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程暁農★バイデンの中国政策の二つの顔 2021年03月11日

2021-07-27 17:39:20 | 日記

程暁農★バイデンの中国政策の二つの顔 2021年03月11日

 バイデン大統領の対中政策はある時は中共に好意的で、ある時は対中戦争の準備を宣言するなど両面性に満ちている。

演技をしてるのではなく、「ポリティカル・コレクトネス」派の価値観と、米国の国家の安全という根本的な対立の中で迷っているのだ。

バイデン政府は中共を控えめに「主要なライバル」と呼んだが、事実は中共は「ライバル」ではなく、「戦略上の大敵」なのだ。

 中共は計画的かつ組織的に米・中冷戦に火をつけ、傲慢無知にも自分たちが勝つと信じている。

米国軍と経済的実力は現在、中共の脅威に対して十分なものであり、中共が傲慢なままで居られるかどうかは、バイデン政府が一体どのように中共の脅威に対応するかにかかっている。

 ★1:中共独裁は、まともな「文化モデル」なのか?

 2月16日にウィスコンシン州ミルウォーキーで行われたCNNの番組に出演したバイデンは、2月10日に習近平と電話会談の内容を明らかにした。

バイデンは「もし中国の歴史を多少とも知っていれば、習近平の中心的な原則はつまり、統一された厳しいコントロールのきいた一つの中国でなければならない、ということだ。

それに基づけば、習近平がやったああした行動は合理化される。

文化的に見れば、異なる国家には異なるルールがあり、どの国の指導者も期待し従う。

私は習近平が香港でやったことに反対しないし、彼が中国政西部や台湾でやったことに反対するつもりはない」と語った。

 これはバイデンが本心から、彼の価値観と「親パンダ(中国)」派として一貫した立場からの発言だ。

 バイデンの価値観には、米国の「ポリコレ派」の見方がしっかり表現されている。

彼らはマルクス主義が生んだ共産党政権は人類史上最悪の制度だったと認めない。

彼らは、ヨーロッパから輸入した「文化的相対主義」を用いて口当たりを良くしている。

「文化相対論」は「多元文化は比較して善悪を論じてはならない」と強調する。

 これは欧州で誕生した新マルクス主義の重要なものの見方であり、その本質は「道徳否定論」だ。

キリスト教文明の基礎に立つ「正邪を明らかにする」道徳観念を排除して、性的混乱、民族・階級対立の促進、反資本主義、反西洋宗教に置き換えなければならないというのが「道徳的否定」の本質である。

 バイデンが共産主義の独裁を「文化的規範」と表現したことは、間違いなく共産党の独裁文化を正当化するものである。

これは一種の詭弁だ。

専制主義と自由主義を区別するのは別に難しいことではない。

「何が正しいか何が間違っているか」をはっきりさせることは、民主主義制度における基本的な価値観念だ。

 しかし、新マルクス主義は、民主主義国家の社会秩序を打破し、民主主義社会を変革する新旧あらゆるマルクス主義的な赤の価値観を導入することを提唱しているので、「文化的相対主義」を強調し、権威主義的な文化と民主主義体制の伝統的な文化を同一視する。

 「多文化主義には善悪がない」という言葉を使って、自分たちの好む権威主義的な文化を正当化したいのだ。

だから彼らは「文化相対論」をもって独裁主義と民主制度の伝統文化を「イコール」だとして、多元文化には優劣がないとして、自分たちの好む独裁文化に正統性の冠をかぶせたいわけだ。

 バイデンは新マルクス主義の出来の悪い生徒であり、その詭弁的な議論を頭で理解することすらできずにオウムのように話しているが、その結果、出てきたのは赤裸々な独裁に対する寛容論だった。

実際、「ポリコレ派陣営」は偽善的で、西洋の伝統的な価値観には非寛容で容赦なく、一方、「多元主義の善悪」については全く語らない。

 アメリカで見られるように「ポリコレ派陣営」の価値観は、一種の西洋ポストモダン的な権威主義的思考と同根なのだ。その根源は共産主義独裁者の価値観と同じであり、だからこそ、価値観面での親和性がある。

 「ポリティカル・コレクトネス」を理由に、アメリカ社会に「独自の価値観」を押し付ける。

「ポリコレ派」は、共産党のように、権威主義的な考え方で社会全体をコントロールしようとする。

 「ポリコレ派」も、中共独裁したの人権状況を批判するが、それは自分たちと共産党独裁の価値観が緊密につながっていることを隠蔽するためで遭って、真剣でも真面目にやるわけでもない。アメリカの「ポリコレ」の古い世代の多くは、反戦運動の際に毛主席の『名言集』を愛読していた。

多くが後に大学の教員となり、一代一代ごとに今日の大学と高校で圧倒的な勢力をほこるマルクス主義シンパを育ててきて、もともと中共に好感を持っている。

 ★米国政治における三つの派の分立

 トランプ時代後期のアメリカの対中政策は非常に明確で曖昧さがないのに対し、バイデンの対中政策は少し混乱しているようだ。

しかし、単純に「ポリコレ派」と保守派の対立によって対中政策が決まるとか、「親パンダ派(親中国派)」と「パンダ封じ込め派」の対立から、米国の対中政策を見ようとかするのは単純すぎる。

と言うのは、今の米国の政界や実業界には、両派だけでなく、実際は三つの派があるからだ。

 長年にわたって米国にはずっと「親パンダ派」と「パンダ封じ込め派」が存在し、前者は政界、金融界、実業界、学術界に多く存在する。

パンダ封じ込め派」は軍部と共和党の一部の議員がそれだ。しかし、すべての議員がこの両派に分けられる訳ではないし、政党によって両派を分けられるというものでもない。

 私のいう三派分立とは、まず「国防派」で、これは「パンダ封じ込め派」たちが属している。

そして、「パンダ親善派」の一部の人々もめざめて加入する可能性がある。

次は「売国派」で「パンダ親善派」の一部は自分たちの利益のためには中国が強くなって、米国が弱くなることを願う人々がいる。

 第三の派とは「国を害する派」で、これには「ポリコレ」の理念を好み、必ずしも「パンダ親善派」のような中共と数知れぬ利益の絆で関係を持っている訳ではないのだが、自分たちが独裁で天下をとるために、各種の「ポリコレ」的な言辞を撒き散らし、米国の利益に反する政策を推進する。

 今後のアメリカの国策は、この3つの派閥の戦いから生まれてくる。

民主、共和両党にもこの3つの派閥があるが、割合が異なる。

共和党には「国防派」が多いが、「売国派」もいて、私利私欲のために「国を害する派」と結託する連中もいる。

民主党には「国を害する派」の割合が多く、「売国派」も多いが、「国防派」もいる。

 どの派閥がどの政策で優位に立つかは、その政策の内容による。

例えば、国防問題では基本的に「国防派」が優勢だが、対中国の経済・貿易・金融政策では「売国派」がかなりの影響力を持っている。

中国政策の全体的な方向性は、保守派とリベラル派という単純な区分けでは必ずしも十分に説明できない。
 
 米・中関係の将来は、複雑で錯綜した状況になる。

軍事的なレベルでの対立は明らかだが、他のレベルでは常に具体的な分析が必要になる。

バイデンはトランプのように冷戦各層での一致した政策をとらない。その代わりに、軍事、諜報、経済、政治方面でやや矛盾した政策をとるだろう。

 対「国防派」の国防と国家安全に対する要求に、「売国派」や「害国派」も表立って反対はできないが、逆に行動においては米国を弱く、中国を強化する政策を主張するだろう。

 軍部が、中共によって国家の安全がますます脅かされると認識している時、国防強化や議会と政府の「国防は」の指示を得て、対中政策の主要な推進力になりうる。

 米国実業界には少なからぬトランプの経済制裁による対中共政策に反対する企業があるが、軍部の強硬な立場は「売国派」に対しても一定の拘束となる。

軍部は米・中軍事対決の基調で配置を引き締める。しかし、米軍の軍事的準備を行う部署は、必然的に経済方面の両国の交流を制限するし、未来の米・中経済関係は両国の軍事対決という背景の下でおこなわれることになる。

 ★3:中共は刀を研ぎ、戦争への準備おさおさ

 アジア太平洋地域は今、中共の国際的野心と軍事的脅威に根ざした、最も危険な10年に直面している。中共の対米軍事脅威とは口先だけのことではない。

 公式対外宣伝メディアである「多維ネットニュース」は、昨年10月22日、「中国の国防法、国際安全保障の不安定性が高まる中、『戦争条件』を強化」と題したレポートを出した。そこには中共が国防法の「開戦条件」に「経済上の必要性」を「重要な理由」に加えた。

 全国人民代表大会(全人代)の常務委員会は昨年10月13日に開催され、国務院と中央軍事委員会が提案した国防法改正案を審議した。 改正国防法は12章70条からなり、そのうち50条を改正、6条を追加、3条を削除することになっており、特に「開発の利益が脅かされる」場合には「総動員や地方動員が必要となる」とした。

 このように国防法を改正して何をしようとしているのか。これは非常に危険な信号だ。その目的は戦争への総動員のための法的準備を行うことだ。

 実際、共産党の上層部と軍部が戦争をすると決めた時には、法的な手続きを踏む必要はなく、朝鮮戦争、ベトナム戦争、ダマンスキー島の戦いの時には、事前に中国国民には秘密にしておき、後から官製メディアが用意したプロパガンダ版に沿って社会を動員した。

 今回の国防法改正では、中共は「総動員」の前に「戦争」という非常にセンシティブな言葉を避けているが、実際、国防法に関連する「総動員」は、戦争しかない。戦争の総動員は通常、以下のようなものだ、。

 ① 兵士の供給源の拡大。退役軍人の徴集
 ② 民間経済の軍事転用。労働時間延長
 ③ 戦争の需要を優先し、民用消費物資、工業物資の供給を制限

 国防法を改正で、中共は戦争への総動員の理由として「経済的な必要性」(官製メディアは「開発利益」と呼んでいた)を盛り込んだ。

つまり国防法を改正することで、どんな状況も簡単に「経済的利益」に結びつけることができ、対外戦争の「開戦理由」を無限に拡大したのである。

 この戦争への「総動員」は、もちろん台湾海峡の紛争だけではない。中国の「発展の利益」に最も関係するのは、海外貿易、技術の盗用、外国投資の流入であり、これらは主に米国に関係している。中共の戦略では、米国は世界経済の利益を妨げる主要な国であり、国防法の変更は、中共の戦争の脅威が主に米国に向けられていることを意味する。

 ★なぜ中共は平和的競争を望まない?

 常識的に考えれば、どの国の経済発展も平和な状態でなければスムーズに進まないし、どの国の経済発展もトラブルに見舞われることがあり、そのようなトラブルは国際的な規制や国同士の交渉によって解決されるべきものである。

  経済発展のために必要な利益を、戦争という手段で得られるだろうか? 通常の競争では得られない経済的利益を、戦争でつかみ取ることができるのか?

 中共の考え方は、一見、常識を覆し、理解できないように見えるが、実はもう一つの公言をはばかる下心がある。

中国の「台頭」は、米国などから知的財産や技術の秘密を大規模に盗み、盗んだ特許や技術を使って米国などの企業を潰すための製品を製造し、国際貿易ルールに違反して米国との貿易黒字を長期間にわたって高水準で維持するなど、国際ルールや各国の法律を破ることで促進されてきたのだ。

 国際的なルールや法律のレベルでの正常な競争に戻れば、中国は経済を支えるこれらの重要な手段を失う。トランプが開いた米中経済貿易協議で知的財産権侵害の話題に触れた途端、中共はは「ちゃぶ台返し」で交渉を打ち切ったのだった。

 同時に、中共は米国にプレッシャーをかけ、自国経済が依然として米国に依存しているにもかかわらず、軍事の分野で米国に譲歩を迫ろうとしたのだ。

 そして、たまたま不正が行われた大統領選挙(参照;

程暁農★民主主義の砦の自滅―ナバロ報告書の概要  2021年2月23日 )後の米国の政治的方向性は、中共に絶好の機会を与えた。

 中共は現在、逆に米国に挑戦できると思っている。

「多維ネットニュース」は3月6日に「中国の2021年は野心満々でしっかりと」という見出しを使った。「野心満々(充満野心)」の4文字こそ中共トップの心境なのだ。

 その「野心」とは何か? 

最近、習近平は一言、「70歳を過ぎても、1980、1990、2000年後生まれの中国人が対等に見る世界は、昔のような『遅れた泥臭い中国』ではない」と語っている

・言葉は心を表す。

習近平の心中では、中共はすでに世界を仰ぎ見るようなものではなく、「お前らはたいしたことない。おれらはお前らをやっつけられるんだ」という感覚だ。

 習近平が口に出さなかったのは、「世界をいかに中共の天下にするか」であり、思い通りにしてやる、ということだ。

また、習近平のいう「世界」とは中小の国家ではなく、米国のことだ。

当然、「対等」とは数カ月にして中共が突然成功したということではなく、米国が現在、危機的様相を呈しているということ。

特に米国内の政治・経済政策において、危険な下降スパイラルに陥っていることだ。

 2月12日に中共の「多維ネットニュース」の記事ではこう書いている。

;「中国と米国の公式声明から判断すると、北京は『米国に挑戦している』というレッテルを貼られることを極力避けている。

しかし、実際には『中国の対米挑戦』は、もはや避けがたい。

経済的には、2011年以降、中国は米国に次ぐ第2位の経済大国となり、2027年または2028年には中国が米国を追い越すと多くの経済関係者が予測している。

グローバルな経済ガバナンスのレベルでは、『一帯一路』が世界の地政学的光景に与える影響はますます明らかになるだろう。

軍事レベルでは、中国と米国は等しく核武装しており、南シナ海や台湾における中国の軍事的プレゼンスは近年著しく高まっており、人民解放軍の軍事的抑止力は大幅に増加し、アジア太平洋における米国の絶対的優位性は相対的優位性に変わってきている」

 これは中共のプロパガンダで、その自己顕示には疑問があるが、「野心」は全面的に表現されており、中共はもはや米国への挑戦を忌避しない。

 ★5 米国と中国の関係は競争的なものか?

 バイデンが中共を「主要なライバル」と表現したことで、外交言語レベルでの中共に対するトランプ政権の認識はトランプ政権よりもはるかに温和になった。中共は正常なライバルなのか?

 歴史的に見れば、米国に対抗して独自の外交路線を追求したフランスのシャルル・ドゴールや、マンハッタンを買い取ることができると主張した1980年代の日本のような世界の経済的ライバルなど、民主主義国の中で多くの国際的な政治的ライバルがいた。

今の中国の挑戦は、当時のフランスの挑戦や日本の挑戦のレベルに過ぎないのか?無論そうではない。

 「多維ネットニュース」にこの2月「北京とバイデン政権の関係を左右する2つの現実(Two Realities Determining Beijing’s Interaction with the Biden Administration)」が掲載された。

そこでは、現在、米・中関係には二つの現実があるという。

第一には、米・中関係は過去4年、とりわけ2020年に急速に悪化し、冷戦に向かっている。第二には、米・中新冷戦は、「トゥキディデスの罠(Thucydides’s Trap)」にはまる可能性がある、だ。

「トゥキディデスの罠」とは何のことでどんな危険なのか?

ハーバード大学のグレアム・アリソンは、2012年に『フィナンシャル・タイムズ』紙に米中対立の可能性を探る記事を掲載し、

その後、著書『Doomed to War』(邦訳『米中戦争前夜――新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ』ダイヤモンド社)の中で

「中国と米国は今、戦争のような対立の過程にある」と指摘した。
 
 古代アテネの将軍トゥキディデスの言葉を借りた「トゥキディデスの罠」は、大国が新興国に脅かされると、両国の間で戦争が勃発する可能性が高いということだ。

 ここ数年の米・中関係の推移を見ると、アリソンの仮説通りに、中共によって歴史が一歩一歩トゥキディデスの罠の方へ押されていることがわかる。

米・中が冷戦状態に入ったことで、この言葉は冷戦下の戦争の危険を指す言葉として定着した。

 冷戦は中国共産党が始めたものだが、トランプ大統領はタイムリーに対応した。

バイデン政権はトーンを下げて、現在の米・中関係を「China challenge」という言葉で表現しているが、実際には、アメリカは今、平和的な挑戦や競争だけでなく、中国共産党の全方位的な脅威、特に軍事面での脅威に直面しているのだ。

 中共は、軍事、経済、スパイ活動、政治的浸透という4つの主要なレベルで、長年にわたり米国の国家安全保障に大きな脅威を与えてきた。

米国にとって、このような脅威は米・ソ冷戦終結後には見られなかったものだ。

中共は、うっかり冷戦に火をつけたのではなく、世界がどう思おうと、自分たちは勝者になれると考えて、計画的、組織的に火をつけたのである。

 米軍の軍事力と経済力は、今は中共の脅威に対応する十分な力を持っており、中共がこのまま傲慢であり続けるかどうかは、すべてバイデン政府がいかに中国の脅威に対応するかにかかっている。

これは米国の未来に関わるし、東南アジアの国家の未来にも関わり、世界の未来にもかかわることだ。(終わり)

程晓农:拜登对华政策的两面性
2021年03月11日


腐敗は直接、国民党政権敗亡の原因になったわけではない

2021-07-27 16:51:32 | 日記

読書メモー国民党の敗北は腐敗が原因ではなかった 

何清漣

2014年11月22日

全文日本語概訳/Minya_J Takeuchi Jun

http://twishort.com/E7Xgc

ヒットするとは思われていなかった映画「北平(*北京)無戦事」(*「北京無血開城」。

北京の平和解放に尽力した国民党に潜入した中共党員の話らしい)が大ヒットしたのはまず、みんなが習近平の言った「自分が飯を食う鍋を壊す輩」論の元のセリフを劇中に発見したのと、蒋経国が陥った「泥沼の反腐敗との戦い」の中に現実の投影をみたからでしょう。

多くの人々が「胸がスッとした」と感想書いてますね。

しかし依然として気になる問題があります。

それは「中共の腐敗は今や遥かに国民党を超えているのに、いまだにしっかりしているのか?」です。

《腐敗は直接、国民党政権敗亡の原因になったわけではない》

私は以前にに書いた「”危機の共振”はまだ来ないのか?」

http://xinqimeng.over-blog.com/article-109981500.html  2012/914)の中で、腐敗は政権を衰弱させるが、それは長い長い時を必要とする過程であって、政権崩壊の十分条件ではないと書きました。

歴史的経験からみれば中国の歴代王朝の衰亡は往々にして大危機が重なったからでした。

例えば統治集団の内部危機、経済危機(最終的には財政危機となって現れる)、そして外敵の侵入です。

「北平無戦事」はまさに国民党政府が直面した4大危機の嵐の様子をよく描いています。

作者は共産党のスパイで国民党側の経済学者だった冀朝鼎が宋子文に故意に間違った貨幣政策を献策したことは省いていますが、たぶん現政権に気を使ったのかもしれません。

私がここでいう「腐敗は政権崩壊の決定的要素ではない」ということの意味は、中国人にとっては、これまでに植え付けられた「中国人の常識」とは違うからなかなか理解されないでしょうこの「中国人の常識」というのは実は共産党が学校教育を通じて小学校から大学まで、またメディアをつかって人々の『常識』になるように脳みそに注ぎ込まれてきたものなのです。

ひとつには共産党が反腐敗に使ってきた「腐敗は亡党亡国」という話や、蒋経国が上海の腐敗の大物退治に失敗した事件を格好の例とする「蒋介石の国民党政府が大陸で失敗した主要な理由は軍事・政治面での腐敗が原因」という話です。

しかし国民党時代の腐敗と現在の共産党の腐敗を比べてみたらすぐわかります。

20世紀の90年代中後期すでに中共の腐敗は遥かに国民党より深刻でした。

国民党の腐敗の最高点は抗日戦争勝利後にそれまでの大物金持ちから接収して「兄弟みんな大成功」したのがひとつ。

もうひとつは国共内戦の戦時物資の分配でした。

平時の腐敗は税金の取り立てや司法の分野でのもの。

土地が私有だったので国民政府の時期には現在のように政府が大量の土地を強制収容して住民を追い払うとかはありませんでした。

しかし中共は違います。

国家があらゆる資源を独占し、土地も国有(農村集団所有)で何から何まで資源、公共プロセス、政府投資、銀行資金の監督、司法、教育、医療など一切を手中に収めてしまっています。

高官の家族の腐敗強欲について国民党の時期のことを共産党の陳白達が「中国の四大家族」という本を書き著し、宣伝効果は極めて強く中国人はみんなそれを信じました。

しかし、いま中共の政治利益集団が民衆公共から奪った財物はたとえ40家族であってもかなわないほどで、「オフショア金融会社の秘密」やNYタイムズ、ブルムバーグの一連の調査報道の中身は陳の「中国の四大家族」の中身よりはるかに信用できます。

(*参考;「中国のダーティマネーはどこへ?」 http://urx.nu/eqiz

こうした事実から、私は国民党はなぜ負けて台湾に追い払われたのか、ということをあらためて考えさせられました。

幸いも、一部の学者がこのことに対して大変熱心に研究しています。

《国民党と共産党の比較;弱い専制と強固な専制》

北京大学の歴史系教授の王奇文は数年前に「弱い独裁性政党の歴史的命運」と題する一文をものし、政党の社会的基礎、組織構造と組織管理方法を深く検討しました。

以下はその概要を書きだしてみました。

《国民党は自らの社会的基礎を持たなかった》

1927年以後、国民党が全国的政権を掌握しソビエトロシアを模倣して一党専制を実行しました。

しかし国民党には実際は専制の社会的条件が備わっていませんでした。

政権を握った当時(1928年)国民党の普通党員は27万余人、それが1937年になってやっと52万余人でした。

1929年、南京政府が制圧していたのは国土の8%と人口の2割にしか過ぎませんでした。

抗日戦争前夜ではやっと国土の25%と人口の66%でしたが、その管制力は非常に弱いものでした。

「党の力不足のために南京政府は都市の上層部に限定的な接触しかできなかったし、県以下の農村の基本社会は自治状態のままだった」と。

これが共産党が辺境地区で生存できた原因です。

また、「大量に北洋旧官僚をその各級のシステムに組み入れたため、北洋官僚界の旧習が新政権でもずっと続いてきた」。

これにたいして「中共が全国を掌握したときには600万人以上の党員を擁し、そのうちの331万人が専従党員(1952年).

1958年には党員は1300万人以上で、専従が792万人、2013年までに中共の党員は8668.6万人で18歳以上人口の8%でこれが中共の広範な社会的基礎となっています。

《国民党政府の軍隊に対するコントロール力は中共より弱かった》

国民党政権を支える力は党員と党機関ではなく軍人と武力でした。

党と政府と軍の三者の中で党の力はもっとも脆弱でした。

抗日戦争時も戦後の「共産党掃滅」時期も真っ先に崩れたのは往々にして党で、次に政府、最後が軍隊でした。

ある地方に進駐するのも一番先が軍隊で、次が政府、最後にやっと党幹部でした。

共産党はこれに対して党の力量は往々にして軍政の前衛であり、

ある地区を占拠するとまず真っ先に党の組織がやってきて、そのあとで軍・政の力がやってきました。

またある地区から撤退するにも軍・政が引いてのちにも党の組織は依然として踏みとどまって戦闘を継続したのでした。

ですから国民党政権時には「国民党は完全に軍の従属物」で派閥が乱立し地方軍閥は一地方の軍事、政治、経済を独占し、国民党政府中央とはますます離れた存在になりました。

共産党はその点、在野であろうと権力を掌握していようと、すべて党が政治的な革新的役割を果たしており、党の軍に対する絶対的な指導、つまり「党が銃口を指揮する」原則を堅持していました。

1927年に毛沢東が「三湾改変」で軍隊の中に必ず共産党小組を作るという方法で軍権をしっかり党の手中に収めたのでした。

《国民党の対社会的浸透力ははるかに中共に劣った》

「国民党は執政以後も既存の社会機構と接触しなかった。国民党は政治的に合格した党員を選抜して各級の政治と社会機構の中に派遣して新しい立脚点をつくることをしなかった」

 「また党員を陶冶して社会の模範となるようにして社会の様々な模範とし民衆の信用と擁護を勝ち得るような努力もせず、資質をしっかり分別もしないで旧社会の勢力から党員をかき集め国民党に加入させた」

「そうした連中は国民党のバッチをつけてはいても、要するにただこれまでの既得権を保つだけが目的だった」。

これに対して中共の組織は極めて厳密だった。1949年中共政権成立後は中共は農村と都市の中に浸透し最後には農村では人民公社制度を通じて、都市では道路事務処と居住委員会制度を通じてそうした基礎組織の中に党の支部を建設し、全社会の隅から隅までコントロールした。

十数年前からは中共は私企業の中にも 党支部を建設し、企業に対してもコントロールできるようになった」。

中共はかくていかなる僻地の隅々でも目が行き届き、かっての毛沢東時代の井崗山や陕西にいたころのように各地に革命根拠地をもとめなければならないなどということは起こり得ないのです。

《国民党は党脱退にも放任政策をとった》

王奇文はさらに

「国民党の政府部門と国有経済部門を担当した公職者が必ずしも国民党員ではなかったし、党をやめても懲罰を課す制度はなかったと言及しています。

「1947年9月、国民党6節4中全会が南京で開催され、席上、蒋介石は3青年団を国民党に合併し、国民党の全党員、団員は再登録する決議をして、その腹積りでは合併後、総党員は1000万人を超すとおもっていた。

しかし1948年11月、党員、団員で再登録したものはわずかに132万人だった。

つまり、この合併の過程で9割が国民党を脱党したのだった」

「この時同時に国民党中央は1947年から県級の党務経費支払いをやめてしまった」


「県以下級の幹部たちは自分で生きていけということになり、こうした状況のもとで各県の党には一人か二人が残るだけとなり、また全く誰「この情景は国民党が軍事的な大潰走の前にすでに崩壊していたという事実を表している」。

中共党員は除籍されたり脱退を勧告された者以外、自ら脱党した者は「反逆行為」とみなされ攻撃され、時には肉体的な抹殺まで含まれていました。

中共政権発足後、歴史的汚点としての事件がたくさんあり、

何度も政治運動の粛清の対象になったのですが、

文革時期には1936年、北方の責任者だった劉少奇が中共総書記の張聞天の許可を得て幹部の力を温存するため61人の国民党に逮捕された幹部が自首して保釈手続きをとった”偽装転向”ですらも、「61人の反逆者集団事件」とされ、6000人以上が巻き添えになったのでした。

現段階で中共に面従腹背の人々は少なくありませんが利益関係のしがらみによって中共党員は「自分から党と縁を切る」ことはできず、自分から党を辞める人は大変すくないのです。

以上の論述は中共政権というこの強力な専制政権の組織機構、方式、結束力などから その攻撃能力は国民党の弱い専制政権の比ではないことを明らかにしています。

現在、「組織化なし、中心化なし」というネット革命で中共政権と戦う人々にとって、この一文で少しばかり歴史的経験を提供いたします。(続く)

続編は、国民党と共産党の異なった社会コントロールのやり方について比較してみます。

節約御免。
原文は; 读史札记(1)-国民党之败并非缘于腐败 http://www.voachinese.com/content/heqinglian-blog-history-notes-20141121/2530061.html
何清漣氏のこれまでの論考、日本語訳は;http://yangl3.sg-host.com/japanese/