人口推計 縮むニッポン~少子化対策 待ったなし
2023年05月02日 (火)
竹田 忠 解説委員
すぐそこに迫る、日本の衝撃の未来。
それが、このほど公表された、新たな将来推計人口です。
2056年、日本の総人口は1億人を割り込む。
そして50年後には7割に縮む。
労働力が不足し、社会機能が維持できなくなる瀬戸際に我々は立たされている、と言って決して過言ではありません。
どうすればこの日本を、そして社会を維持し一人ひとりの暮らしを守ることができるんでしょうか?
【 人口の推移 】
まずは、ニッポンの現状です。
日本の人口がピークを打ったのは2008年、
およそ1億2800万人でした。(1億2808万人)
そこから後は、ほぼ下り坂で、
直近の2020年では、すでに200万人減少しています。(1億2615万人)
では、未来はどうなるのか?
ここからの推計は政府の研究機関、
国立社会保障・人口問題研究所が5年に1度、行っているもので、社会保障をはじめ様々な制度の土台となるものです。
日本に住む外国人も対象となります。
推計では、およそ30年後の2056年に、人口は1億人を割り込みます。(9965万人)
そして、およそ50年後の2070年には8700万人となり、総人口は7割に縮小します。
その後も、人口は減る見通しで、参考的な推計としてはおよそ100年後の2120年には5000万人を割り込むという推計も公表しています。(4973万人)
これは、明治時代の終わりごろと、ほぼ同じ人口です。
では、なぜ、減るんでしょうか?
最大の理由は1人の女性が産む子どもの数、つまり出生率が低下して、急速に少子化が進むためです。
前回の推計では、出生率は1.44と仮定していましたが、今回は更に下がって、2070年に1.36。
人口を維持するのに必要と言われる、2.07との差は開くばかりです。
【 加速する少子高齢化 】
実は人口減少で問題なのは、単に人口が減る、というだけではありません。
問題は人口構成が大きく変わることにあります。
そのポイントを見てみます。
先ほど、触れたように、出生率が下がって、生まれてくる赤ちゃんの数が減ります。
(20年87万3000人→70年50万人)
(20年87万3000人→70年50万人)
しかし、その一方で、平均寿命が、男女共に4年余り伸びます。
男性はおよそ86歳に、女性は90歳を超えて、およそ92歳に。
まさに、人生100年時代が見えてきたわけです。
(男性が20年の81.58→85.89、女性が87.72→91.94に)
その結果高齢化率がさらに高まって
2070年には人口のおよそ4割が高齢者という超高齢社会となります。
その人口構成をわかりやすく示したのが、人口ピラミッドと呼ばれるグラフです。
人口を男女別、年齢ごとにわけて示してあります。
1965年当時は大勢の若い人達が少数の高齢者を支えるという、安定したピラミッドの形をしています。
この時期は胴上げ型とも呼ばれます。
しかし現在(2020年)では若い人が減って、ピラミッドの形が崩れています。
ほぼ現役二人で1人の高齢者を支えるという、かろうじて、騎馬戦型に近い構図です。
そして2070年、形は、ついに壺の形に変わります。
ほぼ1人が1人を支える、肩車型と呼ばれる不安定な構図になります。
【 縮むニッポン ①社会保障への打撃】
この急速な少子高齢化は、二つの大きな影響をもたらします。
一つは社会保障制度です。
医療・年金・介護、いずれも現役世代が払う保険料が
高齢者にいわば仕送りされる形で制度が成り立っています。
このため、少子高齢化が進めば進むほど、制度は厳しい影響を受けます。
今後も制度を維持していくためには、これまでのような、負担するのは現役、サービスを受けるのは高齢者といった、年齢による線引きをやめて、何歳であろうが、負担できる人が、負担できる能力に応じて保険料などを支払うという「応能負担」の原則をもっと徹底させる必要が出てきます。
【 縮むニッポン ②社会・経済への打撃】
そして、少子高齢化がもたらすもう一つの影響が社会や経済のあり方そのものへの影響です。
たとえば有識者らで作る日本創成会議は、
かつて、2040年までに全国の地方自治体の半数が消滅の危機に瀕する恐れがあると指摘し、大きな波紋を広げました。
こうした地域では鉄道やバス、道路、水道、などのインフラの維持が難しくなったり、空き家が増えたり、買い物難民が増えたりして、
人が住める居住地域が減っていきます。
また、リクルートワークス研究所は2040年には、全国で1,100万人の労働力が不足すると予測しています。
この結果、介護サービスが受けられない
・地場産業が減る
・警察や消防署の維持さえ難しくなる、といった懸念があると警鐘を鳴らしています。
・警察や消防署の維持さえ難しくなる、といった懸念があると警鐘を鳴らしています。
こうした深刻な労働力不足の中で社会を維持するためには高齢者も、主婦も、もっと多くの人がもっと長く働くという努力を迫られることになります。
【 増える外国人 】
この労働力の問題に関して実は今回の推計には、注目すべきポイントがあります。
それは外国人の割合です。
推計では、今後、日本で働く外国人が増えて現在2%程度(2.2%)の外国人の割合が2070年には5倍の10.8%まで拡大し、日本に住む9人に1人が外国人になるとしています。
現在、政府は、外国人労働者にもっと安定して働いてもらおうと、かねてから批判の強い技能実習制度を廃止して制度を作り直す検討を進めています。
しかし、そういう対策をとっても本当に日本にそれだけ多くの労働者が安定して来てくれるのか?
そして、受け入れる我々の側にチャンと受け入れて共生する覚悟はできているのか、
ここはしっかりと議論するする必要があると思います。
【 必要な“異次元”とは】
今回の推計は縮むニッポンが避けられないことを改めて突き付けています。
そうであれば、その避けられない少子化を少しでも和らげて、深刻な影響を減らすためのギリギリの努力が必要になってきます。
岸田政権は今、政権の最重要政策として次元の異なる少子化対策に取り組もうとしています。
そのためには今度こそ、しっかりとした財源を確保し、効果のある対策を打たなければいけません。
財源としては税、社会保険料、そして借金である国債、などが考えられますが、消費税の引き上げが難しい中で政府・与党が有力な案として検討しているのが医療、年金、介護など、様々な社会保険から拠出してもらい、子育て支援にあてるという案です。
ただ、社会保険料というのは基本的に企業と労働者が折半で負担しています。
このため、経団連や連合は現役で働いている人に負担が偏り、賃上げの効果も薄れてしまう、などとして、慎重な姿勢を見せていて、議論は進んでいません。
これに対し、社会保険料を活用する案の発案者である慶應義塾大学の権丈善一教授が先週、日本記者クラブで会見しました。
この中で権丈教授は、現役制度の医療保険だけでなく高齢者のための後期高齢者医療制度や企業からも拠出を受けることで社会全体で広く子育てをし、そのコストを負担する仕組みができる。
そして少しでも少子化が和らげば社会保障で受ける給付やサービスも充実し、国民全体にメリットが及ぶと意義を強調しました。
政府は来月までに財源を含めたこども予算倍増の大枠を示すことにしています。
厳しいニッポンの未来と向き合って対策に必要なお金を誰がどう負担するのか、真正面から議論することが必要です。
少子化対策は待ったなしです。