正月用に買い込んでおいた酒類がほぼ切れたので、スーパーの酒コーナーを覗いた。ビールに日本酒、ワインにウイスキー、イモ焼酎にも少し飽きが来たのか、どれにも食指が動かず、他に目移りした。すると、うがい薬か薬瓶のような変わり種が目に入った。ラベルの文字にウムラウトが付いていたので、独蘭系の感じがした。裏のラベルを見ると、「イエーガーマイスターは、ドイツ生まれのハーブリキュールです。56種類の厳選したハーブなどのボタニカルからゆっくりとエキスを抽出したのち・・・」云々と説明してあった。ひょっとして、これかな、と若い日の苦い思い出が蘇った。
実際に苦く、不味い酒だった。まだ40歳代直前、西ドイツにツアーで行った。オクトーバーフェストのビールを味わったから10月だった。ロマンチック街道とかローテンブルクのお城などを巡るバスの車中、東独市民がハンガリー経由だったか、西側に越境したといった物情騒然とした情勢を、ガイドが説明していた。その時はよく理解できなかったけれど、日本に帰国したすぐあと、ベルリンの壁が崩壊した歴史的ニュースを聞いた。
そんな緊迫した旅ゆえに苦かったわけではない。訪れる先々で、20代後半の快活なその女性と食事のテーブルを同じくすることが重なった。自然、親しく会話を交わすようになったある日のディナーの席で向かい合わせになった。そこで、たぶん間違いないと思う、例の酒が出た。
ドイツの地酒で、ハーブや薬草が入っているとの説明だった。アルコールなら何でも来いなので、にこやかに乾杯して一口飲んだら、酒の度を越して苦かった。吐き出すこともできず無理やり飲み込んだ。
服用した経験はないけれど、日本の苦い薬の代表格のせんぶりが頭に浮かんだ。しかし、文字だけの知識で、実際に口にしたことがなかった。向かいの彼女に顔をしかめて、口を衝いた出たのは「せんずりみたいな味やねえ」だった。ちょっと言い間違えたかなと気付いたけれど、いくら英語が堪能な彼女でも、こんな下世話なボキャブラリーはないだろうと、顔を窺った。期待に反し、意外とおませだったのか、歪んでいた。
そのあとの記憶は飛んでいる。名前も顔も思い出せないけれど、その瞬間の記憶だけが、酷い悪酔いとして残っている。でも、今日は成人の日なので、忌まわしい過去から卒業しようと、思い切って買って、飲んだ。長い期間を経て舌と胃に耐性ができたのか、それほど苦くなく、ロックで嗜むことができた。ついでなので、寝る前の風呂にはバブのローテーションを外し、ツムラのくすり湯『バスハーブ』を入れ、すべてをお湯に流した。
やまとうた
一字違はば
興醒めて
おとこをむなの
仲和らがず
【ねた元:古今和歌集・仮名序(紀貫之)】
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