程暁農★バイデンの中国政策の二つの顔 2021年03月11日
バイデン大統領の対中政策はある時は中共に好意的で、ある時は対中戦争の準備を宣言するなど両面性に満ちている。
演技をしてるのではなく、「ポリティカル・コレクトネス」派の価値観と、米国の国家の安全という根本的な対立の中で迷っているのだ。
バイデン政府は中共を控えめに「主要なライバル」と呼んだが、事実は中共は「ライバル」ではなく、「戦略上の大敵」なのだ。
中共は計画的かつ組織的に米・中冷戦に火をつけ、傲慢無知にも自分たちが勝つと信じている。
米国軍と経済的実力は現在、中共の脅威に対して十分なものであり、中共が傲慢なままで居られるかどうかは、バイデン政府が一体どのように中共の脅威に対応するかにかかっている。
★1:中共独裁は、まともな「文化モデル」なのか?
2月16日にウィスコンシン州ミルウォーキーで行われたCNNの番組に出演したバイデンは、2月10日に習近平と電話会談の内容を明らかにした。
バイデンは「もし中国の歴史を多少とも知っていれば、習近平の中心的な原則はつまり、統一された厳しいコントロールのきいた一つの中国でなければならない、ということだ。
それに基づけば、習近平がやったああした行動は合理化される。
文化的に見れば、異なる国家には異なるルールがあり、どの国の指導者も期待し従う。
私は習近平が香港でやったことに反対しないし、彼が中国政西部や台湾でやったことに反対するつもりはない」と語った。
これはバイデンが本心から、彼の価値観と「親パンダ(中国)」派として一貫した立場からの発言だ。
バイデンの価値観には、米国の「ポリコレ派」の見方がしっかり表現されている。
彼らはマルクス主義が生んだ共産党政権は人類史上最悪の制度だったと認めない。
彼らは、ヨーロッパから輸入した「文化的相対主義」を用いて口当たりを良くしている。
「文化相対論」は「多元文化は比較して善悪を論じてはならない」と強調する。
これは欧州で誕生した新マルクス主義の重要なものの見方であり、その本質は「道徳否定論」だ。
キリスト教文明の基礎に立つ「正邪を明らかにする」道徳観念を排除して、性的混乱、民族・階級対立の促進、反資本主義、反西洋宗教に置き換えなければならないというのが「道徳的否定」の本質である。
バイデンが共産主義の独裁を「文化的規範」と表現したことは、間違いなく共産党の独裁文化を正当化するものである。
これは一種の詭弁だ。
専制主義と自由主義を区別するのは別に難しいことではない。
「何が正しいか何が間違っているか」をはっきりさせることは、民主主義制度における基本的な価値観念だ。
しかし、新マルクス主義は、民主主義国家の社会秩序を打破し、民主主義社会を変革する新旧あらゆるマルクス主義的な赤の価値観を導入することを提唱しているので、「文化的相対主義」を強調し、権威主義的な文化と民主主義体制の伝統的な文化を同一視する。
「多文化主義には善悪がない」という言葉を使って、自分たちの好む権威主義的な文化を正当化したいのだ。
だから彼らは「文化相対論」をもって独裁主義と民主制度の伝統文化を「イコール」だとして、多元文化には優劣がないとして、自分たちの好む独裁文化に正統性の冠をかぶせたいわけだ。
バイデンは新マルクス主義の出来の悪い生徒であり、その詭弁的な議論を頭で理解することすらできずにオウムのように話しているが、その結果、出てきたのは赤裸々な独裁に対する寛容論だった。
実際、「ポリコレ派陣営」は偽善的で、西洋の伝統的な価値観には非寛容で容赦なく、一方、「多元主義の善悪」については全く語らない。
アメリカで見られるように「ポリコレ派陣営」の価値観は、一種の西洋ポストモダン的な権威主義的思考と同根なのだ。その根源は共産主義独裁者の価値観と同じであり、だからこそ、価値観面での親和性がある。
「ポリティカル・コレクトネス」を理由に、アメリカ社会に「独自の価値観」を押し付ける。
「ポリコレ派」は、共産党のように、権威主義的な考え方で社会全体をコントロールしようとする。
「ポリコレ派」も、中共独裁したの人権状況を批判するが、それは自分たちと共産党独裁の価値観が緊密につながっていることを隠蔽するためで遭って、真剣でも真面目にやるわけでもない。アメリカの「ポリコレ」の古い世代の多くは、反戦運動の際に毛主席の『名言集』を愛読していた。
多くが後に大学の教員となり、一代一代ごとに今日の大学と高校で圧倒的な勢力をほこるマルクス主義シンパを育ててきて、もともと中共に好感を持っている。
★米国政治における三つの派の分立
トランプ時代後期のアメリカの対中政策は非常に明確で曖昧さがないのに対し、バイデンの対中政策は少し混乱しているようだ。
しかし、単純に「ポリコレ派」と保守派の対立によって対中政策が決まるとか、「親パンダ派(親中国派)」と「パンダ封じ込め派」の対立から、米国の対中政策を見ようとかするのは単純すぎる。
と言うのは、今の米国の政界や実業界には、両派だけでなく、実際は三つの派があるからだ。
長年にわたって米国にはずっと「親パンダ派」と「パンダ封じ込め派」が存在し、前者は政界、金融界、実業界、学術界に多く存在する。
「パンダ封じ込め派」は軍部と共和党の一部の議員がそれだ。しかし、すべての議員がこの両派に分けられる訳ではないし、政党によって両派を分けられるというものでもない。
私のいう三派分立とは、まず「国防派」で、これは「パンダ封じ込め派」たちが属している。
そして、「パンダ親善派」の一部の人々もめざめて加入する可能性がある。
次は「売国派」で「パンダ親善派」の一部は自分たちの利益のためには中国が強くなって、米国が弱くなることを願う人々がいる。
第三の派とは「国を害する派」で、これには「ポリコレ」の理念を好み、必ずしも「パンダ親善派」のような中共と数知れぬ利益の絆で関係を持っている訳ではないのだが、自分たちが独裁で天下をとるために、各種の「ポリコレ」的な言辞を撒き散らし、米国の利益に反する政策を推進する。
今後のアメリカの国策は、この3つの派閥の戦いから生まれてくる。
民主、共和両党にもこの3つの派閥があるが、割合が異なる。
共和党には「国防派」が多いが、「売国派」もいて、私利私欲のために「国を害する派」と結託する連中もいる。
民主党には「国を害する派」の割合が多く、「売国派」も多いが、「国防派」もいる。
どの派閥がどの政策で優位に立つかは、その政策の内容による。
例えば、国防問題では基本的に「国防派」が優勢だが、対中国の経済・貿易・金融政策では「売国派」がかなりの影響力を持っている。
中国政策の全体的な方向性は、保守派とリベラル派という単純な区分けでは必ずしも十分に説明できない。
米・中関係の将来は、複雑で錯綜した状況になる。
軍事的なレベルでの対立は明らかだが、他のレベルでは常に具体的な分析が必要になる。
バイデンはトランプのように冷戦各層での一致した政策をとらない。その代わりに、軍事、諜報、経済、政治方面でやや矛盾した政策をとるだろう。
対「国防派」の国防と国家安全に対する要求に、「売国派」や「害国派」も表立って反対はできないが、逆に行動においては米国を弱く、中国を強化する政策を主張するだろう。
軍部が、中共によって国家の安全がますます脅かされると認識している時、国防強化や議会と政府の「国防は」の指示を得て、対中政策の主要な推進力になりうる。
米国実業界には少なからぬトランプの経済制裁による対中共政策に反対する企業があるが、軍部の強硬な立場は「売国派」に対しても一定の拘束となる。
軍部は米・中軍事対決の基調で配置を引き締める。しかし、米軍の軍事的準備を行う部署は、必然的に経済方面の両国の交流を制限するし、未来の米・中経済関係は両国の軍事対決という背景の下でおこなわれることになる。
★3:中共は刀を研ぎ、戦争への準備おさおさ
アジア太平洋地域は今、中共の国際的野心と軍事的脅威に根ざした、最も危険な10年に直面している。中共の対米軍事脅威とは口先だけのことではない。
公式対外宣伝メディアである「多維ネットニュース」は、昨年10月22日、「中国の国防法、国際安全保障の不安定性が高まる中、『戦争条件』を強化」と題したレポートを出した。そこには中共が国防法の「開戦条件」に「経済上の必要性」を「重要な理由」に加えた。
全国人民代表大会(全人代)の常務委員会は昨年10月13日に開催され、国務院と中央軍事委員会が提案した国防法改正案を審議した。 改正国防法は12章70条からなり、そのうち50条を改正、6条を追加、3条を削除することになっており、特に「開発の利益が脅かされる」場合には「総動員や地方動員が必要となる」とした。
このように国防法を改正して何をしようとしているのか。これは非常に危険な信号だ。その目的は戦争への総動員のための法的準備を行うことだ。
実際、共産党の上層部と軍部が戦争をすると決めた時には、法的な手続きを踏む必要はなく、朝鮮戦争、ベトナム戦争、ダマンスキー島の戦いの時には、事前に中国国民には秘密にしておき、後から官製メディアが用意したプロパガンダ版に沿って社会を動員した。
今回の国防法改正では、中共は「総動員」の前に「戦争」という非常にセンシティブな言葉を避けているが、実際、国防法に関連する「総動員」は、戦争しかない。戦争の総動員は通常、以下のようなものだ、。
① 兵士の供給源の拡大。退役軍人の徴集
② 民間経済の軍事転用。労働時間延長
③ 戦争の需要を優先し、民用消費物資、工業物資の供給を制限
国防法を改正で、中共は戦争への総動員の理由として「経済的な必要性」(官製メディアは「開発利益」と呼んでいた)を盛り込んだ。
つまり国防法を改正することで、どんな状況も簡単に「経済的利益」に結びつけることができ、対外戦争の「開戦理由」を無限に拡大したのである。
この戦争への「総動員」は、もちろん台湾海峡の紛争だけではない。中国の「発展の利益」に最も関係するのは、海外貿易、技術の盗用、外国投資の流入であり、これらは主に米国に関係している。中共の戦略では、米国は世界経済の利益を妨げる主要な国であり、国防法の変更は、中共の戦争の脅威が主に米国に向けられていることを意味する。
★なぜ中共は平和的競争を望まない?
常識的に考えれば、どの国の経済発展も平和な状態でなければスムーズに進まないし、どの国の経済発展もトラブルに見舞われることがあり、そのようなトラブルは国際的な規制や国同士の交渉によって解決されるべきものである。
経済発展のために必要な利益を、戦争という手段で得られるだろうか? 通常の競争では得られない経済的利益を、戦争でつかみ取ることができるのか?
中共の考え方は、一見、常識を覆し、理解できないように見えるが、実はもう一つの公言をはばかる下心がある。
中国の「台頭」は、米国などから知的財産や技術の秘密を大規模に盗み、盗んだ特許や技術を使って米国などの企業を潰すための製品を製造し、国際貿易ルールに違反して米国との貿易黒字を長期間にわたって高水準で維持するなど、国際ルールや各国の法律を破ることで促進されてきたのだ。
国際的なルールや法律のレベルでの正常な競争に戻れば、中国は経済を支えるこれらの重要な手段を失う。トランプが開いた米中経済貿易協議で知的財産権侵害の話題に触れた途端、中共はは「ちゃぶ台返し」で交渉を打ち切ったのだった。
同時に、中共は米国にプレッシャーをかけ、自国経済が依然として米国に依存しているにもかかわらず、軍事の分野で米国に譲歩を迫ろうとしたのだ。
そして、たまたま不正が行われた大統領選挙(参照;
程暁農★民主主義の砦の自滅―ナバロ報告書の概要 2021年2月23日 )後の米国の政治的方向性は、中共に絶好の機会を与えた。
中共は現在、逆に米国に挑戦できると思っている。
「多維ネットニュース」は3月6日に「中国の2021年は野心満々でしっかりと」という見出しを使った。「野心満々(充満野心)」の4文字こそ中共トップの心境なのだ。
その「野心」とは何か?
最近、習近平は一言、「70歳を過ぎても、1980、1990、2000年後生まれの中国人が対等に見る世界は、昔のような『遅れた泥臭い中国』ではない」と語っている
・言葉は心を表す。
習近平の心中では、中共はすでに世界を仰ぎ見るようなものではなく、「お前らはたいしたことない。おれらはお前らをやっつけられるんだ」という感覚だ。
習近平が口に出さなかったのは、「世界をいかに中共の天下にするか」であり、思い通りにしてやる、ということだ。
また、習近平のいう「世界」とは中小の国家ではなく、米国のことだ。
当然、「対等」とは数カ月にして中共が突然成功したということではなく、米国が現在、危機的様相を呈しているということ。
特に米国内の政治・経済政策において、危険な下降スパイラルに陥っていることだ。
2月12日に中共の「多維ネットニュース」の記事ではこう書いている。
;「中国と米国の公式声明から判断すると、北京は『米国に挑戦している』というレッテルを貼られることを極力避けている。
しかし、実際には『中国の対米挑戦』は、もはや避けがたい。
経済的には、2011年以降、中国は米国に次ぐ第2位の経済大国となり、2027年または2028年には中国が米国を追い越すと多くの経済関係者が予測している。
グローバルな経済ガバナンスのレベルでは、『一帯一路』が世界の地政学的光景に与える影響はますます明らかになるだろう。
軍事レベルでは、中国と米国は等しく核武装しており、南シナ海や台湾における中国の軍事的プレゼンスは近年著しく高まっており、人民解放軍の軍事的抑止力は大幅に増加し、アジア太平洋における米国の絶対的優位性は相対的優位性に変わってきている」
これは中共のプロパガンダで、その自己顕示には疑問があるが、「野心」は全面的に表現されており、中共はもはや米国への挑戦を忌避しない。
★5 米国と中国の関係は競争的なものか?
バイデンが中共を「主要なライバル」と表現したことで、外交言語レベルでの中共に対するトランプ政権の認識はトランプ政権よりもはるかに温和になった。中共は正常なライバルなのか?
歴史的に見れば、米国に対抗して独自の外交路線を追求したフランスのシャルル・ドゴールや、マンハッタンを買い取ることができると主張した1980年代の日本のような世界の経済的ライバルなど、民主主義国の中で多くの国際的な政治的ライバルがいた。
今の中国の挑戦は、当時のフランスの挑戦や日本の挑戦のレベルに過ぎないのか?無論そうではない。
「多維ネットニュース」にこの2月「北京とバイデン政権の関係を左右する2つの現実(Two Realities Determining Beijing’s Interaction with the Biden Administration)」が掲載された。
そこでは、現在、米・中関係には二つの現実があるという。
第一には、米・中関係は過去4年、とりわけ2020年に急速に悪化し、冷戦に向かっている。第二には、米・中新冷戦は、「トゥキディデスの罠(Thucydides’s Trap)」にはまる可能性がある、だ。
「トゥキディデスの罠」とは何のことでどんな危険なのか?
ハーバード大学のグレアム・アリソンは、2012年に『フィナンシャル・タイムズ』紙に米中対立の可能性を探る記事を掲載し、
その後、著書『Doomed to War』(邦訳『米中戦争前夜――新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ』ダイヤモンド社)の中で
「中国と米国は今、戦争のような対立の過程にある」と指摘した。
古代アテネの将軍トゥキディデスの言葉を借りた「トゥキディデスの罠」は、大国が新興国に脅かされると、両国の間で戦争が勃発する可能性が高いということだ。
ここ数年の米・中関係の推移を見ると、アリソンの仮説通りに、中共によって歴史が一歩一歩トゥキディデスの罠の方へ押されていることがわかる。
米・中が冷戦状態に入ったことで、この言葉は冷戦下の戦争の危険を指す言葉として定着した。
冷戦は中国共産党が始めたものだが、トランプ大統領はタイムリーに対応した。
バイデン政権はトーンを下げて、現在の米・中関係を「China challenge」という言葉で表現しているが、実際には、アメリカは今、平和的な挑戦や競争だけでなく、中国共産党の全方位的な脅威、特に軍事面での脅威に直面しているのだ。
中共は、軍事、経済、スパイ活動、政治的浸透という4つの主要なレベルで、長年にわたり米国の国家安全保障に大きな脅威を与えてきた。
米国にとって、このような脅威は米・ソ冷戦終結後には見られなかったものだ。
中共は、うっかり冷戦に火をつけたのではなく、世界がどう思おうと、自分たちは勝者になれると考えて、計画的、組織的に火をつけたのである。
米軍の軍事力と経済力は、今は中共の脅威に対応する十分な力を持っており、中共がこのまま傲慢であり続けるかどうかは、すべてバイデン政府がいかに中国の脅威に対応するかにかかっている。
これは米国の未来に関わるし、東南アジアの国家の未来にも関わり、世界の未来にもかかわることだ。(終わり)
程晓农:拜登对华政策的两面性
2021年03月11日