本書は、ノーベル経済学賞受賞者のスティグリッツが、2008年以降の大不況の状況を踏まえて、経済学の論争、危機の原因、学ぶべき教訓について述べたものです。
内容としては、ラジャンの「フォールト・ライン」と重複する側面がありますが、「フォールト・ライン」が政治的問題に力点があるのに対し、本書は経済学的問題に力点があるという相違があります。
両者が共通して指摘することとして、「ゆがんだインセンティブ」の問題があります(221ページ:原著151ページ)。すなわち、投資銀行のバンカーは、業績が良いときにはボーナスをもらいつつ、業績が悪化した場合も、政府の救済策等の結果、一定の報酬を確保するという問題です。これは、僕の関心事の職発明制度の抱える問題にも通じることです。
また、本書は、一貫して、市場と政府の役割分担(バランス)の重要性を指摘しています(6ページ、292ページ)。その考え方の背後には、市場の失敗(独占、情報の欠陥、外部性)は例外ではなく、常態であるというケインズ的発想があります。リーマンの破綻によりフリードマンを始祖とする市場原理主義は崩壊し(束縛を解かれた市場は独力で経済的成長と繁栄を確実にするという考え:309ページ:原著P209)、完璧な政府が存在しないように完璧な市場は存在しないことが明らかとなり、「中庸」の経済学が求められているのでしょう。
それでは具体的に政府は何をするべきなのか。これは、その国々の状況に左右されますが、本書は、完全雇用の達成、イノベーションの促進、社会的保護と保険制度の提供、搾取の防止をあげています(285ページ以下:原著P200以下)。この指摘は、日本経済に対する処方箋を考える際にも参考になるでしょう。
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