倦怠感、疲労、ブレインフォグ(認知障害、記憶欠損)、頭痛、忍耐の欠如、睡眠障害、不安など、
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後の後遺症(long COVID)が、
トリプトファンの吸収低下によるセロトニン欠乏による可能性があることを裏付ける研究成果が発表されました。
神経伝達物質の1つであるセロトニンは、体内でその90%が腸に存在することが早くから明らかになっていますが、
腸に長く居座る新型コロナウイルスがトリプトファン吸収を抑制するため、トリプトファンを原料とするセロトニンの生成が減り、
これがコロナ後遺症を引き起こす一因になっているようです。
新型コロナウイルスが腸に長く居座るということは、糞便のウイルスRNA解析で明らかになりました。
それによると、コロナ後遺症を生じる患者の糞中からは、そうでない患者(新型コロナウイルスに感染しても、
後遺症は生じなかった患者)に比べて、新型コロナウイルスRNAが有意に多く検出されるのです。
ところで、新型コロナウイルスを含めて、ウイルス感染はインターフェロン(IFN)の伝達を誘発することが知られています。
さらには、コロナ後遺症患者の1型IFNの増加が持続することも先行研究で確認されています。
この1型IFNが、腸オルガノイド(腸に似せた組織)やマウスで検討してみた結果、
セロトニンの前駆体であるトリプトファンの吸収を抑制することでセロトニンの貯蔵量を減らすらしいことが判明しました。
また、新型コロナウイルスが居続けることで持続する炎症は、血小板を介したセロトニン輸送を妨害したり、
セロトニン分解酵素MAO(モノアミン酸化酵素)を亢進させることを介して、セロトニンの流通を妨げうることも判明しました。
そうしたわけで、実際、コロナ後遺症患者では血中のセロトニンが乏しく、
コロナ後遺症の発現の有無をセロトニンの分量から区別できることが確認されています。
しかしこれは、脳の外での話です。そして、脳の外を巡るセロトニンは、血液脳関門を通過できません。
でもその代わりに、迷走神経などの感覚神経を介して脳に作用することはできます。
末梢でのセロトニン欠乏が脳でのセロトニン欠乏を引き起こすのは、迷走神経の不調なのです。
たしかに、ウイルス感染を模したマウスで実験したところでは、
末梢のセロトニンを増やすことや感覚神経を活性化するTRPV1作動薬(カプサイシン)を投与すると、
コロナ後遺症による脳の認知機能は正常化します。
そこで末梢のセロトニン不足と脳の働きの低下を関連づけるのは何か?
感覚神経の種類を区別するタンパク質の刺激実験から、それは感覚神経の一員である迷走神経による伝達の不足が媒介することが示唆されます。
そして、迷走神経にはセロトニン受容体(5-HT3受容体)が豊富に発現しますが、
このセロトニン受容体(5-HT3受容体)の作動薬が、当のマウスのコロナ後遺症による海馬の神経反応や認知機能の障害を正常化するのです。
<文 献>
Wong, A. C., 2023 Serotonin reduction in post-acute sequelae of viral infection, in Cell, vol.186, no.22, pp.4851-67. e20. doi: 10.1016/j.cell.2023.09.013.
University of Pennsylvania School of Medicine, 2023 Viral persistence and serotonin reduction can cause long COVID symptoms, Penn Medicine research finds : Components of
the SARS-CoV-2 virus remain in the gut of some long COVID patients, causing persistent inflammation, vagus nerve dysfunction, and neurological symptoms, in ScienceDaily,
16 October 2023.
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