滋賀県 東近江市小今町 称名寺宝篋印塔
小今町の称名寺は集落の中央にあって、東側の蛭兒神社と隣り合い、落ち着いた雰囲気を漂わせている。山門を入ってすぐ右手、築地塀に囲まれた細長い一画が墓地になっており、その一番奥の一段高くなった狭い場所に立派な宝篋印塔が窮屈そう に立っている。墓地は参道から山門をくぐり、境内側の入口から山門方向に戻るようになっているので、一番奥まったところは山門よりも外側で、築地塀を挟んですぐ道路である。道から塀越しに笠と相輪が見える。当初からのものかは不明だが切石を方形に組んだ基壇を2段に設けている。基礎は比較的背が高く、彫りが浅い壇上積式で、基礎の幅に対し高さが高いこともあるが格狭間は円形に近い形状で左右の広がりに欠け中央の花頭曲線の幅がとれていない。また脚が高く退化傾向にある。格狭間内には、正面に開蓮華、右に三茎蓮を入れている。築地塀の陰になって確認できない左側と裏面はそれぞれ散蓮と素面とのことである(※)。基礎上は2段。塔身には月輪を入れず直接金剛界四仏の種子を入れるが、彫りは浅く文字も小さい。笠は、下2段は普通だが、上は珍しく7段。最上段は広めで軒からの逓減は大きくない。隅飾の3弧輪郭のアウトラインは半円の弧線というよりヘの字状で、茨の位置が低く、先端に向かって鋭角的に尖る独特の形状をしている。隅飾裏側つまり段形側の彫成が甘く、4段目に接合する様子が正面からも見えるのは手抜きか未成品のように感じる。軒から入って直線的に外反するが、不思議と正面観ではほぼ直立して見える。隅飾輪郭内部には蓮華座上に月輪を浮彫りにして種子を入れているようだが、判読できない。基礎上と笠の段形は垂直でなくかなり傾斜している。笠は全体的に背が高い印象。相輪は完存しており、低めの伏鉢、複弁の請花、凹凸のはっきりした九輪は逓減率がやや大きく、単弁請花、宝珠と続いていく。伏鉢と下の請花、上の請花と宝珠のくびれは大きい。先端突起はハッキリしているが宝珠は全体にやや扁平で曲線に硬さはない。確認できなかったが塔身ウーンを挟んで永和元(1375)年5月の銘があるという(※)。高さ約232cm(※)は8尺塔の範疇である。細部のディテールには退化傾向や硬さがあるものの、全体的なプロポーションはバランスがとれシャープで美しい。遺存状態も良く、年代指標となる点も貴重。
滋賀県教育委員会編 『滋賀県石造建造物調査報告書』 127ページ