「リルケは自伝的小説『マルテの手記』の中で、「詩は感情ではなくて経験である。一行の詩をつくるには、さまざまな町を、人を、物を見ていなくてはならない。」と言っているの」と彼女はいつも持ち歩いているリルケの詩集をテーブルの上に置いて、右手でコーヒーカップを持ちながら熱く話していたのを思い出した。
俺は新卒でM物産に入社し半年間の本社での勤務の後、ブラジル支社で三年勤務し日本に帰って来た。大学時代にお世話になったゼミの先生にお土産を持って行った帰りに、当時付き合っていた彼女とよく行った喫茶店でコーヒーを飲んだ。
いつも目の前に居た彼女のいない席で飲むコーヒーはほろ苦い、寂しい味がする。彼女は鳥取県の老舗旅館の一人娘で、卒業と同時に田舎に帰り家業を継ぐ為に父親の旅館で働く。
「田舎に帰ったら家業の合間にリルケのような詩を書くわ」彼女の口癖だ。「でも詩は感情ではなく経験なのよね。リルケのような詩を書く為には、世界中のいろいろ街を歩いてみたい。あなたが羨ましいわ」これも彼女の口癖だ。
「俺は商社マンになって世界を股にかけて働く」これが俺の夢であり、俺の当時の口癖だった。
この席に座って当時と同じコーヒーを飲んでいたら、三年の間ブラジルを中心に中南米を歩き回り、一所懸命働いて来た俺に足りないものがはっきりわかった。世界中を歩きたいと言っていた彼女も俺に無理やり連れて行って欲しかったのだろう。彼女のお父さんには申し訳ないが、彼女が家業を継ぐのは当分先だ。早速鳥取行きの飛行機を予約した。
俺は新卒でM物産に入社し半年間の本社での勤務の後、ブラジル支社で三年勤務し日本に帰って来た。大学時代にお世話になったゼミの先生にお土産を持って行った帰りに、当時付き合っていた彼女とよく行った喫茶店でコーヒーを飲んだ。
いつも目の前に居た彼女のいない席で飲むコーヒーはほろ苦い、寂しい味がする。彼女は鳥取県の老舗旅館の一人娘で、卒業と同時に田舎に帰り家業を継ぐ為に父親の旅館で働く。
「田舎に帰ったら家業の合間にリルケのような詩を書くわ」彼女の口癖だ。「でも詩は感情ではなく経験なのよね。リルケのような詩を書く為には、世界中のいろいろ街を歩いてみたい。あなたが羨ましいわ」これも彼女の口癖だ。
「俺は商社マンになって世界を股にかけて働く」これが俺の夢であり、俺の当時の口癖だった。
この席に座って当時と同じコーヒーを飲んでいたら、三年の間ブラジルを中心に中南米を歩き回り、一所懸命働いて来た俺に足りないものがはっきりわかった。世界中を歩きたいと言っていた彼女も俺に無理やり連れて行って欲しかったのだろう。彼女のお父さんには申し訳ないが、彼女が家業を継ぐのは当分先だ。早速鳥取行きの飛行機を予約した。