◆韓国映画「光州5・18」(共同配給・角川映画など)の内覧試写会が3月下旬、東京都千代田区紀尾井町3-6紀尾井町パークビル8階の角川映画式会社で行われ、招待された私は18日午後6時からの試写会を鑑賞してきました。この映画は韓国の新進気鋭の監督、キム・ジフン氏の最新作です。この映画はキム氏の長編第2作で、2007年7月に韓国で公開され、観客動員740万人を超えて大ヒットしたそうです。日本では、5月10日から公開されます。
この映画は、韓国全土に非常戒厳令が発令された1980年5月18日から光州市のデモ隊が5月21日、全市を占拠、戒厳軍が27日、多数の死者を出して全市を鎮圧するまでの「光州事件」を再現していて、実に迫真力があり、圧倒されます。
いかに「米ソ東西冷戦」や「北朝鮮からの侵攻」に脅える軍政・戒厳令下にあったとはいえ、軍隊が同胞・市民に銃口を向け、無差別に発砲する場面に驚かされ、大変衝撃を受けました。
◆日本では1960年、「日米安全保障条約の改定」をめぐり、「安保反対」デモは労組から一般市民まで広がり、連日デモが繰り返され参加者が増大していきました。軍事闘争から転換した日共の六全共路線に飽きたらず日共から分派した新左翼で急進派の先端に位置した「共産主義者同盟=ブント」が。東大を中心に全学連を組織し「安保反対」の活動を開始しました。
しかし、時の最高権力者・岸信介首相は、強気姿勢を変えず、6月19日のアイゼンハワー大統領の来日をあくまで主張し、大統領の安全を確保するため自衛隊出動まで検討していました。しかし、赤城宗徳防衛庁長官が、「自衛隊を出動させれば益々デモはエスカレートし社会全体の崩壊に繋がる」として反対し、次第に岸首相は孤立していきました。最終的な決定打だったのが、ブントの手伝いをしていた東大生・樺美智子さんが圧死する事件が起きたことです。岸首相は、「これ以上世論を納得させることは無理」と判断し、参議院での「新安保」自然承認という形での「最悪の法案成立」と引き換えに米国大統領の来日断念と自らの首相辞職を表明。後任の池田勇人に託して舞台から降りています。
赤城宗徳防衛庁長官は、2007年に自殺した松岡利勝農林水産相の後任で「バンソウコウ大臣」と言われた赤城徳彦農林水産相の祖父です。赤城宗徳防衛庁長官は、事実上の軍隊である自衛隊が、本来守るべき国民・市民に銃口を向けて、発砲することは絶対に許されない、許すべきではないという良識を示したことは、今日まで語り草になっています。
それだけに、韓国の戒厳軍が、何のためらいもなく、光州市民に向けて、一斉射撃した場面には、あ然とさせられ、慄然とさせられたのです。日本では、到底考えられないことだったからでもあります。
いまから28年前のことを振り返ってみますと、日本では5月19日、大平正芳首相が自民党内の派閥抗争の末に、衆議院を「ハプニング解散」しました。当時、私は毎日新聞政治部記者として大平政権の政局運営を取材していました。韓国は中国と同様、報道規制が厳しく、報道各社のソウル特派員が全斗煥大統領の軍事政権を取材することは困難を極め、批判報道すると支局閉鎖・国外退去を命じられる時代でした。このため、詳細は伝わってきていませんでした。しかも、私自身、大平政権の取材に忙殺されていました。
◆「光州」は、韓国民主化運動の「聖地」といわれ、金大中元大統領、盧武鉉前大統領を誕生させる原動力になっていた。このため、昨年秋の大統領選挙の最中に公開されたこの映画には、盧武鉉前大統領放映後継者と目された鄭東泳候補(元統一相)をバックアップするという政治目的が見え隠れしています。
韓国の李明博大統領(ハンナラ党)4月20、21の両日、就任後初めて訪日します。李明博大統領が勝利したいま、日本では単なるメロドラマと受け取られる可能性が大きいのではないかと考えられます。
しかし、ミャンマー政府の治安部隊がデモ隊に発砲、日本人ジャーナリストが射殺された事件はまだ記憶に新しく、中国政府は、チベット自治区でのデモ運動を武力で鎮圧していると言われ、28年前の「光州事件」は、決して過去のものではないと痛感させられました。
◆この映画で、韓国、ことに全羅道に「死後結婚」という風習が残っていることを初めて知りました。死者に囲まれた花嫁姿のヒロイン、パク・シネだけに笑顔がなく、悲しそうな表情をして真ん中に立っている映画のラストシーンは、韓国民の悲劇を象徴しているようで、涙を誘われました。
日本の防衛省・自衛隊が、地位の向上に伴って傲慢になり、「軍事優先の論理」にどっぷり浸かっている状況の下で、最新鋭イージス艦「あたご」が、千葉県房総沖で漁船に衝突し、父子2人が行方不明になる事件が起きています。防衛庁自衛隊の最高司令官である首相には、いざというとき「治安出動」を命ずる権限が与えられています。世の中は、どのように変わるかわかりません。自衛隊が、近い将来、憲法改正により「自衛軍」となっても、国民に銃口を向けるような時代が到来しないことを切に願うものです。
その意味で、韓国映画「光州5.18」は、軍隊と市民の関係を考えさせてくれる必見の作品と言っても過言ではないでしょう。
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この映画は、韓国全土に非常戒厳令が発令された1980年5月18日から光州市のデモ隊が5月21日、全市を占拠、戒厳軍が27日、多数の死者を出して全市を鎮圧するまでの「光州事件」を再現していて、実に迫真力があり、圧倒されます。
いかに「米ソ東西冷戦」や「北朝鮮からの侵攻」に脅える軍政・戒厳令下にあったとはいえ、軍隊が同胞・市民に銃口を向け、無差別に発砲する場面に驚かされ、大変衝撃を受けました。
◆日本では1960年、「日米安全保障条約の改定」をめぐり、「安保反対」デモは労組から一般市民まで広がり、連日デモが繰り返され参加者が増大していきました。軍事闘争から転換した日共の六全共路線に飽きたらず日共から分派した新左翼で急進派の先端に位置した「共産主義者同盟=ブント」が。東大を中心に全学連を組織し「安保反対」の活動を開始しました。
しかし、時の最高権力者・岸信介首相は、強気姿勢を変えず、6月19日のアイゼンハワー大統領の来日をあくまで主張し、大統領の安全を確保するため自衛隊出動まで検討していました。しかし、赤城宗徳防衛庁長官が、「自衛隊を出動させれば益々デモはエスカレートし社会全体の崩壊に繋がる」として反対し、次第に岸首相は孤立していきました。最終的な決定打だったのが、ブントの手伝いをしていた東大生・樺美智子さんが圧死する事件が起きたことです。岸首相は、「これ以上世論を納得させることは無理」と判断し、参議院での「新安保」自然承認という形での「最悪の法案成立」と引き換えに米国大統領の来日断念と自らの首相辞職を表明。後任の池田勇人に託して舞台から降りています。
赤城宗徳防衛庁長官は、2007年に自殺した松岡利勝農林水産相の後任で「バンソウコウ大臣」と言われた赤城徳彦農林水産相の祖父です。赤城宗徳防衛庁長官は、事実上の軍隊である自衛隊が、本来守るべき国民・市民に銃口を向けて、発砲することは絶対に許されない、許すべきではないという良識を示したことは、今日まで語り草になっています。
それだけに、韓国の戒厳軍が、何のためらいもなく、光州市民に向けて、一斉射撃した場面には、あ然とさせられ、慄然とさせられたのです。日本では、到底考えられないことだったからでもあります。
いまから28年前のことを振り返ってみますと、日本では5月19日、大平正芳首相が自民党内の派閥抗争の末に、衆議院を「ハプニング解散」しました。当時、私は毎日新聞政治部記者として大平政権の政局運営を取材していました。韓国は中国と同様、報道規制が厳しく、報道各社のソウル特派員が全斗煥大統領の軍事政権を取材することは困難を極め、批判報道すると支局閉鎖・国外退去を命じられる時代でした。このため、詳細は伝わってきていませんでした。しかも、私自身、大平政権の取材に忙殺されていました。
◆「光州」は、韓国民主化運動の「聖地」といわれ、金大中元大統領、盧武鉉前大統領を誕生させる原動力になっていた。このため、昨年秋の大統領選挙の最中に公開されたこの映画には、盧武鉉前大統領放映後継者と目された鄭東泳候補(元統一相)をバックアップするという政治目的が見え隠れしています。
韓国の李明博大統領(ハンナラ党)4月20、21の両日、就任後初めて訪日します。李明博大統領が勝利したいま、日本では単なるメロドラマと受け取られる可能性が大きいのではないかと考えられます。
しかし、ミャンマー政府の治安部隊がデモ隊に発砲、日本人ジャーナリストが射殺された事件はまだ記憶に新しく、中国政府は、チベット自治区でのデモ運動を武力で鎮圧していると言われ、28年前の「光州事件」は、決して過去のものではないと痛感させられました。
◆この映画で、韓国、ことに全羅道に「死後結婚」という風習が残っていることを初めて知りました。死者に囲まれた花嫁姿のヒロイン、パク・シネだけに笑顔がなく、悲しそうな表情をして真ん中に立っている映画のラストシーンは、韓国民の悲劇を象徴しているようで、涙を誘われました。
日本の防衛省・自衛隊が、地位の向上に伴って傲慢になり、「軍事優先の論理」にどっぷり浸かっている状況の下で、最新鋭イージス艦「あたご」が、千葉県房総沖で漁船に衝突し、父子2人が行方不明になる事件が起きています。防衛庁自衛隊の最高司令官である首相には、いざというとき「治安出動」を命ずる権限が与えられています。世の中は、どのように変わるかわかりません。自衛隊が、近い将来、憲法改正により「自衛軍」となっても、国民に銃口を向けるような時代が到来しないことを切に願うものです。
その意味で、韓国映画「光州5.18」は、軍隊と市民の関係を考えさせてくれる必見の作品と言っても過言ではないでしょう。
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