知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

営業秘密

2011-03-14 21:19:39 | 不正競争防止法

1 営業秘密の定義

不正競争防止法(以下「不競法」といいます。)においては、営業秘密に対する一定の類型の侵害行為について、営業秘密の保有者に対し、差止請求権および損害賠償請求権が与えられています(不競法2条1項4号ないし9号、3条、4条)。それでは法にいう営業秘密とはどのような概念でしょうか。この点、不競法2条1項4号は、営業秘密を「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう」と定義しています。この条文の解釈として、一般に、法にいう営業秘密といえるための要件は、①秘密として管理されていること(以下「秘密管理」といいます。)、②事業活動に有用であること(以下「有用性」といいます。)、③公然と知られていないこと(以下「非公知性」といいます。)の3つであるといわれています。

2 秘密管理

秘密管理の要件を充足するためには、従業員、外部者から、客観的に秘密として管理されている状態にあることが必要です。具体的には、当該情報にアクセスできる者が制限されていること(アクセスの制限)、または、当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることが認識できるようにされていることが必要です。そして、秘密管理の要件の趣旨を、情報の利用者に対して保護されている情報か否かの識別を容易にすることにあると解すると、秘密管理の要件を充足しているか否かは、不正手段を用いて秘密を取得しようとする者等が秘密であると認識しうる程度に管理されているか否かがメルクマールとなります。従って、秘密管理の要件は相対的な概念となります。例えば、外部からの侵入者に対しては、秘密書類を机の引き出しに入れておくだけで秘密管理としては十分であるものの、内部者に対しては、マル秘マークを付すなどして、自由に閲覧可能な他の書類と区別できるようにしておくことが必要となる場合があります(多数の裁判例を紹介するものとして、有斐閣「不正競争法概説〔第2版〕田村善之」330頁参照)。

 

3 有用性

有用性の要件の趣旨は、事業者の有する秘密であればどのようなものでも保護されるというのではなく、保護されることに一定の社会的意義と必要性のあるものに保護の対象を限定することにあると解されます。従って、脱税の方法等を教示する情報又は覚せい剤等の禁制品の製造方法を示すような公序良俗に反する内容の秘密は、有用性がないものとされます(前掲田村336頁参照)。

 

4 非公知性

非公知性の要件の趣旨は、一般に知られてしまった情報(公知の情報)に営業秘密としての保護を与えることは、情報の自由な流通を妨げるため妥当でないということにあると解されます。ここで、公知の情報の組み合わせであっても、その組み合わせが知られていないために財産的価値があるものは、非公知性の要件を充足します。また、第三者に開示されている情報であっても、当該第三者に秘密保持義務が課されている場合には、非公知性は失われません。さらに、リバース・エンジニアリングによって当該情報を探知できる場合も、非公知性の要件を充足します(前掲田村333頁参照)。

 

 


コメントを投稿