2017.09.08
日本における外国人に関する実態と将来像――「これまで」と「これから」の整理
加藤真 三菱UFJリサーチ&コンサルティング研究員
1.はじめに
労働力不足が顕在化している。そうしたなか、2017年6月に閣議決定された成長戦略(「未来投資戦略2017」)で、日本経済のさらなる活性化および競争力強化の観点から、外国人材の受け入れと活用が盛り込まれた。
当該内容は、第2次安倍政権発足以降、閣議決定されてきた成長戦略において、5年連続で明記されたことになる。
5年前は高度外国人材の活用促進が中心であったが、今では、建設、造船、家事労働、農業、クールジャパン、インバウンドなど、幅広い分野の外国人の受け入れ促進や、生活環境の改善等についても言及されている。
近年のこのような外国人に関する政策展開は、過去の政権と比較しても「異次元のスピード」(鈴木 2016: 42)で進められており、急激な変革期を迎えているといえる。
実際、住民基本台帳に基づく日本人と外国人の人口(ここではそれぞれ、日本国籍者数と外国籍者数を指す)の過去4年間での増減率を都道府県別に集計すると(図表1)、日本人の減少傾向と外国人の増加傾向がくっきりと表れる。
外国人増減率に注目すると、一部で減少している地域もあるが、北海道、東北、四国、九州など、これまで必ずしも外国人集住地域ではなかった地域でも、外国人の増加傾向が認められる。
図表1 日本人と外国人の増減率(2013年を1とした場合の2016年の変化、都道府県別)
(資料)総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」(年次)をもとに、筆者作成。
こうした状況を受け本稿では、日本社会における外国人に関する実態が、(1)「これまで」どうなってきたのか、
(2)「これから」どうなると見込まれているのか、の2点に分けて改めて整理を行う。
外国人に関する議論は、一部の専門家や支援団体を除き、多くの国民からは遠ざけられてきたきらいがあるが、私たちが今どのような社会で生活しているのか、これからどのような社会が到来すると見込まれているのか。
これらについて基礎的なデータの概観を通して、議論の素地を整理することを本稿の目的とする。
2.「外国人」の考え方
外国人に関する実態の整理を行うにあたり、そもそも外国人をどのように定義するかを考える必要がある。
本稿では、もっとも一般的な、(1)出入国管理および難民認定法における、外国人=外国籍の人(=日本国籍を持たない人)とする考え方に加えて、(2)元外国籍で現在は日本国籍に帰化した人や、
(3)いわゆるダブル(ハーフ)の子どもなど、日本国籍であっても外国にルーツを持つ人々を含めた、
「外国に由来する人口」という観点で考えてみたい。上記の整理をまとめたものが図表2である。
図表2 外国に由来する人口の考え方
(資料)筆者作成。
3.「これまで」どうなってきたのか
●増加し続ける永住者と帰化者
図表2の整理に基づき、公的統計から、これまでの人口推移を図表3にまとめた。
図表3
(1)外国籍人口(在留外国人数)および、
(2)帰化人口(累計帰化許可者数)推移
(資料)法務省「在留外国人統計」、「帰化許可申請者数、帰化許可者数及び帰化不許可者数の推移」をもとに、筆者作成。
まず、(1)外国籍人口(在留外国人数)は、2016年時点で過去最高の約238万人に達している。
着目すべきは、
日本においては、広く外国人を対象にした「永住推進政策」を行っていないにもかかわらず(注1)、
永住を認めている在留資格である「永住者」と「特別永住者」(注2)の人数の合計が1996年以降一貫して増加している点である。
この傾向は、「特別永住者」の継続的な減少、および、リーマンショックや東日本大震災に起因する在留外国人数全体の減少にもかかわらず続いている。
また、
(2)帰化人口(累計帰化許可者数)も継続的に増加し、2016年時点で約54万人に達しており、
(1)外国籍人口と合わせて約300万人がすでに日本で暮らしていることがわかる。
(3)国際結婚カップルの子ども等の数は、直接的に実数を把握できる全国規模の統計がないため参考値だが、2015年の新生児のうち約30人に1人が外国にルーツを持つ子どもであり、25年前の1990年(約58人に1人)と比較して約2倍の増加がみられる(人口動態統計をもとに筆者試算)。
また、文部科学省(2017)によれば、2016年時点で「日本語指導が必要な日本国籍の児童生徒数」が全国で1万人弱、そうした児童生徒が在籍する学校数は全国で約3,600校にのぼり、これら数字はいずれも過去10年単調増加傾向にある。
(注1)在留資格「高度専門職」への優遇措置以外で、日本において外国人に対して積極的に永住権を与えるような政策は採られていない。
(注2)正確には、「特別永住者」は在留資格ではないが、「日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法」に規定され、永住者と同様、活動の制限はなく、在留期間も定められていない。
●労働市場で高まる「外国人依存度」
日本国内で雇用されている外国人労働者(ここでは外国籍の労働者を指す)に目を向けると、2016年10月末時点で、外国人労働者数は約108万人、外国人を雇用する事業所数は約17万箇所に達しており、いずれも過去最高となっている。
2008年に「外国人雇用状況」の届出が義務化されて以降、徐々に捕捉率が高まっている側面があるとはいえ、過去数年間で日本国内における外国人労働者の存在感が高まっていることが窺われる。
実際、日本の労働市場における外国人労働者が占めるウエイトはどれほど変化してきているのか。
総務省「労働力調査」と厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」をもとに、全就業者に占める外国人労働者の割合を「外国人依存度」として試算した。
まず、産業別に集計した結果が図表4である。
図表4 全就業者に占める、産業別「外国人依存度」試算
(資料)総務省「労働力調査」、厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」をもとに、筆者作成。
本稿では、現在と同じ形で産業別集計が公表され始めた2009年以降を試算対象としているが、2011年の「労働力調査」(全国・年次)は、東日本大震災の影響等により公表されていないため集計から外している。
なお、当該届出には特別永住者が含まれていないことにも留意が必要。
図表4をみると、各産業において「外国人依存度」が高まっている。
2016年時点では、59人に1人が外国人であり、2009年(112人に1人)と比較すると約1.9倍の増加となっている。
産業別に2009年と2016年を比較すると、建設業の約3.8倍を筆頭に、農業・林業:約3.1倍、医療・福祉:約2.7倍、卸売業・小売業:約2.5倍となっている。
また、2016年時点で宿泊業・飲食サービス業では、全就業者の30人に1人が外国人となっている。
とくに都市部のファーストフード店や飲食チェーン店などにおいて、外国人に接客を受ける機会が増加している実感と符号する人も少なくないと思われる。
次に、上記と同様のデータを用いて、都道府県別の全就業者に占める外国人労働者の割合として「都道府県別 外国人依存度(2016年)」(図表5)と、
「都道府県別 外国人依存度の変化(2009年→16年比較)」(図表6)を試算した結果を下記にまとめている。
図表5 各都道府県の全就業者に占める「外国人依存度(2016年)」試算
図表6 各都道府県の全就業者に占める「外国人依存度の変化(2009年→16年比較)」試算
(資料)図表5,6ともに、総務省「労働力調査」、厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」をもとに、筆者作成。
図表5をみると、1番目の東京都(23人に1人)から、47番目の秋田県(314人に1人)まで、幅があることがわかるが、全国平均よりも高い割合となっている都道府県は、東京都や愛知県などの都市部や、これまで外国人集住地域とされてきた群馬県、静岡県、岐阜県などが並んでいる。
一方、図表6の都道府県別 外国人依存度の変化(2009年→16年比較)をみると、
沖縄県の約3.18倍を筆頭に、北海道や九州など、都市部以外や従来の外国人集住地域以外の都道府県で、外国人労働者が過去数年間高い割合で増加傾向にある。
こうした結果からも外国人の増加は都市部や従来の集住地域に限った話ではなく、全国的な傾向であることが窺われる。
●変わらない外国人労働者の構造
外国人労働者数や雇用する事業所数の増加、および「外国人依存度」の高まりという変化がみられる一方で、日本の外国人労働者に関する状況として変わっていないこともある。
図表7には、外国人労働者の在留資格別割合の推移(縦棒グラフ)と、2016年10月末時点の内訳(円グラフ)を示している。これから2つのことが指摘できる。
図表7 外国人労働者の在留資格別割合の推移、2016年10月末時点内訳
(資料)厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」をもとに筆者作成。
1点目は、日本で働く外国人の在留資格別の割合は、従来から大きな変化がみられないということである。ただし、近年在留資格「留学」の割合が増加傾向にあり、働きながら学ぶ留学生が増えていることが推測される(図表7内:ポイント(1)参照)。
2点目は、在留資格の内訳をみると、就労を目的とした在留資格を付与され働いているのは外国人労働者全体の18.5%に止まっており、本来は就労を主目的とせず入国・滞在を認めている外国人が大きな割合を占めているということである(図表7内:ポイント(2)参照)。
具体的には、「国際貢献・技能移転」のために入国を認めている技能実習生が19.5%、日本で勉強するために入国を認めている留学生が19.3%、日本人の子孫として特別な関係があるため入国を認めている日系人らが38.1%となっている。
上述したような「外国人依存度」の高まりと、外国人労働者の在留資格別割合にほとんど変化がない状況から、日本で就労することを主目的として入国が認められたわけではない外国人によって、日本社会が支えられている実態が認められる。
より生活に根ざしたシーンと関連づけると、
たとえば、私たちが普段口にする野菜を考えてみても、国内における農業産出額が北海道に次ぐ2位を誇り、首都圏にも多くの農作物を出荷する茨城県では、農業従事者のうち21人に1人が外国人であり(平成27年国勢調査結果をもとに筆者試算)、とくに収穫作業の多くは技能実習生に依存している(丹野 2016)。
輸入品ではなく「国内産」として売られている野菜の多くも、外国人がいなければ市場に出回ることもなくなってしまう。
私たちの生活は外国人による労働と無関係でいることはますます困難になってきているが、その国内で働く外国人の多くは、就労を主目的とせず入国・滞在が認められた外国人であるというのが日本の実態である。
4.「これから」どうなるのか
以上では、
「これまで」の日本における外国人の実態把握を行ったが、本節では「これから」先、日本における中長期的な姿はどうなるのかについて概観する。
上述した、「外国に由来する人口」の推計として、国立社会保障・人口問題研究所の是川(2017)が行った研究がある。
1960年代以降から続く入国超過の趨勢が今後も継続すると仮定し、「日本の将来人口推計(平成29年推計)」、「在留外国人統計」、1987年以降の帰化許可者数および父母の国籍が識別可能なデータに基づき、出生率と死亡率を考慮して推定を行っている。
外国に由来する人口という観点から、これまでの趨勢を踏まえた一つの推定モデルとして参考となる。
結果をみると(図表8)、外国に由来する人口は、
約25年後の2040年には総人口の6.5%に相当する約726万人、
約50年後の2065年には総人口の12.0%に相当する約1,075万人に達し、
今後50年間で1年間あたり15万人弱が増えていくことが見込まれている。
総人口比12.0%は現在の欧米諸国の水準に匹敵し、とくに若年層ほど割合が高まり、20-44歳では総人口比18.0%を占めると算出されている。
総人口の将来推計と、外国に由来する人口推定の増減値を2015年時点と比較すると、人口減少分を置換するほどではないが、外国に由来する人口が増加すると見込まれている。
と同時に、この推定から、「人口減少や過疎化を阻止するための外国人の受け入れ」という発想はあまり現実的ではないことも示唆され、現実を捉えた外国人の受け入れ政策や社会統合政策(注3)の検討が求められているといえる。
図表8 日本における外国に由来する人口の推定
(資料)是川(2017)、国立社会保障・人口問題研究所(2017)「日本の将来人口推計(平成29年推計)」(出生中位推計)をもとに、筆者作成。
(注3)社会統合政策とは、外国人の受け入れ社会への「同化」ではなく、外国人の権利を保障しつつ義務の履行も促進し、また文化的多様性を維持して、同じ地域社会の構成員としての責任も分担することを目指す政策を意味する(井口2015)。
5.終わりに――今後に向けた論点
日本の総人口が減少し、外国に由来する人口が急増する社会の到来が見込まれるなか、外国人をいかに受け入れ、外国人といかに共生していくかは待ったなしの政策課題であり、外国人に関わる政策のグランドデザインを描き、議論を深めていく必要性が高まっている。
ただし、外国人に関する議論は印象論や情緒的な性質を帯びやすく、また、「外国人」といっても、高度外国人材や技能実習生、留学生、日系人、難民など属性が多岐に亘り、かつ、受け入れ局面とその後の社会統合の論点が絡み合うため、「どの属性の、どの局面を対象に議論しているのか」がわかりづらくなり、議論が噛み合わないことがしばしば起こり得る。
この点について、外国人に関わる議論においては、
(1)外国人の受け入れに関する入り口の議論(出入国管理政策)と、
(2)すでに日本で生活をしている外国人に関する受け入れ後の議論(社会統合政策)を、一体的に捉えつつも整理して議論する必要があると考える(加藤 2016)。
すでに紙幅が尽きているため詳細は控えるが、これから先、重要な論点になり得ることとして、
出入国管理政策では、外国人労働者のうち就労目的外で入国している外国人が大きな割合を占めているという在留資格制度の歪みの適正化(たとえば、高度外国人材ではない「中技能の外国人労働者」を対象とする在留資格の新設に向けた検討等)があげられる。
また、社会統合政策では、
(1)日本で暮らす外国人の処遇に関する根拠法の制定、
(2)外国人の日本語習得等にかかる社会的費用負担への合意形成と制度化、
(3)外国人の散住が進むなかで、外国人をあまり受け入れてこなかった地域も巻き込んだ地域間連携、といった点が考えられる。
今後は、こうした2つの政策的視座から、データに基づいた実態把握や諸外国の教訓・取り組みなどを踏まえた建設的な議論が求められる。