新!編集人の独り言

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紅夜叉は利用された

2007-04-19 19:10:14 | Weblog
 「首、腰、膝、そして肩。ボロボロですよ・・・」
北斗は病院のベッドの上で他人事のような顔で若い医師の説明を聞いていた。
「先生、わかってますよ。自分の体だからね・・・わかってますよ」
87年に脊髄損傷の大怪我をして以来、北斗の体は急速に劣化していった。
体のバランスが崩れてるのだろう、と北斗は自覚していた。
  「いくらプロレスとはいえ、この体じゃあ無理なんじゃないかな?」
医師の言い草に北斗は少しムッとして返事をためらっていた。
  「これ以上体を壊してまで続けることも無いでしょう?プロレス」
引退を勧めるような医師の口ぶりに北斗は苦笑いでやり返した。
「先生・・アンタ、喧嘩ってした事無いでしょ?」
返事をするでもなく、医師は険しい顔で北斗のカルテに目を通している。
「小さい時から勉強しっぱなしで・・受験でしか戦った事、無いんだろうね。
 いい?背中見せられない事だってあるんだよ。人間には・・」
北斗に挑発され不本意そうに若い医師はカルテを机に放り、北斗に言った
  「悪いけどね、僕は貴方の思ってるような人間じゃないよ。
   学生の時には柔道もやっていたし、ライバルだって沢山いたさ」
医師は立ち上がり、哀れむような視線を北斗に投げかけた。
  「どんな受身をしてるか知らないけど、そんな肩まで外してしまって。
   それにその額、それは何かで切り刻まれたんだろ?馬鹿げているよ!」
「受身?・・・受身じゃなくって関節技でやられたんだよ・・・」
馬鹿な事を言うなよ、と医師は呆れたように鼻で笑った。
  「いいかい?どんな奴でも相手の肩が抜ける程の関節技は掛け無いよ!
   ケガさせようと思っても、中々出来る事じゃ無いんだよ」
今度は北斗が鼻で笑ってみせた。
「いいや、ワザとだよ。アタシの骨、折るって言ってたんだよ、アイツは」
  「いや、そんな訳は無い。仮にワザとやったんだとしたら・・・ そいつは狂ってるよ。尋常じゃ無い事だよ」
「狂ってる・・・?」
  「ああ、そんなのはスポーツとは言え無いね」
・・・・北斗は笑った・・・・堪えきれないように北斗は笑った。
「クククク・・・・そう、確かに狂ってるよ・・・ハッハッハッハッハッ・・・」
  「何だ?何が可笑しい?笑うのをやめなさい!」
「ハッハッハッ・・・そう、そんで、アタシも狂ってるんだよ・・・クククク・・・」
北斗の瞳に狂喜を見出し、若い医師はそれ以上の言葉が見つからなかった。
女子オールスター戦を境にLLPWは俄然、注目を集める団体となっていた。

ごく少数の観客だけが目撃した神取とジャッキー佐藤による私闘と呼ばれる死闘。
それ以来神取は何故か女子プロファンから拒絶される存在であった。
そして女子最強という得体の知れない肩書きだけが一人歩きしていった。
その神取が大観衆の前で全女の北斗晶に敗れ去ってしまったのである。
しかしその事実は明らかに神取のイメージを明るい物へと変化させていた。
ジャパン女子時代から続く神取の陰惨なイメージは見事に払拭されてしまった。
同時に北斗戦で見せた北斗への腕折は新たなる最強伝説の始まりを感じさせた。
やがて行われるであろう北斗との再戦に向けて、神取は注目を集める存在になっていた。
そしてもう一人、紅夜叉が対抗戦とは別の所で客を呼べる存在になっていた。
対抗戦でLLPWが注目されると同時に彼女の特異なキャラクターが人の目を引いたのだ。
オールスター戦後、初の後楽園大会。紅夜叉は神取と並ぶ注目を集めていた。
それまでのLLPWの会場とは思えないほど観客が集まっていた。
その日、発表されていた紅のカードは対長嶋美智子戦であった。

「どうしたの、長嶋。試合前にそんな暗い顔しちゃって・・・」
   「あ、沢井さん・・・」
「あ、じゃ無いでしょ。フフフ・・・あんた、本当に一回病院に行っとく?」
   「いえ・・大丈夫です・・お客さん、たくさん入ってますね・・・」
「そうだねぇ、対抗戦でウチ等の実力見せ付けちゃったからね。フフフフフ・・・」
   「紅夜叉・・・凄い人気みたいですね・・・・」
この試合の主役が紅夜叉である事を長嶋は自覚していた。
俯きながら、か細い声で話す長嶋を見てイーグルは少し困った顔をした。
「アンタねぇ、素質では決して負けて無いんだから。シッカリやんなさいよ!」
   「ハァ・・はい・・・ありがとうございます・・・」
重苦しい空気を撒き散らし、長嶋が試合の支度を始める。
イーグルは大きくタメ息をつくと、控え室を出た。
控え室を移動し、自分とタッグを組む予定の二上を呼び寄せた。
「あ、ガミ。凄く悪いんだけどさ、ちょっと聞いてくれるかな・・・」

紅コールが所々起こる中、急遽カード変更の発表がアナウンスされた。
物凄い歓声の中、紅がリングに登場しヤンキー座りからコーナーに腰をかける。
そんな一つ一つの動作に観客が声援を送るのが控え室まで聞こえる。
「長嶋、今日だけだよ!メイン、しっかりやんなかったら・・・わかってるね?」
イーグルが微笑みながら脅すように長嶋に激を送る。
変更になった対戦相手の二上が登場すると紅が襲い掛かり花束で叩きまくる。
試合が始まるとビール瓶振り回し、Vサインサミングと紅の反則攻撃が冴え渡る。
右足首を痛めている二上はなかなかペースを奪えず、試合は紅の独壇場となった。
脇固めやアキレス腱固めなどの間接技も織り交ぜ、紅が技でも充分に観客を納得させた。
最後は得意のノド輪ではなく裏アキレス腱固めで紅が勝利した。
充分に観客を満足させた紅が堂々と引き揚げてくる。
通路の奥で試合を見ていた長嶋の目前までくれないは来ていた。
目を逸らし俯く長嶋。目もくれず通り過ぎるLLの新スター紅夜叉。
長嶋は振り返り紅の後ろ姿を見ようとはしなかった。

    「それにしても紅選手、大変な人気ですね~」
「あたりまえだ。自分がこれからLLを引っ張って行くんだからな」
    「それでは5/5FMW川崎球場は・・・うわぁ!」
  「いや~留美ちゃ・・紅選手、良い試合だったね!あれ?原クン、どうしたの?」
    「い、今、紅選手に今後の抱負を聞いてたんですよぉ・・宍倉さん・・」
  「ふん、紅選手だってヒマじゃ無いんだから手短に頼むよ、手短に」
「いずれにしろ、まずは川崎でFMWを潰す!そして全女にも乗り込むぞ!」
    「すると今後は対抗戦にも・・・」
  「それはそうと、なんでカード変更になったの?二上選手のケガが原因?」
「そ・・そんな事、どうだってイイだろ!」
紅は不機嫌そうにイスを蹴り上げ控え室から出て行ってしまった。
  「ほら~原クンがFMWの話なんかするから怒っちゃったじゃない・・」
    「え・・そんなぁ・・すみませんでした・・」
紅のカード変更、何か有るな、と宍倉は目を光らせた。
    「あ、あのぉ・・宍倉さん・・・・」
  「え?何?ハッキリしてくんないかな!」
    「は、はい。紅選手に謝って来たほうが良いですかね?」


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