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アスリート

2018-01-20 11:24:39 | お話
🏃🏃アスリート🏃🏃


だが、私にとってはこうした比較でも物足りなかった。

プリは、この国のこれまでのどのアスリートとも違っていた。

なぜなのかは、よくわからない。

私はじっくりと彼のことを調べ、彼の凄いところ、

何がそこまで魅力的なのかを考え、何度もこう自問した。

私も含めた多くの人を、こうまで心の底から熱狂させるプリとは何者なのか。

だが満足いく回答は、まったく出てこなかった。

才能と言うわけではない。

才能も持つランナーは他にもいる。

彼の図太い態度だけでもない。

そういうランナーは他にも大勢いる。

彼の外見だと言う人もいる。

プリの動作は、なめらかで詩的な魅力があり、髪は流れるようなシャギーヘアーだ。

胸は想像できないほど大きくて厚く、
細い脚は筋肉だらけで常に激しく動いている。

しかも大半のランナーは内向的だが、
プリは感情を表に出し、陽気で外交的だ。

彼は単に走るだけではない。

常にショーマンシップを発揮しスポットライトを意識している。


プリをここまで際立たせているのは、私の情熱ではないかと思うこともある。

彼は1位であるならば、ゴールラインを切って、そのまま死んでもいいと思っている。

バウワーマンから何と言われようと、体がどうであろうと、

プリはペースを落とし、緩めるのを拒む。

常に限界まで自分を追い込み、それを超えようとする。

これはしばしば非生産的な戦略であり、時に愚かで自殺行為とも言える。

だがそれが人々を奮い立たせる。

何もスポーツに限ったことではない。

完全な努力は人々の心を捉えるのだ。


もちろんオレゴンの人間誰もが彼を愛していたのは、彼が "私たちの仲間" だったからだ。

彼はオレゴンで生まれ、雨の多い森の中で育ち、彼が頭角を現し始めた頃から私たちは応援していた。

彼が18歳の頃、2マイル走の全米記録を破るのを目の当たりにし、

輝かしいNCAA (全米大学体育協会)選手権のたびに成長するのを見守った。

オレゴンの人間は誰しも彼のキャリアに身を投じて熱狂した。


そしてもちろんブルーリボンでも、私たちの感情の赴くままに彼に投資しようと、資金を用意していた。

プリはレースの直前にシューズを履きかえるのを好まないのだが、それは承知の上だ。

彼はアディダスを履き慣れていた。

だがそのうち、彼はナイキのアスリートに、ナイキを象徴するアスリートになってくれるものと私たちは確信していた。

その思いを胸に、アゲート・ストリートを歩いてヘイワード・フィールドへ向かっていると、

私は競技場が歓声で揺れ、振動しているのを感じたが、別に驚かなかった。

古代ローマの競技場に剣闘士とライオンが放たれても、ここまで歓声は大きくなかっただろう。

私たちプリのウォームアップになんとか間に合った。

彼が動くたびに歓声が巻き起こる。

彼が競技場の端で軽くジョギングするたびに、近くのファンは立ち上がって熱狂する。

彼らは半数は「LEGEND(伝説)」と書かれたTシャツを着ている。


突然、深く耳障りなブーイングが聞こえてきた。

当時間違いなく世界最高の長距離ランナーだったゲリー・リングドレンがトラックに現れたのだ。

「STOP PRE (プリを止めろ)」と書いたTシャツを着ている。

リングドレンは彼が最高学年の時、1年生だったプリを敗っただけに、

会場の前、特にプリにそのことを思い知らせようとした。

だがリングドレンとそのシャツを見たプリは、首を横に振るだけだった。

そしてニヤリと笑った。

プレッシャーを感じないどころか、闘志をみなぎらせるばかりだった。


ランナーたちが位置に着いた。

不気味なほど静まり返っている。

バン。

スターターピストルが大砲のように響いた。

プリがすぐさま先頭に出た。

ヤングがそのすぐ後についた。

程なくして2人が他を引き離し、2人だけのレースとなった
(リングドレンはかなり出遅れ、相手にならなかった)。

2人の戦略はそれぞれはっきりしている。

ヤングは最後の一周までプリについていき、それからスパートをかける。

一方プリは最初から飛ばして最後の一周で、ヤングと差を広げ振り払おうという青写真だ。

11周を回ったところで両者の差は1メートルちょっとだ。

観客がうなり、口から泡を飛ばし、金切声を上げる中で、2人は最後の一周に入る。

ボクシングやフェンシング、闘牛など、私たちは命を賭けた戦いの瞬間に釘付けになる。

プリは別次元のレベルに到達していた。

1、2、5ヤードと、差を広げていく。

ヤングは顔をしかめている。

もうプリには追いつけない。

勝負ありだ。

私は自分に言い聞かせた。

これを忘れるな。

この瞬間を目に焼き付けよう。

走ることも会社の経営も、この情熱のほとばしりから学ぶものが大いにある。


2人がテープを切ると同時にタイムを見ると、

2人とも全米記録を破っていたが、プリがわずかに上回った。

だが、彼はそれだけでは済まなかった。

「STOP PRE」のTシャツを着ていた人を見つけて、

そのTシャツをひったくり、頭の上で戦利品のようにぐるぐる回した。

するとこれまで聞いたこともないような、どのスタジアムでも聞かれることがなかった、大きな拍手が巻き起こった。


こんなレースはこれまで見たことがなかった。

見たというよりも参加したような思いだ。

数日後、太ももや手足が痛くなった。

これがスポーツであり、スポーツの力だ。

書物のように、スポーツは他人の人生を生きた気持ちにさせ、他人の勝利に関わった気持ちにさせてくれる。

それは敗北した場合も同じだ。

最高のスポーツではファン精神がアスリートの精神と融和し、

1つになって現実を超越し、神秘的な一体感が生まれる。

アゲート・ストリートの帰り道、レースは私の一部である、永久にそうであることを実感し、

ブルーリボンもレースの一部であろうと誓った。

相手がオニツカであれ誰であれ、来たるべき戦いで、私たちはプリになろう。

命を懸けて闘おう。

プリとバウワーマンがそれを示してくれた。


(「SHOE DOG 靴にすべてを。」フィル・ナイト著 大田黒奉之訳より)