( シチリアの白い雲 )
[ 日 程 ]
8日間の日程は、以下のようなものであった。
第1日> 関空 ── ローマ ── パレルモ
(パレルモ泊)
第2日> パレルモ ── チェファルー(見学)
── パレルモ(見学) (パレルモ泊)
第3日> パレルモ ── モンレアーレ(見学)
── セリヌンテ(見学) ──
(アグリジェント泊)
第4日> アグリジェント(見学) ──
アルメリーナ・ カザーレ荘(見学)
── カルタジローネ(見学)
── (ラグーサ泊)
第5日> ラグーサ(見学) ── シラクサ(見学)
── (タオルミーナ泊)
第6日> タオルミーナ(見学)
(タオルミーナ泊)
第7日> タオルミーナ ── 空港 ──
ローマ ──
第8日> ─── 関空
★ ★ ★
[ ちょっと、旅のありようといったことについて、考えた ]
出発前に旅行会社から送られてきた「旅のしおり」を見ながら、旅を終えた今、上の日程を書き写した。
書き写しながら、
シチリアの青い海や、
海を見下ろす丘の上の古代の遺跡や、
樹木のない険しい山や、
山の山頂部につくられた町や、
野の花々や、
小鳥のさえずりや、
教会を飾るモザイク画を思い出した。
ローカルな旅であったが、心楽しい旅であった。
( 車窓から … シチリアの海 )
同時に、今回久しぶりにツアーに参加して、改めて、「旅のありよう」といったことを、考えた。
★
2日目、3日目、そして、6日目は、とても印象的だった。
もう一度行って、あの「景色」を眺めてみたいと思う。
だが、もう一度行くとしたら、パレルモも、チェファルーも、モンレアーレも、今度は自分の足で、気ままに歩いてみたい、と思う。 ツアー旅行に対する小さな不満足感が心の底に沈殿している。
パレルモやその周辺には、ビザンチン文化やイスラム文化の影響を受けて、シチリア・ノルマン文化と呼ばれる華が開いた。その意味で、パレルモは、「文明の十字路・シチリア」 を象徴する町である。ならば、そういうことを肌で感じられるような旅をしたい。
旅程に制限があるから、パレルモの町の文化遺産のあれもこれも見て回ることはできないだろう。
だが、遥々とここまでやって来た以上、最低限、これは見逃したくないという2つ、3つはあり、それらを素通りされるとやはり心残りで、もう一度自分の足で歩いてみたいという気持ちは残る。
★
もちろん、ツアーの長所もある。
夜遅く、初めて降り立った空港で、緊張してタクシーをさがし、真っ暗な道路を疾走する運転手の後部座席で不安に駆られながら座っていなくても、空港にはお迎えの観光バスが明々と車内燈を点けてちゃんと待っていて、ホテルに着けばポーターがスーツケースを部屋まで運んでくれる。
翌日から、観光バスは1日に何100キロも走って、次から次へと、「観光」させてくれる。
毎回、食事のたびに、わからないメニューをにらみながら、何を食べようかと悩まなくても、上げ膳、据え膳、テーブルに着けば食事が出る。
だが、例えば、この行程で言えば、4日目、5日目。
帰国後に自分で写した写真を見ても、どこを写した写真なのか、思い出せない。
なにしろ4日目は3か所も見て回っている。
その上、3か所目のカルタジローネと5日目のラグーサは、よく似たバロックの町である。世界遺産かもしれないが、この街並みのどこがどうバロックなのかという説明を、自分のような者にわかるようにしてほしかった。しかし、そもそもシチリアでバロックを見る意味があるのだろうか?
一方、シラクサは、紀元前の時代からギリシャ人が入植した、シチリア最大、最強の都市国家であった。カルタゴと戦い、ローマとも戦った。パレルモ以前のシチリアの雄である。さっと「観光」して、通り過ぎるのは残念である。
こういう町は、せめ1泊して、その遥かな歴史を五感で感じなければ、旅をしたことにはならない。
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旅の終わりに、タオルミーナに2泊したが、これは最高に好かった。
小さなこの町で、観光というと丘の上の古代の劇場と、断崖を横に削り取ってつくったようなウンベルト通りくらいである。オシャレで可愛い店が並ぶこの通りは、所々で遥かに青い海を見下ろすことができる。
添乗員にこの2つを案内してもらい、あとは解散、自由時間になった。この、解散、自由時間がいい。旅は、そこから始まる。
ウンベルト通りのお土産屋さんをのぞきながら歩いていたら、今、流行りのクルーズ・ツアーから上陸した大勢の観光客が、陽気に楽しそうに歩いてきた。フランス人のツアーのようだ。
この人たちは、ほんの何時間か、こうしてこの町を観光して、また船に戻って、次の港へ向かう。夜は、基本的には船の船室に泊まる。
船旅を楽しむのも、旅の楽しみである。ただ、昼間、何時間か上陸しても、タオルミーナがわかるとは思えない。
夜明け … 眼下のイオニア海がピンクに染まって、一日が始まる。
早朝 … 朝の澄んだ空気の透明感。見上げれば、驚くほど切り立った山。その一角にある古代の劇場が印象的。真下には真っ青な海岸線。林の中から小鳥たちのさえずり。シチリアの小鳥たちも、こんなに良い声で鳴くのだ。
明るい昼 … イソラ・ベッラの海辺に降りて、カフェテラスで、リゾート気分の一杯のワイン。イオニア海の水を掬って、茫々とした歴史を思う。
たそがれ時 … 開放的なテラス席に座って夕食のひととき。周りの客たちもどこかウキウキと、ゴッホの絵のようだ。
帰り道で見た暮れなずむ海の深いブルー …。
( 暮れなずむイオニア海 )
こういうものすべてが、タオルミーナ。
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西ヨーロッパの旅も、自力で行けるところはだいたい行き、この先、トルコとか、ギリシャの島々とか … 個人では行きにくいところが残ってきている。ツアーに頼らざるを得なくなりそうだが、まずツアーで行って、強く印象に残ったところだけ、再度、自力でゆっくり訪れるという手もある。
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[ パレルモへ ]
関空から12時間少々、ローマ空港に到着。
( ローマ空港へ向けて高度を下げる )
ローマ空港(レオナルド・ダ・ヴィンチ空港)は、関空と同じように海のそばにつくられた空港だ。ヨーロッパの5月は、午後7時でも、十分に明るい。
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パレルモへの乗り継ぎ便は30分遅れで出発。午後9時を回って、さすがにとっぷりと暮れ、1日かけて、遥々と遠くまで来たという感慨。日本はもう午前4時だ。
パレルモはローマから、真南の方角。ティレニア海の上を飛ぶ。
いつの間にか進行方向やや東に満月。月光が翼を濡らす。眼下、ティレニア海は漆黒の闇。
パレルモ空港から迎えのバスに乗り、海沿いのホテルへ。午後11時半ホテル到着。
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スーツケースを開け、明日の用意をし、 風呂に入る。
床に就いたのは午前1時半。
少しうとうとしたと思ったら、稲光。窓ガラスにビシ、ビシと何かが当たる音。雹だ。
とにかく寝よう。( 続 く )