心身社会研究所 自然堂のブログ

からだ・こころ・社会をめぐる日々の雑感・随想

アレルギー性鼻炎か副鼻腔炎か? それが問題だ!

2024-02-26 19:50:28 | 健康・病と医療

アレルギー性鼻炎と診断されながら、実際には慢性副鼻腔炎(chronic rhinosinusitis;CRS)に(も)罹患していて、

その治療をしないといつまで経ってもよくならないということを実証する研究が、

アメリカのシンシナティ大学医学部耳鼻咽喉・頭頸部外科のAhmad Sedaghat氏らによって発表されました。

 

この研究では、鼻にアレルギー症状が生じている219人(平均年齢44.3歳、女性63.9%)の患者を対象に、

CRSとアレルギー性鼻炎の症状を同時に評価するために、

経鼻内視鏡検査と、Sino-Nasal Outcome Test(SNOT-22)と呼ばれる質問票による副鼻腔および鼻の症状の重症度と種類の評価を行なったところ、

これらの患者のうちの91.3%(200人)でアレルギー性鼻炎の診断が確定されましたが、

同時に45.2%(99人)と半数近くの人がCRSの診断基準も満たすことが明らかになったのでした。

 

著者らの臨床上の印象でも、

CRSとアレルギー性鼻炎は、たしかに鼻閉や鼻汁など特徴的な症状はよく似ているものの、

10年・20年、時にはそれ以上にわたりアレルギーの治療を受けてきても症状が改善しなかったと訴える患者で、

しばしばCRSであることが判明し、それに応じた治A. R.,療を開始すると症状は数カ月以内に改善することが少なくないとのことです。

 

<文 献>

Houssein, F.A., Phillips, K.M. & Sedaghatet,A. R., 2024  When It's Not Allergic Rhinitis: Clinical Signs to Raise a Patient's Suspicion for Chronic Rhinosinusitis, in Otolaryngology Head & Neck Surgery.

  2024 Jan 31; doi: 10.1002/ohn.646. [Epub ahead of print]

 

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リフィーディング症候群(refeeding syndrome)と兵糧攻め

2023-12-20 12:49:09 | 健康・病と医療

以前、このブログで「リフィーディング症候群」について解説し、その典型例として、豊臣秀吉による兵糧攻めの事例を紹介しました。

 

このケースは、これまで国内の医学界では、同症候群の疑い事例として有名ではあったものの、関連する医学論文は発表されておらず、

あくまで逸話以上のものではないものとして扱われてきたようです。

 

そこで今回、鹿野泰寛医師(東京都立多摩総合医療センター)、青山彩香医師(JA茨城厚生連総合病院水戸協同病院)、

山本隆一朗学芸員(鳥取県立博物館・中世担当)の3氏が、豊臣秀吉による兵糧攻めの事例(「鳥取の渇え殺し」)に関し、

2年がかりで史料を集め、とくに『信長公記』と『豊鑑』の記述(以前のブログもご参照ください)を医学的見地から精査しました。

その結果、この大量死に関し、粥そのものには問題はなかったことを確認したうえで、

粥の摂食量の意図せずして行なわれたこの「比較実験」が生死を左右した点に注目し、食後の死は同症候群の疑いが強く、

事実であればこの事件は日本史上最初の同症候群の事例で、危険性と重要性を伝える重要な歴史的記録と指摘する論文を、

国際的な医学雑誌 American Journal of Medical Sciences に、重要な歴史的医学記録として査読付きで掲載したことを、昨日の朝日新聞は報じました。

ちなみに論文は、秀吉の肖像画が表紙を飾っています。

 

<文 献>

Kano, Y., Aoyama, S. & Yamamoto, R., 2023  Hyoro-zeme in the Battle for Tottori Castle: The first description of refeeding syndrome in Japan, in American

    Journal of the Medical Sciences. vol.366, no.6, pp.397-403. doi:10.1016/j.amjms.2023.08.015

 

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猛暑と心臓の過剰活性化

2023-11-14 13:23:35 | 健康・病と医療

熱波がしばしば脳卒中や心筋梗塞などの心血管疾患を引き起こしやすいことは専門家の間でも知られてきましたが、

ペンシルベニア大学医学部のSameed Khatana氏らの研究によると、

これは心臓や血管(心血管系)が体温調節で中心的な役割を果たしているためであり、

身体がオーバーヒートすると、発汗によって熱するために、心臓はより激しく働いて血液を身体の末梢まで行き渡らせようとするからなのです。

とくにリスク因子を持つ脆弱な人では、それが過剰な負荷となって、心血管疾患を引き起こしやすくなります。

 

ところが今日、夏に猛暑日が続くのが当たり前のようになりつつあり、しかも猛暑日は今後ますます増えることが予測されます。

だとするなら、こうした暑熱に関連した心血管疾患による死者は、今後いっそう劇的に増加することにならないでしょうか。

 

そこでKhatana氏らは、今回の研究で、まず2008年から2019年までの米国の各郡における心血管疾患による死亡者数と「猛暑日」のデータを調べました。

「猛暑日」を、最高ヒートインデックス(体感温度の指標)が90.0°F(華氏90度)=32.3℃(摂氏32.2度)以上の日とすると、

この約12年の期間中に、「猛暑日」によって1年当たり平均1,651件の心血管疾患による超過死亡

(つまり「猛暑日」がなければ避けることができた死亡)が、発生していたことが推定されました。

次いで、この数値と今後の環境や人口の変化の予測とに基づいて、この先2036年から2065年までの期間に起こるであろうことを、

温室効果ガスの排出量の増加が中程度の場合と、大幅に増加する場合の二つのシナリオの下で予測しました。

 その結果、まず、温室効果ガス排出量の増加が中程度にとどまるという、より楽観的なシナリオの場合でも

(1年間の猛暑日の平均が近年の54日から71日に増加すると想定)、

1年当たりの暑熱に関連した心血管疾患による死亡は平均4,320件に増加する(162%の増加)ものと推定されました。

 さらにもう1つの、温室効果ガス排出量の増加が大幅な、より悲観的なシナリオの場合となると

(1年間の猛暑日の平均が80日に増加すると想定)、

1年当たりの暑熱に関連した心血管疾患による死亡は5,491件に増加する(233%の増加)ものと推定されました。

 

ちなみに、この問題による打撃が最も大きいと予測されるのは高齢者と黒人であり、

それにより既存の心疾患に関する人種間の格差も、さらに拡大すると見られています。

 

<文 献>

Khatana, S. A. M., Eberly, L. A., Nathan, A. S.& Groeneveld, P. W., 2023  Projected Change in the Burden of Excess Cardiovascular Deaths Associated With Extreme Heat by

  Midcentury (2036-2065) in the Contiguous United States, in Journal Circulation. 2023 Nov 14;vol.148, no.20, pp.1559-69.

 

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コロナ後遺症、セロトニン、迷走神経

2023-11-07 23:06:48 | 健康・病と医療

倦怠感、疲労、ブレインフォグ(認知障害、記憶欠損)、頭痛、忍耐の欠如、睡眠障害、不安など、

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後の後遺症(long COVID)が、

トリプトファンの吸収低下によるセロトニン欠乏による可能性があることを裏付ける研究成果が発表されました。

 

神経伝達物質の1つであるセロトニンは、体内でその90%が腸に存在することが早くから明らかになっていますが、

腸に長く居座る新型コロナウイルスがトリプトファン吸収を抑制するため、トリプトファンを原料とするセロトニンの生成が減り、

これがコロナ後遺症を引き起こす一因になっているようです。

 

新型コロナウイルスが腸に長く居座るということは、糞便のウイルスRNA解析で明らかになりました。

それによると、コロナ後遺症を生じる患者の糞中からは、そうでない患者(新型コロナウイルスに感染しても、

後遺症は生じなかった患者)に比べて、新型コロナウイルスRNAが有意に多く検出されるのです。

 

ところで、新型コロナウイルスを含めて、ウイルス感染はインターフェロン(IFN)の伝達を誘発することが知られています。

さらには、コロナ後遺症患者の1型IFNの増加が持続することも先行研究で確認されています。

この1型IFNが、腸オルガノイド(腸に似せた組織)やマウスで検討してみた結果、

セロトニンの前駆体であるトリプトファンの吸収を抑制することでセロトニンの貯蔵量を減らすらしいことが判明しました。

また、新型コロナウイルスが居続けることで持続する炎症は、血小板を介したセロトニン輸送を妨害したり、

セロトニン分解酵素MAO(モノアミン酸化酵素)を亢進させることを介して、セロトニンの流通を妨げうることも判明しました。

 

そうしたわけで、実際、コロナ後遺症患者では血中のセロトニンが乏しく、

コロナ後遺症の発現の有無をセロトニンの分量から区別できることが確認されています。

 

しかしこれは、脳の外での話です。そして、脳の外を巡るセロトニンは、血液脳関門を通過できません。

でもその代わりに、迷走神経などの感覚神経を介して脳に作用することはできます。

末梢でのセロトニン欠乏が脳でのセロトニン欠乏を引き起こすのは、迷走神経の不調なのです。

 

たしかに、ウイルス感染を模したマウスで実験したところでは、

末梢のセロトニンを増やすことや感覚神経を活性化するTRPV1作動薬(カプサイシン)を投与すると、

コロナ後遺症による脳の認知機能は正常化します。

そこで末梢のセロトニン不足と脳の働きの低下を関連づけるのは何か? 

感覚神経の種類を区別するタンパク質の刺激実験から、それは感覚神経の一員である迷走神経による伝達の不足が媒介することが示唆されます。

そして、迷走神経にはセロトニン受容体(5-HT3受容体)が豊富に発現しますが、

このセロトニン受容体(5-HT3受容体)の作動薬が、当のマウスのコロナ後遺症による海馬の神経反応や認知機能の障害を正常化するのです。

 

<文 献>

Wong, A. C., 2023  Serotonin reduction in post-acute sequelae of viral infection, in Cell, vol.186, no.22, pp.4851-67. e20. doi: 10.1016/j.cell.2023.09.013.

University of Pennsylvania School of Medicine, 2023  Viral persistence and serotonin reduction can cause long COVID symptoms, Penn Medicine research finds : Components of

    the SARS-CoV-2 virus remain in the gut of some long COVID patients, causing persistent inflammation, vagus nerve dysfunction, and neurological symptoms, in ScienceDaily,

    16 October 2023.

 

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排便習慣と認知症リスクの関連

2023-07-14 09:21:16 | 健康・病と医療

 国立がん研究センター中央病院の清水容子氏らが、中年期以降の排便習慣と認知症の関連について解析した結果、

男女とも少ない排便回数および硬い便が高い認知症リスクと関連することが示されたそうです。

Public Health誌オンライン版の2023年6月29日号に掲載されました。

 介護保険の認定記録を用いたコホート研究で、JPHC研究における8地区で排便習慣を報告した50~79歳の参加者を対象に、

2006~16年の認知症の発症について調査し、

生活習慣因子や病歴を考慮したCox比例ハザードモデルを用いて、男女別にハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推定したものです。

 その主な結果は以下のようです。

・男性1万9,396人中1,889人、女性2万2,859人中2,685人が認知症と診断された。
・排便回数について、1回/日と比較した多変量調整HR(95%CI)は、以下のとおり(傾向のp値:男性<0.001、女性0.043)。
 2回/日以上:男性1.00(0.87~1.14)、女性1.14(0.998~1.31)
 5~6回/週:男性1.38(0.16~1.65)、女性1.03(0.91~1.17)
 3~4回/週:男性1.46(1.18~1.80)、女性1.16(1.01~1.33)
 3回/週未満:男性1.79(1.34~2.39)、女性1.29(1.08~1.55)
・便の硬さについて、正常な便と比較した調整HR(95%CI)は、以下のとおり(傾向のp値:男性0.0030、女性0.024)。
 硬い便:男性1.30(1.08~1.57)、女性1.15(1.002~1.32)
 非常に硬い便:男性1.84(1.29~2.63)、女性2.18(1.23~3.85)

 

  <原著論文>

Shimizu, Y., Inoue, M., Yasuda, N., Yamagishi, K.,  Iwasaki, M., Tsugane, S. & Sawada, N., 2023  Bowel movement frequency, stool consistency, and risk of disabling dementia:

    a population-based cohort study in Japan, in Public Health, vol.221, pp.31-38. doi: 10.1016/j.puhe.2023.05.019

 

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