韓国で「外貨保有高の減少」がつづいている…外貨保有をめぐる「韓国の“懸念と現実”」
11/24(木) 7:33配信
外貨保有高が減少
若干前になるが、11月3日に韓国銀行より「2022年10月末外貨保有額」が公表された。これによれば2022年10月末における外貨保有高は9月末より27.6億ドル減少した4140.1億ドルとなった。
減少したとはいえ、中国、日本、スイス、台湾、ロシア、インド、サウジアラビア、香港に次ぐ世界9位の外貨保有国であることには変わらない。
しかし外貨保有高が継続して増加傾向にあった韓国は、ここしばらくは外貨保有高の減少が続いており韓国では懸念する声があがっている。
まずここしばらくの外貨保有高減少の動きをみてみよう。
外貨保有高は長年、着実に増加が続いていたが、2021年10月のピークである4692.1億ドルから減少が始まり、2022年2月に微増したほかは、すべての月で月末の外貨保有高が前月末より減少した。
その結果、2021年10月末のピーク時と比較して、2022年10月末の外貨保有高は552.0億ドル、率にして11.7%の減少となった。
一定期間継続して外貨準備高が減少した例はこれまでもあった。
リーマンショック前後の時期がその例であり、2008年3月末のピーク時の2642.5億ドルから8カ月連続で外貨保有高が減少し、2008年11月には2005.1億ドルとなった。その間の減少幅は637.2億ドル、率にして24.1%の減少である。
ちなみに1997年末の通貨危機時は、継続して外貨準備が減少したというよりは、1997年11月と12月にまとまって外貨保有高が減少し、1997年10月から12月にかけて33.1%の減少を記録した。
今回の外貨保有高の減少は減少幅も減少率もリーマンショック前後の時期よりは小さく、これまで経験したことのない外貨準備高の減少というわけではないが、1年間引き続いて外貨準備高が減少している点では懸念する声が出ても不思議ではない。
なぜ外貨が減っているのか?
今回はなぜ外貨保有高が減少しているのであろうか。結論を先に述べれば、ここ半年はウォン安是正のためのドル売り・ウォン買い介入によるところが大きい。 しかし当初からそのような理由での減少ではなかった。今回、外貨保有高が減少するようになったのは2021年11月からであるが、例えば、2021年11月末に外貨保有高が減少した理由として、韓国銀行は、米ドル以外の他の通貨建て資産を米ドルに換算した際、その米ドル換算額が減少したことを挙げている。 韓国は米ドル建てだけでなくユーロ建てなどドル以外の外国通貨建ての資産を有している。このドル以外の外国通貨が対ドルで減価すれば、その資産の米ドル換算額は低下してしまう。 その他の理由もあるものの、2022年2月までは、外貨準備高減少の理由としてウォン安是正のためのドル売り・ウォン買い介入は挙がっていなかった。これは当然で、2021年12月までは対ドルウォンレートは1ドル1100ウォン台であり、為替介入の必要がなかったからである。 しかし、2022年1月になると、月末の対ドルウォンレートが1ドル1202ウォンとなり、少しウォン安傾向がみえてきた。そしてその後はじりじりとウォン安傾向が続き、ついに2022年3月末の外貨保有高の公表資料から、外貨保有高減少の要因として「外国為替市場の変動緩和措置」、すなわち、ドル売り・ウォン買い介入が挙がるようになり、現在に至っている。 対ドルウォンレートは、2022年7月末には1ドル1300ウォン台、9月には1400ウォン台を超えるようになり、為替当局はドル売り・ウォン買い介入によりウォン安の流れを変えようとした。そして、ドル売りの資金は外貨保有高を切り崩して捻出することから外貨保有高が減少した。
外貨の減少は続くのか?
ただし、外貨保有高の減少が止まる兆しも出はじめている。 そもそも外貨保有高が2022年10月末においても継続している原因は、ウォン安傾向に歯止めがかからなかったためである。しかしながら、10月25日の1ドル1437ウォンをピークとして、ウォン安の流れが反転している。9月23日に1ドル1400ウォンを超えて以降初めて、11月9日には1300ウォン台に戻した。 ウォン安が続いた背景には、アメリカが大幅な金利引き上げを続けたこと、またこれに伴い日米金利差が拡大し円安が続いたことにより、ウォンも円安に引きずられる形で安くなったことがある。 このようななか、10月下旬にはアメリカの利上げのペースが減速するとの見方が出始めたこと、そして円安傾向に歯止めがかかり始めたことから、ウォン安傾向にも歯止めがかかってきた。もしこの動きが継続すれば、韓国の為替当局はドル売り・ウォン買い介入をする必要がなくなり、外貨保有高の減少も終わりを告げる可能性が高い。 いずれにせよ、韓国は1997年末に直面した通貨危機に懲りて、経常収支の黒字を定着させるなどして外貨保有高の増加に力を注いできた。その成果もあって、外貨保有高は4000億ドルを超える水準にまで高まった。外貨保有高が継続して減少したことは韓国経済の懸念材料ではあるが、外貨保有高の減少が止まる兆しも出はじめたことから、ようやくこの懸念が払拭されつつある。
高安 雄一(大東文化大学教授)