〈反〉知的独占 ―特許と著作権の経済学 | |
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エヌティティ出版 |
この本は、特許と著作権が、過去の歴史を参照し、イノベーションの促進に貢献した事実はなく、むしろ、有害であるとの認識を元に、発明と著作物について、特許と著作権という形で独占権を与えることに疑問を呈するものです。
確かに、歴史的は、知的財産法がなくとも、各種の発明・表現の創造がなされてきたことは事実なので、知的財産法がイノベーションに必須のものではないことは明らかです。また、一部の技術分野について、知的財産法がイノベーションを阻害する結果をもたらしていることも、この本が挙げる例が適切であるか否かは別として、ある程度事実であると思います。
しかし、この本にマハラップの言として引用されているように、「特許制度はすでにずっと昔からあるので、われわれの現在の知識に基づいて、その廃止を提言するのも無責任」であるといえます(344ページ)。そして、この本の著者らも、「いきなり知的財産法を廃止したら、耐えがたいほど大規模な二次的被害が生じかねない」と述べています(346ページ)。
ちまたでは、この本が、「知的財産法の全面廃止」を訴えていると思われているようですが、少なくとも、即時の「全面廃止」を訴えているものではありません。著者らの真意は分かりませんが、筆者は、このテキストは、イノベーションの源泉が「自由な競争」にあるとの認識を前提としつつ、特許と著作権の保護範囲等の拡大等に警鐘をならす一方、フェアユースの拡大、同時発見・独立発見の抗弁、強制ライセンスの拡大などの方策により(366ページ)、自由と独占の適切なバランスを模索しようとするものと読み取りました。
知的財産権の保護が重要であることは当然であり、そのための政策も必要ですが、そうであるからこそ、いわゆるパテント・トロールの問題や新規IT関連ビジネスと著作権との関係など、イノベーションの促進という観点から、知的財産権の限界も論じられるべき課題であると思います。本テキストに散りばめられた事例や込められたメッセージは、かかる思考の一助となり得るものです。
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