職場の構内を歩いていると、泰山木(たいさんぼく)の高い木に
たくさんの花が咲いているのを見かける季節になった。
私が泰山木という花の名前を知ったのは、2年前に読んだ
川端康成の「片腕」からである。
“「片腕を一晩お貸ししてもいいわ。」と娘は言った。
そして右腕を肩からはずすと、それを左手に持って私の膝においた。”
娘の片腕を抱えて帰る男の部屋には、朝、花屋で買った泰山木のつぼみ
がガラスびんに入れてある。今朝はつぼみであったのが、夜には
大きい花をいっぱいに開いていて、「きついお花の匂いが肌にしみるわ。」
と娘の腕が言うのである。
このあと、男は自分の右腕と娘の右腕をつけかえて眠りに着くという、
尋常でない展開をしていく。
この「片腕」を読んだ時、見てはいけないものを見てしまった気がして、
二度と川端の作品は読むまいと思った。そこで、最後に方向性の違うもの、
要するにエロくないものを一つ読んでおこうと思って、「名人」を
読んだのが運のつき。その静謐にして明晰な文章に、完全に参って
しまったのだった。
もし、あの時「片腕」でやめていれば、川端に対する印象は今と全く
違っていた、ということは、この文章をかいている自分も存在しない
わけだから、本との縁は不思議なものだと思う。
ところで、朝つぼみだった泰山木が半日でいっぱいに開くってほんとう
なのか?と訝しんでいたが、昨日の夕方のつぼみが、今朝は思い切り咲いてた。
作家って、細かいところまで調べているのだな。
朝のつぼみ
夕方、すっかり開花
たくさんの花が咲いているのを見かける季節になった。
私が泰山木という花の名前を知ったのは、2年前に読んだ
川端康成の「片腕」からである。
“「片腕を一晩お貸ししてもいいわ。」と娘は言った。
そして右腕を肩からはずすと、それを左手に持って私の膝においた。”
娘の片腕を抱えて帰る男の部屋には、朝、花屋で買った泰山木のつぼみ
がガラスびんに入れてある。今朝はつぼみであったのが、夜には
大きい花をいっぱいに開いていて、「きついお花の匂いが肌にしみるわ。」
と娘の腕が言うのである。
このあと、男は自分の右腕と娘の右腕をつけかえて眠りに着くという、
尋常でない展開をしていく。
この「片腕」を読んだ時、見てはいけないものを見てしまった気がして、
二度と川端の作品は読むまいと思った。そこで、最後に方向性の違うもの、
要するにエロくないものを一つ読んでおこうと思って、「名人」を
読んだのが運のつき。その静謐にして明晰な文章に、完全に参って
しまったのだった。
もし、あの時「片腕」でやめていれば、川端に対する印象は今と全く
違っていた、ということは、この文章をかいている自分も存在しない
わけだから、本との縁は不思議なものだと思う。
ところで、朝つぼみだった泰山木が半日でいっぱいに開くってほんとう
なのか?と訝しんでいたが、昨日の夕方のつぼみが、今朝は思い切り咲いてた。
作家って、細かいところまで調べているのだな。
朝のつぼみ
夕方、すっかり開花