Dr. 讃井の集中治療のススメ

集中治療+αの話題をつれづれに

肺動脈カテーテルは不滅です(1)

2011-06-20 07:24:38 | 循環
 好評発売中の雑誌Intensivist4月号の中のコラム「肺動脈カテーテル(PAC)必要説:やはり肺動脈カテーテルは集中治療に必要である」の「冒頭の意地悪な質問」に対する答えを知りたい、とおっしゃる方がたくさんいらっしゃるので、簡単にお答えします。異論・反論あるかたはまたコメントいただければさいわいです(論の展開上、問題の順番を少し変えました)。
 学習のための文献として恐らく最も参考になるのは、
1) Pulmonary Artery Catheter Education Project (PACEP) http://www.pacep.org/pages/start/ref.html?xin=sccm

血行動態モニタリングおよび管理の基本に関して非常に丁寧に解説してくれています。英語解説もわかりやすいですし(キャプションつき!!)、リスニングの練習のためにも是非どうぞ(ただし登録が必要です)。
 その他、おなじみの
2) UpToDateのPulmonary artery catheterization: Interpretation of tracings

3) 麻酔科の教科書Miller‘s Anesthesia(図がきれいで各種の波形の解説がわかりやすい)

4) MarinoのICU book

などでこと足りるでしょう。
 原稿の中でも述べましたが、肺動脈カテーテルは絶滅危惧種に指定されています。しかし、病態によって、あるいはPiCCOなどの他の血行動態モニタリングモニタリングが使用できないときあるいは信頼度が劣るときには、活躍する場が残されていると信じたい。そのためには正確な使い方を知る必要がありそうです。
 考えようによっては、心拍出量ばかりでなく、SvO2で酸素需給バランスもわかり、ペーシングもできる(待望のSvO2持続測定機能つきのペーシングサーモも上梓されるようです。その良さがわかるドクターが少なからずいるということですね)。こんな高度なあわせワザはなかなか他のモニターにはできません。
 というわけで正しい使用法を学びましょう。

Q1: 肺動脈楔入圧(PAOP)を測定する際に、呼吸サイクルのどのタイミングで測定すべきか? 吸気時か呼気時か? その開始期か終末期か? なぜそのタイミングで測定すべきなのか?

 呼吸サイクルの中の測定タイミングは、呼気終末と決まっています。これは呼吸による胸腔内圧の変化の影響を最も受けにくい時点であると考えられるからです。通常の自然呼吸では吸気につづいて呼気が起こりますが、その後次の吸気が始まるまで何もしていない時間があるはずです(自分で自分の呼吸を感じてみればわかりますよね)。この時期すなわち呼気終末で、最も胸腔内圧が基準点、すなわち自然呼吸(通常のサポートのない自発呼吸)ではゼロ(大気圧)に近づく時点ということが出来ます。
 自然呼吸の場合には吸気時に胸腔内圧がより陰圧になりますので、PAOP波形トレースは低下します。呼気には上昇します。したがって自然呼吸の場合、呼気終末はPAOP波形トレースが低下し始める直前の時点を同定すればよい、ということになります。
 逆に機械(陽圧)換気の場合には吸気時に胸腔内圧がより陽圧になるので、PAOP波形トレースは上がります。呼気には低下します。したがって、呼気終末はPAOP波形トレースが上昇し始める直前の時点ということになります。

Q2: ベッドサイドでPAOPのa波、c波、v波、x谷、y谷を同定できるか、また、生理的、病的になぜそのような波形を生じるか説明できるか?

a波:心室拡張末期の心房収縮によって作られる陽性の波(atrialのa)
c波:収縮期開始時の僧帽弁の閉鎖によって作られる小さい陽性の波(closureのc)
v波:心室収縮期に肺静脈から心房への血液の流入によってできる陽性のノッチ(vetrivcleのv)
x谷:a波、c波につづく下行脚。心房の弛緩に一致する
y谷:v波につづく圧の低下。僧帽弁の開放にともなって心室への急速流入によってできる

はご存知と思います。

PAOP波形の特徴、時相、病的意義をいくつか箇条書きにしますと、
・平均のPAOPは平均肺動脈圧より低い。高いときは何らかの異常。
・基本的にはCVP波形と同一
・ただし、CVP波形は時相がPAOPよりも早い。すなわち、CVPのa波はEKG上のP波の比較的すぐ後(PとQRSの間)に出現するが、PAOPのa波はQRSの終わりぐらいに出現する。これはPAOPは左房圧の反映でそれだけ距離があるので遅れるからである
・通常の洞調律ではa波が最も顕著。

a波が消失する場合
・心房細動
・房室結節リズム
・心室ペーシング、心室リズム(これらは正確に言うとa波が消失するわけではなく、正常な時相に出現しなくなるという意味ですね)

巨大a波
・僧帽弁狭窄
・心室コンプライアンス低下
・III度房室ブロック、房室解離(は、タイミングがずれて心房収縮が僧帽弁が閉鎖された状態で起こるために生じます)

巨大v波
・僧帽弁閉鎖不全
・急性心筋虚血

などはいずれも有名ですね。

Q3: PAOPを測定する際に、心周期のどのタイミングで測定すべきか?
 PAOPを測定することで最終的に推測したいのは左室拡張末期圧(LVEDP)ですよね。本当は、左室拡張末期容量(LVEDV)を知りたいのだが肺動脈カテーテルでは知ることができない。圧と容量とのある程度あるであろう相関関係を利用し、LVEDPを推測し、LVEDVを推測したいというわけです。ここにPAOPの大きな限界の一つがあるわけですが、それは後ほど。
 では、左室拡張末期はいつかというと心房の収縮後、僧帽弁の閉鎖の直前(正確にはzポイント:a波とc波の間。左室圧の立ち上がりの傾きが変わる点でEKGのQ波の50msec後、R波あたり)ということになります。しかしPAOP波形から推定するときには慣習的に、a波の平均値をLVEDPを推定するためのPAOP値として代表させています。ただし、a波が消失していたり巨大な場合には、左室拡張末期圧を最も良く反映するポイントとしてQRS波の終了時を代用し、測定ポイントとします。
 多くのベッドサイドモニターは、正確なPAOP測定が行えるように専用画面が存在します。それを利用しましょう。しかし、多くの場合、モニター画面に自動表示されるPAOP平均値とあんまり変わりなかったりする(1~2mmHgしか違わない)のも事実です。

続きは次回に。