韓国の「高齢者の貧困率」が、先進国で最悪になっている「深い理由」
10/22(金) 7:02配信
高安 雄一(大東文化大学教授)
年金で生活費をまかなえない
9月末に2021年版の「高齢者統計」が統計庁より公表された。
韓国の高齢者は経済的に厳しい状況におかれているが、「高齢者統計」を見ると、高齢者の厳しい現状を改めて数値で確認することができる。
今回は、高齢者の経済的な状況を数値(以下の数値は特段の断りがない限り、「高齢者統計」による)で確認していこう。
高齢者が経済的に厳しいことは、まず、高齢者の生活費の準備方法から見て取れる。
最新の数値である2019年を見ると、本人および配偶者が自ら得ている生活費は44.6%に過ぎない。
なかでも年金・退職給与は14.4%に過ぎない。
多くの先進国では高齢者は年金で生活費の100%近くを得ていることを考えると極めて低い水準といわざるを得ない。
この要因は公的年金制度がまだ成熟していないことである。
韓国の公的年金である国民年金は1988年に創設された。
しかし創設当初は常用雇用10名以上の事業所で勤務する被用者のみが年金の加入できたにすぎなかった。
加入対象範囲は段階的に拡大されたが、国民皆年金になるまでは10年以上経った1999年まで待たなければならなかった。
年金は40年間加入して満額支給となる。
よって現在においても、創設当初から公的年金に加入していた人でも満額受給できていない。
現時点での高齢者は、年金の支払いが終了する年齢になったときまでに、短い期間しか年金保険料を支払っていないため、年金を受給できたとしても少額しか受け取れない者が多い。
少額でも受け取れればましであるが受給できないものも少なくない。
2020年の時点では、65~69歳の年金受給率が61.5%、70~74歳が61.8%と60%を少し超えた程度であり、75~79歳は55.1%、80歳以上は30.2%しか公的年金を受け取っていない。
65歳以上の受給率は53.1%にとどまり、まさに高齢者の半数弱は公的年金を全く受け取っていない。
よって、高齢者は生活費のごく一部しか年金で得ていないという結果となってしまう。
働かざるを得ない高齢者たち
年金が当てにできないとなると、自ら働かざるをえなくなる。
実際に、生活費の21.1%は労働所得・事業所得によって得ている。
就業している高齢者に就業している理由を尋ねた結果を見ると、33.2%は「仕事が楽しいから」と回答したが、
58.7%は「生活費の補填」と回答した。
韓国では高齢者の就業率が高いが、これは生活費のため仕方なく働いているのである。
ただし、韓国では定年年齢が低く、以前は定年年齢が55歳前後に設定されていたことがほとんどであった。
最近になって、法律上、定年を定める場合は60歳を下回ってはいけなくなり、60歳定年が定着してきたが、高齢者は自営業を営んでいない限り、いったん退職し、新たに職を探さなければならない。
2020年において高齢者がどのような職業で働いているのかをみると、36.0%が単純労務従事者であり、24.2%が農林漁業熟練従事者、17.5%がサービス・販売従事者となっており、管理者・専門家は5.3%、事務従事者は3.4%に過ぎない。
多くは、単純作業や販売職、あるいは、引き続き第一次産業を営んでいる。
単純作業や販売職は、非正規労働者が多く、それほど賃金が高いとは考えられない。
よって低水準の賃金のもと、生活のため日夜働いている高齢者像が浮かび上がってくる。
韓国では高齢者の老後の生活費に公的年金があまり寄与していない。
よって高齢者も働かざるをえないのであるが、病気がちで働けない高齢者もいる。
よって高齢者の子や親族による援助や国による援助も必要となってくる。
高齢者の生活費の24.3%は子や親族による援助であり、生活費の4分の1が私的移転によってまかなわれていることがわかる。
ただし、韓国では全体的に非正規化が進み、現役世代も決して余裕のある生活をしているわけではない。
実際に、2015年には子や親族による援助が高齢者の生活費に占める割合は31.8%であったが、4年後の2019年にはこれが24.3%にまで低下している。
今後は、子や親族による援助は先細りになることが予想され、高齢者にとってますます心細い状況になりそうである。
「生活保護」を利用する人も増加
高齢者は自分で十分な生活費を得ることができず、子や親族の援助も期待できなくなると、残るは政府による援助ということになる。
2019年の高齢者の生活費に占める、政府および社会団体による支援の割合は31.1%であり、2015年の26.6%から高まっている。
政府による支援には様々なものがあるが、最後の砦は、国民基礎生活保障(日本の生活保護に相当)である。
年金も支給されず、働けず、子や親族からの支援もあてにできないとなると、最後は国民基礎生活保障に頼らざるを得ず、近年はそのような高齢者が増えていることが予想される。
最後に高齢者の貧困率を見よう。
これはOECDの統計によるものであるが、2019年において66歳以上の高齢者が、相対的貧困、すなわち、国民の中位所得50%以下の所得しか得ていない状況に陥っている比率が43.4%と、
OECD加盟国で突出して高い(ちなみに、比較的高い、イスラエルで20.6%、日本で20.0%である)。
よって、韓国は先進国のなかで高齢者の貧困問題が突出して深刻な国といえる。
今回、公表された「高齢者統計」からは、韓国の高齢者が経済的に厳しい状態に陥っていることを改めて確認できる。
文在寅政権ではこの問題が解決されることはなかったが、次の政権には改善を期待したいものである。
高安 雄一(大東文化大学教授)