1ヶ月あまり経った6月の夜、毎日根気よく探していたバクがトントを連れ帰ってきた。もう私達は何処かで交通事故にでもあったのだろうと諦めていたので、とても嬉しく、奇跡に近いと思った。
嬉しさのあまり、バクは人間のようにトントの背に何度も抱きつきすりすりして「ニャァ~、ニャァ~」と声を出して喜んでいたが、それよりも空腹でボロボロになっていたトントはそれよりも餌を食べる事に夢中になっていた。さすが、利口なバクちゃん!
そんな事もあったが、その年の夏の終わり、今度はバクが姿を消した。私が嫌がる頭の紐状になった瘡蓋を剥いだ後の事で、後ろめたい。ゴメンナサイ。
結局、奇跡は起こらずそれっきりだった。
残ったトントはアホなのか、バクのように探しているようにも見えなかった。私と父は自転車で名を呼びながら走り回ったが、帰ってくることはなかった。
しかし、トントも2度目の交通事故ではビッコになりながら「フニャ~」と言いながら帰ってきたが、窓に駆け上がることも出来なかったが幸い急所を外れていたので手術をして助かった。
この猫だけはに乗せても怖がらず、1度目の交通事故で轢かれても、窓に前足をかけ車窓の風景を楽しんでいた。一度目は脱腸で幸いにも人間の腿用のサポーターに穴をあけをはかせることで手術をせずに1週間ほどで固まった。
入院している病院から獣医さんが電話をしてくださり、「フニャ~。」と言う弱々しい鳴き声を聞かせてくださり、こちらも「トンちゃ~ん。」と呼びかけた。
年がら年中ノラと喧嘩して傷だらけで耳は原型をとどめていなかった。店の叔母さんが「汚いトン」ともう他にもネコが来ていたのでそう呼んでいた。
そんなトントだったが、4月のある日のお昼前倉庫へ行ってリフトに荷を載せた途端、ガタン、ガタンと大きな音がして見上げると長さ1m余りのH型鉄骨が上から落ちてきた。とっさに身をよけ交わしたが、足元でバウンドして足首をかすり、擦り傷になった。
突然のショックからか、寒気と気分が悪くなり帰宅してから休んだ。
夕方5時半頃、寝ている私の部屋に母が「大変、大変、トンが近くの県道ではねられた。」と言って駆け込んできた。近くの人が知らせに来てくれたらしく、すぐに連れに行った。
横断歩道の真ん中にトントはいたが、驚いた事に左の頭が陥没して目が飛び出てかっと口を開いて舌もでている姿だった。
身代わりだ…。あのまま鉄骨が頭上に落ちていたら、きっと私はこういう姿で死んでいたに違いない。6歳まで生きただろうか?交通事故や突然姿を消したネコも多かった。病であれば、看病している間に気持ちの整理もつくが、やりきれない悲しさと寂しさに襲われ、その度泣いた。
このトントだけではなく、私の身代わりと明らかに確信するような事がその後も起きた。
不思議な事に、業者に頼んでリフトの点検をしてもらったが、外れたということもなく異常もなく、落ちてきた鉄骨はどこにあったか不明であった。
20年間に餌を食べに来る猫を合わせると30匹くらい面倒を見たが、地場が悪い性か、最近のフクちゃんとぶうちゃんを除けるとみんな短命であたった。
数年前、フクが亡くなってから、ノワタリさんと相談してネコ供養をして、みんなに守ってくれた礼を言った。
みんな私たちを守る為、生まれてきたのだとノワタリさんは言われたが、それも悲しい。
今ならば、もっとうまくネコと暮らせると思うが、残念留守がちな私と高齢の両親ではネコが寂しい思いをしてかわいそうなので飼う事を諦めている。
フクちゃん