海峡の南 著者 伊藤たかみ
《内容》
祖父の危篤の報を受け、〈僕〉は遠縁の歩美とともに父の故郷・北海道へ渡る。若き日に関西に出奔した父は、金儲けを企てては失敗し、母にも愛想を尽かされ、もう何年も音信不通のままだ。親族に促され父を捜す〈僕〉は、記憶をたどるうち「北海道とナイチ(内地)」で父が見せた全く別の面を強く意識しだす。海峡を越えて何を得、何を失ったのか、居場所はあったのか。それは30を過ぎても足場の定まらない自身への問いかけへと重なってゆき……。北海道と関西の空気を見事に織り込みながら、現代の父と息子の不確かな繋がりをとらえてみせる意欲的な長篇です。
(紹介文より)
☆☆☆☆☆
―――愛さえなければ、いろんなことが上手くいく。不思議なもので、僕と父は口論ひとつしたことがなかった。
―――つぎはぎだらけの、ちぐはぐな人生を送った男。彼をひとまとめに覚えてやれる人間は、きっともう、息子である自分しかいないのだろう。嫌だろうがなんだろうが、彼がいつか骨になったとく、ナイチ(内地)での彼を筋道立てて覚えていてやれるのは自分しかいない。
いや息子にだって筋道は立たない。人間なんてそんなものだ。
《内容》
祖父の危篤の報を受け、〈僕〉は遠縁の歩美とともに父の故郷・北海道へ渡る。若き日に関西に出奔した父は、金儲けを企てては失敗し、母にも愛想を尽かされ、もう何年も音信不通のままだ。親族に促され父を捜す〈僕〉は、記憶をたどるうち「北海道とナイチ(内地)」で父が見せた全く別の面を強く意識しだす。海峡を越えて何を得、何を失ったのか、居場所はあったのか。それは30を過ぎても足場の定まらない自身への問いかけへと重なってゆき……。北海道と関西の空気を見事に織り込みながら、現代の父と息子の不確かな繋がりをとらえてみせる意欲的な長篇です。
(紹介文より)
☆☆☆☆☆
―――愛さえなければ、いろんなことが上手くいく。不思議なもので、僕と父は口論ひとつしたことがなかった。
―――つぎはぎだらけの、ちぐはぐな人生を送った男。彼をひとまとめに覚えてやれる人間は、きっともう、息子である自分しかいないのだろう。嫌だろうがなんだろうが、彼がいつか骨になったとく、ナイチ(内地)での彼を筋道立てて覚えていてやれるのは自分しかいない。
いや息子にだって筋道は立たない。人間なんてそんなものだ。
