心身社会研究所 自然堂のブログ

からだ・こころ・社会をめぐる日々の雑感・随想

ニューロダイバーシティによる自閉症治療の変化

2023-05-18 11:32:33 | 健康・病と医療

『日経サイエンス』の4月号に、サイエンスライターのクラウディア・ウォリスが、

自閉症治療の現場も、ニューロダイバーシティ運動を受けて、変化の波が生じていることをレポートしています[Wallis 2022=2023,p.6]。

 

これまで自閉症治療は、自閉症の症状をなくし、定型的な行動に合わせて、自閉症らしく見えないようにすることを強いるのを

「至適アウトカム」としてきたわけですが、

今や自閉症の症状はむしろ尊重し、どう扱うかは患者本人と家族とが自らの幸福に寄与するよう自身で決定すべきことへと変わりつつあるということです。

 

デューク大学の自閉症・脳発達センター所長G・ドーソンは、ある10代の患者が「アイコンタクトを保つ練習なんかもうしたくない」と訴えてきたけれど、

それで構わないのだと明言しています;

また同様に、「体を前後に揺らす方が落ち着くという人がいるなら、それを認めればいいのです。異なるあり方を社会が受け入れるべきだと私は思います」

と述べています[Dawson et als.2022;Wallis 2022=2023,p.6]。

 

自閉症セルフ・アドボカシー・ネットワークの共同創設者アリ・ネーマンによれば、

あまりにも多くのセラピストが、自閉症者たちに、定型的な見かけを試すテストにパスする方法を“教える”ことに注力しているのが現状だというのですが、

でもその結果当人はどうなっているかといえば、自閉症とみなされまいとして、定型行動から外れていないかチェックするのに

エネルギーと認知力とを使い果たしてしまうというのが実態だといいます[Ne’eman 2021;Wallis 2022=2023,p.6]。

  それどころか、自閉症とみなされないよう努めることで、自殺率の高さにも関連することすら見い出されているのです[Cassidy et als.2018;Wallis

2022=2023,p.6]。

 

「治す」とは何をすることなのか、本当に問われているのではないでしょうか?

 

実際、その一方では、すでにこのブログでも以前に書いたように(→ニューロダイバーシティの登場!)、

臨床現場にニューロダイバーシティが入ってくるとき、この概念の意味を全く曲解して、

自閉症者たちを「ニューロダイバーシティを持つ人たち」(people with neurodiversity)と呼ぶ医師やセラピストも少なくありません。

・・・これは「ダイバーシティ」の概念の意味をそもそもよく理解しておらず、まるで「ニューロダイバーシティ」ということを

まるで1つの病気や障害の名前のように捉えているのですね。

 

こうした危険はすでにニューロダイバーシティ運動の火付け役だったジュディ・シンガーが指摘していたことでした[Singer 2019]。

すなわち、「ニューロダイバーシティ」はすべての人のものです。すべての人が「ニューロダイバース」です。

その一員として、自閉症も非自閉症者も、ともにそのままに肯定されるのです。

 

<文献>

Cassidy, S., Bradley, L., Shaw, R. & Baron-Cohen, S., 2018  Risk markers for suicidality in autistic adults, in Molecular Autism, vol.9, article42, pp.1-14.

Dawson, G., Franz, L., & Brandsen, S., 2022  At a Crossroads—Reconsidering the Goals of Autism Early Behavioral Intervention From a Neurodiversity Perspective, in JAMA

    Pediatrics, vol.176, no.9, pp.839-40.

Ne’eman, A., 2021 When Disability is Defined by Behavior,Outcome Measures should not Promote “Passing”, in AMA Journal of Ethics, vol.23, no.7, pp.E569-75.

Singer, J., 2019 Reflections on Neurodiversity. https://neurodiversity2.blogspot.com/

Wallis, C., 2022 Rethinking Autism Therapy, in Scientific American, vol.327, no.6, p.25.=編集部訳、2023「自閉症治療再考――ニューロダイバーシティとしてとらえ直す」『日

    経サイエンス』第53巻4号、p.6。

 

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笑いヨガによる血糖値低下の意味

2023-04-25 19:53:29 | 健康・病と医療

笑いは、ストレス軽減、NK細胞の活性化、アレルギー反応抑制などとともに、食後血糖値の上昇抑制の効果をもつことが報告されていますが、

福島県立医科大学の広崎真弓氏らは、笑いそのものでなく作り笑いに、深呼吸、手拍子、掛け声を組み合わせた「笑いヨガ」で、

2型糖尿病患者の血糖コントロールが改善されることを、3月31日号のFrontiers in Endocrinology誌に報告しました。

「笑いヨガ」とは、グループのなかで、作り笑いや深呼吸、手拍子や掛け声を行なうことで、

冗談やユーモアに頼らずに笑いの効果を体操として行なおうとするエクササイズです。

 

 この研究では、大阪大学医学部附属病院糖尿病センターに受診する2型糖尿病患者42例を介入群と対照群に無作為に割り付け、

介入群には笑いヨガのプログラムを12週間実施しました。

開始前と12週間後に、HbA1c、体重、ウエスト周囲径、心理的因子、睡眠時間を評価した結果、

ITT解析の結果、笑いヨガ群ではHbA1c値(群間差:-0.31%、95%信頼区間:-0.54~-0.09)と

ポジティブ感情スコア(群間差:0.62ポイント、95%信頼区間:0.003~1.23 )が大幅に改善し、

睡眠時間も増加傾向がみられたとのことです(群間差:0.4時間、95%信頼区間:-0.05~0.86、p=0.080)。

なお、「笑いヨガ」プログラムへの平均出席率は92.9%と高かったそうです。

 

これはしかし、作り笑いでも血糖値を下げられるといった単純な話ではなく、

それに深呼吸、手拍子、掛け声が組み合わされていることで、

いずれもポリヴェーガル理論でいう腹側迷走神経複合体の活性化を引き起こし、

作り笑いが自然な笑いと同等の笑いの効果を示したとみるべきでしょう。

 

<原著論文>

Hirosaki M, Ohira, T., Wu, Y., Eguchi, E., Shirai, K., Imano, H., Funakubo, N., Nishizawa, H., Katakami, N., Shimomura, I. & Iso, H., 2023 Laughter yoga as an enjoyable therapeutic approach for glycemic control in individuals with type 2 diabetes: A randomized controlled trial, in Frontiers in endocrinology, vol. 14. pii: 1148468.

 

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こころの病と認知症

2023-02-12 22:16:38 | 健康・病と医療

 2022年にニュージーランドで、1928~1967年に生まれた170万人について、2018年半ばまでの30年間にわたる健康記録を調べたところ、

ある種の精神疾患(不安障害やうつ病、双極性障害)を診断されたことのある人は、診断されたことのない人に比べて、

最終的に認知症を発症する率が約4倍(統合失調症などの精神病では6倍)にもなること、

逆に認知症になった人のなかで、精神疾患のある人は、認知症発症が5-6年早いことがわかったそうです[Richmond-Raker et als. 2022;Wallis

2022]。

 

  精神科治療薬の長期服用が関連している可能性もおそらく考えないといけませんが、

まずそれ以前に、両者の遺伝的な危険因子の共有の可能性が強くあるとみられ、

現にアルツハイマー病に関連する遺伝子マーカーと、双極性障害・大うつ病に関連する遺伝子マーカーが部分的に重なっていることが

近年判明しているようです[Richmond-Raker et als. 2022]。

むしろ重要な危険因子と考えられるのは、精神疾患に伴なう長期的なストレスの方で、

長期的ストレスによる海馬の損傷はすでによく言及されてきましたが、

もっと一般的に精神疾患の患者は「認知的予備力」(cognitive reserve)が小さく、

ストレスでシナプス結合が減少したところに加齢による喪失が加わると、ほどなく認知症症状が現われるといいます[Wallis 2022]。

またこれらの患者では、運動不足や過剰飲酒、社会的つながりの困難なども多く、これらも危険因子として見逃せません。

 

 ちなみに「認知的予備力」とは、脳に認知症に相当する病変があるにもかかわらず、認知症の明らかな症状がないような場合、

その脳の損傷を相殺し、通常どおりに機能し、生きている間は病気の症状を示さずにすむ、脳の余分な力をいいます。

認知的予備力が高い人は、認知症やパーキンソン病、多発性硬化症、脳卒中などの症状をよりよく防ぐことができ、

ストレス、手術、環境中の毒素など予期しないライフイベントにさらされた場合にも、より長く機能するのに役立ちます。

若いうちに創造的な趣味や社会参加、運動などをしていると、このように老後の認知機能の維持に役立つといわれています。

 

 つまりは精神疾患そのものが問題というよりも、精神疾患患者が生活上抱えるさまざまな問題が認知症の危険因子として欠かせないわけで、

イギリスのLancet誌が主導する「認知症予防委員会」(Commission on dementia prevention)は、2020年に、社会がそうした危険因子のうち、

12の「修正可能な危険因子」(うつ病、粗末な社会的支援、教育水準の低さなど)にもっと適切に対処するのであれば、

認知症10例のうち4例までを未然に防げるか、または発症を遅らせることができると推算しているとのことです[Wallis 2022]。

 

つまり認知症は、精神疾患を持つ人々に社会が十分に受け入れないことの結果としても、多分に発症する疾患なのです。

 

<文献>

Richmond-Rakerd, L. S., D’Souza, S., Milne, B. J., Caspi, A. & Moffit, T. E.,2022  Longitudinal Associations of Mental Disorders With Dementia : 30-Year Analysis of 1.7 Million

    New Zealand Citizens, in JAMA Psychiatry, vol. 79, no.4, pp.333-40.

Wallis, C., 2022 Mental Illness and Dementia, in Scientific American, vol.327, no.1, p.25. =編集部訳、2023「心の病と認知症――精神疾患が認知症のリスクを高める理由が

    判明」『日経サイエンス』第53巻1号、p.29。

 

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スマホ認知症

2022-12-22 17:11:19 | 健康・病と医療

ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2022年12月21日 11時20分 より転載。

 

医師で医療ジャーナリストの森田豊氏が12月14日、ニッポン放送「モーニングライフアップ 今日の早起きドクター」に出演し、

「スマホ認知症」について解説したとのこと。

 

スマホユーザーの6割が物忘れに悩まされている ~30代にも忍び寄るスマホ認知症

飯田浩司アナウンサー)今回はスマホによる認知症についてですが。

森田)「スマホ認知症」という言葉が巷で有名になってきていまして、30代にも忍び寄るとされています。

新行市佳アナウンサー)30代にも、ですか?

森田)スマホユーザーの約6割が「物忘れなどが深刻になった」と回答しているデータもあるようです。将来、アミロイドβ(ベータ)という老化物質が

 たまりやすくなって、「本当の認知症に発展しやすいのではないか」という報告も出てきています。

飯田)30代だと新行アナウンサーも他人事ではない。

新行)他人事ではないですよね。

スマホを使いすぎると情報過多になり、脳が疲労して思い出す能力が衰える ~脳のなかがゴミ屋敷状態に

飯田)どうしてスマホの使いすぎが物忘れにつながるのですか?

森田)スマホを使いすぎると、脳への情報過多の状態になります。特に脳の前頭前野で処理できないほどの情報が入ってくると、脳が疲れてしまうのです。

 脳の疲れが深刻化すると、新たな情報を取り込んだり、また情報を取り出す、すなわち思い出す働きが衰える状態になると考えられています。

飯田)情報過多になって。

森田)さらに、脳が疲れすぎるとミスが増えたり、睡眠トラブルなどが出ることも報告されています。スマホ認知症の原因の2つは、自分の脳をあまり使わず、

 スマホばかりに頼ること。またスマホからの過剰な情報収集、インプット量が多すぎることに原因があるとされています。脳の情報収集、インプット量が多すぎると、

 頭のなかがゴミ屋敷のような状態になってしまいます。

飯田)ゴミ屋敷。

森田)どこに何の情報があるのかわからなくなってしまって、必要なものを取り出せなくなるのです。それで物忘れが激しくなってしまう。

 

「スマホ認知症」になりやすい人の特徴

飯田)スマホ認知症になりやすい人のチェックリストはありますか?

森田)「こんな人は危ない」という5つのリストをまとめてみました。

 ベッドのなかでもスマホを見ている。

 トイレにもスマホを持って行く。 

 LINEやメールのほとんどの返信を受信から1時間以内にしている。

 最近、漢字を思い出せなくなった。

飯田)わかります。

森田)テレビを観ていても出演者の名前が出てこない……

 有名な人は思い出せるのですが、コメンテーターや専門家など、テレビに毎日出ないような人の名前がどうしても出てこない。

飯田)自分は4つ当てはまりました。

新行)私もそれぐらい当てはまりますね。

デジタルデトックスのすすめ

新行)スマホ認知症にならないための対策を教えていただけますか?

森田)スマホを使わない時間を決めることが大事です。「デジタルデトックス」……デジタルを解毒するということが最近言われつつあります。

飯田)デジタルデトックス。

森田)その他、食事のときはスマホを触らない。寝る1時間くらい前から、スマホは絶対に見ない。朝起きてすぐにスマホをチェックしないなどのルールを、

 自分のなかでつくるしかないと思います。

新行)意識して遠ざけないと、つい使ってしまいますね。

森田)私も寝る1時間前からは、遠くに置くようにしています。

 

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コロナ増悪を抑制する漢方薬処方

2022-12-08 17:53:23 | 健康・病と医療

軽症および中等症Iの新型コロナウイルス感染症の患者に対し、

葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏を追加投与すると、

発熱症状が早期に緩和し、呼吸不全への増悪リスクが低くなることが、

東北大学ほかの研究グループによる多施設共同ランダム化比較試験で明らかになったそうです。

 

<原著論文> 

Takayama, S., 2022  Multicenter, randomized controlled trial of traditional Japanese medicine, kakkonto with shosaikotokakikyosekko, for mild and moderate coronavirus

disease patients, in Frontiers in pharmacology, vol.13;1008946. pii: 1008946.

 

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