🌸人生の資産管理🌸①
あなたはおそらく、友人関係や知識や健康を「資産」と考えたことはないだろう。
「資産」というのは、ほとんどの人が日常生活で使う言葉ではない。
しかし、これらの要素を資産と位置づける発想は、100年ライフを生きる上で欠かせないものだ。
資産とは、ある程度の期間にわたり恩恵を生み出せるもののこと。
言い換えれば、資産はある程度の期間存続するものである。
そこで、長い人生を生きる人にとっては、資産管理が大きな課題になる。
資産はしばらく存続する可能性がある半面、たいていなんらかの形で価値が下落していく。
使用したり、放置したりすれば、価値が減少するのだ。
したがって、資産には、慎重なメンテナンスと投資をする必要がある。
このように考えれば、友人関係や知識や健康は資産の一種と位置づけるべき理由が理解できるだろう。
友情や知識は一夜で消失はしないが、
十分な投資を怠り、友だちと連絡を取らず、知識をリフレッシュしなければ、
いずれは価値が下がり、ついには消失してしまう。
無形の資産(友人関係、知識、健康)は、マイホームや現金や銀行預金のような有形の資産とは大きく異なる点がある。
目に見える有形の資産は、概して定義したり測定したりするのが難しくないので、値段をつけて譲渡しやすい。
自分の資産を把握し、監視することも容易だ。
銀行口座の残高は簡単に確認できるし、マイホームの価値はインターネットで調べた調べればだいたいわかる。
将来受け取れる年金の金額も細かく調べることが可能だ。
それに対し、無形の資産は物理的な実体を欠くため、
価値を測定したり、売買したりすることが難しい。
それでも、無形の資産の中には、価値の測定が比較的容易なものもある。
健康や活力のレベルは、そこそこ明確に測定できる。
健康診断を受診すれば、前回以降、健康が改善したのか、悪化したのかを知ることができる。
ある種のスキルと知識も、比較的測定しやすい。
テストの成績や認定証の類は、
知識を測り、証明するためにある
(ただし、このような方法で測れるのは、主として言葉で表現できる知識だ。
暗黙知はどうしても測定が難しい)。
では、友情やその他の人間関係はどうか?
ほとんどの人は、最も大切な人間関係の状態をある程度把握しているが、
それを数字で表現するのは難しい。
それでも、ネットワーク分析により、ある人の人的ネットワークの規模、多様性、強さを明らかにし、
それが向上しているか悪化しているかを把握する試みが多くなっている。
歩いた距離や友人との会話時間など、日々のさまざまな行動を計測するオーグメンティッド・テクノロジーの急速な進歩は、
無形の資産をもっと正確に計測することを可能にするだろう。
このように、無形の資産のなかには、直接的に数値計測できるものもあれば、
別の指標で間接的に測定できるものもある。
その一方で、増えているのか減っているのかという漠然とした評価しかできないものもあれば、まったく計測しようのないものもある。
計測結果は、教育レベルのように他人と客観的に比較できる場合もあるし、
幸福度のように比較できない場合もある。
計測が困難で、しばしば主観的な性格を持つ無形の資産は、値段をつけて売買することがつねに難しい。
それがまったく不可能なケースもある。
さらに、政治哲学者のマイケル・サンデルが言うように、
無形の資産のなかには、もっと重い価値があり、
それゆえに価値をつけて売買できないものもある。
あるいは、その資産の性質と形成過程のゆえに、売り買いできないケースも多い。
たとえば、80歳のときに一生の友人を「購入」することができない
(友人を「創作」することもできない)。
というより、友情とは、何歳であっても金で買えるものではないのだ。
市場で売買できない無形の資産は、計画や投資がひときわ難しい。
この点は、有形の資産への投資と対照的だ。
有形の資産への投資は、決定のやり直しが利く(撤回可能性)。
購入した家は売却することができるし、
株式に投資した後でそれを売り、その金を引退後の生活資金に回すこともできる。
また、有形の資産は値段をつけて売買しやすいので、代わりを見つけることが比較的容易だ(代替可能性)。
家を売って他の家を買ったり、お金を株式から現金に換えたりすることは、それほど難しくない。
しかし、無形の資産は、撤回可能性も代替可能性もない。
外国に移り住むとき、それまでのお友達を売って、移住先で新しい友だちを買うことは不可能だ。
自分のスキルの価値が落ちてきたとしても、そのスキルを売り、別のスキルを買うわけにはいかない。
そのため、無形の資産への投資は慎重におこなう必要がある。
そして、あるとき突然、資産が価値を失うことも警戒しなくてはならない。
自然災害でマイホームの価値がゼロになるように、
なんらかの外的な要因により、無形の資産の価値がなくなる場合もあるからだ。
(つづく)
(「LIFE SHIFT(ライフ シフト)
100年時代の人生戦略」リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著、池村千秋訳より)
あなたはおそらく、友人関係や知識や健康を「資産」と考えたことはないだろう。
「資産」というのは、ほとんどの人が日常生活で使う言葉ではない。
しかし、これらの要素を資産と位置づける発想は、100年ライフを生きる上で欠かせないものだ。
資産とは、ある程度の期間にわたり恩恵を生み出せるもののこと。
言い換えれば、資産はある程度の期間存続するものである。
そこで、長い人生を生きる人にとっては、資産管理が大きな課題になる。
資産はしばらく存続する可能性がある半面、たいていなんらかの形で価値が下落していく。
使用したり、放置したりすれば、価値が減少するのだ。
したがって、資産には、慎重なメンテナンスと投資をする必要がある。
このように考えれば、友人関係や知識や健康は資産の一種と位置づけるべき理由が理解できるだろう。
友情や知識は一夜で消失はしないが、
十分な投資を怠り、友だちと連絡を取らず、知識をリフレッシュしなければ、
いずれは価値が下がり、ついには消失してしまう。
無形の資産(友人関係、知識、健康)は、マイホームや現金や銀行預金のような有形の資産とは大きく異なる点がある。
目に見える有形の資産は、概して定義したり測定したりするのが難しくないので、値段をつけて譲渡しやすい。
自分の資産を把握し、監視することも容易だ。
銀行口座の残高は簡単に確認できるし、マイホームの価値はインターネットで調べた調べればだいたいわかる。
将来受け取れる年金の金額も細かく調べることが可能だ。
それに対し、無形の資産は物理的な実体を欠くため、
価値を測定したり、売買したりすることが難しい。
それでも、無形の資産の中には、価値の測定が比較的容易なものもある。
健康や活力のレベルは、そこそこ明確に測定できる。
健康診断を受診すれば、前回以降、健康が改善したのか、悪化したのかを知ることができる。
ある種のスキルと知識も、比較的測定しやすい。
テストの成績や認定証の類は、
知識を測り、証明するためにある
(ただし、このような方法で測れるのは、主として言葉で表現できる知識だ。
暗黙知はどうしても測定が難しい)。
では、友情やその他の人間関係はどうか?
ほとんどの人は、最も大切な人間関係の状態をある程度把握しているが、
それを数字で表現するのは難しい。
それでも、ネットワーク分析により、ある人の人的ネットワークの規模、多様性、強さを明らかにし、
それが向上しているか悪化しているかを把握する試みが多くなっている。
歩いた距離や友人との会話時間など、日々のさまざまな行動を計測するオーグメンティッド・テクノロジーの急速な進歩は、
無形の資産をもっと正確に計測することを可能にするだろう。
このように、無形の資産のなかには、直接的に数値計測できるものもあれば、
別の指標で間接的に測定できるものもある。
その一方で、増えているのか減っているのかという漠然とした評価しかできないものもあれば、まったく計測しようのないものもある。
計測結果は、教育レベルのように他人と客観的に比較できる場合もあるし、
幸福度のように比較できない場合もある。
計測が困難で、しばしば主観的な性格を持つ無形の資産は、値段をつけて売買することがつねに難しい。
それがまったく不可能なケースもある。
さらに、政治哲学者のマイケル・サンデルが言うように、
無形の資産のなかには、もっと重い価値があり、
それゆえに価値をつけて売買できないものもある。
あるいは、その資産の性質と形成過程のゆえに、売り買いできないケースも多い。
たとえば、80歳のときに一生の友人を「購入」することができない
(友人を「創作」することもできない)。
というより、友情とは、何歳であっても金で買えるものではないのだ。
市場で売買できない無形の資産は、計画や投資がひときわ難しい。
この点は、有形の資産への投資と対照的だ。
有形の資産への投資は、決定のやり直しが利く(撤回可能性)。
購入した家は売却することができるし、
株式に投資した後でそれを売り、その金を引退後の生活資金に回すこともできる。
また、有形の資産は値段をつけて売買しやすいので、代わりを見つけることが比較的容易だ(代替可能性)。
家を売って他の家を買ったり、お金を株式から現金に換えたりすることは、それほど難しくない。
しかし、無形の資産は、撤回可能性も代替可能性もない。
外国に移り住むとき、それまでのお友達を売って、移住先で新しい友だちを買うことは不可能だ。
自分のスキルの価値が落ちてきたとしても、そのスキルを売り、別のスキルを買うわけにはいかない。
そのため、無形の資産への投資は慎重におこなう必要がある。
そして、あるとき突然、資産が価値を失うことも警戒しなくてはならない。
自然災害でマイホームの価値がゼロになるように、
なんらかの外的な要因により、無形の資産の価値がなくなる場合もあるからだ。
(つづく)
(「LIFE SHIFT(ライフ シフト)
100年時代の人生戦略」リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著、池村千秋訳より)