潮岬灯台、樫野崎灯台を経て、紀伊半島の東海岸に出、国道42号線を走る。
車窓に橋杭岩の奇岩を見、やがて太平洋を東に突き出した太地の半島に入った。
うららかな日差しの下、寝静まったようにのどかな集落の細い道路をゆっくり走り、集落が切れて、しばらくは小暗い、南国的な樹林の下を走ると、梶取崎 ( カントリザキ ) に出た。
潅木の前の草の上に車を停めて、降りると、原っぱがあった。
原っぱの向こうのはしに、白い灯台が立っている。
のどかな冬の日差し。青い空と、ぽっかり浮かぶ白い雲。
聞こえるのは、灯台の向こうの断崖の遥か下に、打ち寄せては返すドドーンという波濤の音のみである。
(梶取崎灯台)
人けのない原っぱの端まで歩くと、断崖があった。
原っぱの一角の、こんもり樹木の茂る下にブランコがあり、小さな女の子と若い母親が、ブランコに乗って、静かに遊んでいた。
ぽかぽかと日が照り、波濤の音以外に何も聞こえず、時が止まったようであった。
梶取崎灯台は、前の2つの有名な灯台と比べると、鄙びて、メルヘンチックである。
砕ける波の音を聞きながら、冬の日差しの下、灯台の草むらをそぞろ歩いていると、心が安らぎ、生かされているという幸せ感がわいてくる。
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灯台から2キロ先の燈明崎は、名前のとおり、江戸時代に灯台があった。そばに、小さな番屋の跡があり、風雨の夜の困難な任務をしのばせた。
捕鯨用の展望台も再現されている。看板があり、説明が書かれていた。
捕鯨の際、この展望台に長 ( オサ ) が立つ。クジラがやって来ると狼煙を上げ、遥か絶壁の下、眼下の海の、和船の船団に対して、指図をした。船団は、断崖の上の展望台に立つ長 (オサ) の振る旗に従って、クジラを包囲し、追い込んで、次々に銛を撃って仕留めた。
展望台に上って見ると、ここからの狼煙や旗に合わせて、遥か眼下の海原で繰り広げられた、当時の勇壮な鯨漁の様子が、目に浮かぶようであった。