の間には立場に差があるとの指摘も出ています。
次期大統領候補 注目の2人
韓国の次の大統領選挙は、10か月後の来年3月に行われます。
各党の候補者選びはこれから本格化しますが、7日に発表された韓国ギャラップの世論調査で、次の大統領にふさわしい人物として1位(25%)になったのは、革新系の与党「共に民主党」に所属し、ソウル近郊のキョンギ(京畿)道知事を務めるイ・ジェミョン(李在明)氏です。
前回の大統領選挙の際は、党内の候補者選びで敗れましたが、パク・クネ(朴槿恵)前大統領を激しく批判するなど、歯に衣着せぬ発言で注目を集めました。
人権派弁護士出身のイ・ジェミョン氏は、わかりやすいメッセージや大胆な行動力で支持を広げていると指摘されています。
国民の関心が高い経済対策では、一定額を無条件で支給し、最低限の所得を保障するベーシック・インカムの導入を掲げています。
道知事として新型コロナウイルス対策では2度にわたり市民に支援金を支給しました。
また、就職支援などにも力を入れ、SNSを積極的に活用し、若い世代にも浸透しています。
ただ、ムン大統領とは距離があるとされ、党内での支持をいかに広げることができるかが課題となっています。
このほか与党内では、ことし3月まで与党の代表を務め、韓国政界きっての知日派としても知られるイ・ナギョン(李洛淵)氏や、先月まで首相として新型コロナウイルスへの対応などを率いてきたチョン・セギュン(丁世均)氏の名前もあがっていますが、世論調査での支持率は、それぞれ5%と1%にとどまっています。
一方、世論調査で3ポイント差の2位(22%)になったのは、検察のトップ、検事総長をことし3月まで務めたユン・ソギョル(尹錫悦)氏です。
ユン氏は、政党に所属せず政治経験もありません。
検事総長として、ムン政権をめぐる疑惑の捜査を指揮し、大統領の側近だったチョ・グク元法相を辞任に追い込むなど政権側と激しく対立。
政権の圧力に屈しない姿勢が公正な社会を求める有権者から支持を集めているとみられます。
検事総長を辞任する際には「今後、どんな立場にあっても、自由民主主義と国民を守るために全力を尽くす」と述べ、政界に進出するのではないかという見方が広がりました。
検事総長を辞めてからは表舞台にほとんど姿を見せておらず、韓国メディアは、専門家との会合を重ねるなどして、大統領選挙に向けた準備を進めているとの見方を伝えています。
また、ユン氏の考え方を探ろうと、関連する書籍が相次いで出版されるなど、その動向が注目されています。
政権交代を目指す保守系の最大野党「国民の力」は、先月の2つの市長選挙で圧勝しましたが、大統領選挙に向けては世論調査で上位に入るような有力な人物がいません。
このため、野党の支持者などからは、ムン政権と対じしてきたユン氏への期待が高まっています。
専門家「選挙後も日韓厳しい」
日韓関係に詳しい韓国のソンゴンフェ(聖公会)のヤン・ギホ(梁起豪)教授は、太平洋戦争中の「徴用」をめぐる問題や慰安婦問題などについて、「両国間の立場の違いが大きく、来年3月には大統領選挙があり、ムン政権が日本に完全に譲歩する解決法を提示するのはかなり厳しい」と述べました。
また、次の大統領選挙の後についても「過去の歴史の争点について、すでに司法が出した判断があるため、これを前提に韓国政府は可能な方法を探さなければならず、革新政権でも保守政権でも大きな違いはないだろう」と分析しました。
そのうえで、日韓関係の改善に向けては「朝鮮半島の非核化や中国への対応は、両国が共有している認識だ。北東アジアの国際情勢の中で、両国が戦略的な利益を共有できるよう対話と意思の疎通を通じて交渉していく努力が必要だ」と指摘しました。